LINKED CITYの全容に迫る④ リゾベーションを新たな働き方に提唱
2021年11月5日(金) 配信
国際観光施設協会(鈴木裕会長)の旅館観光地分科会(川村晃一郎分科会長)は今年3月、観光型スマートシティ「LINKED CITY」構築に向け研究会を発足した。地域資源とAI、IoTデジタルオープンプラットフォームによる事業インキュベーションで雇用を創出。都市と地域、地域と地域をつなげることで分散型社会の構築を実現させることが狙い。
今回は地域が抱える課題解決や地域創生につなげるために、地元の人や自治体とともに取り組む地域資源の掘り起こしの活動に迫る。
柏尾:私が育った北海道帯広市は、中心市街地の空洞化現象とモータリゼーション(車社会化)による問題を抱えています。昔は帯広駅周辺が働く場所や住民も集中する中心市街地でしたが、自動車の普及で住民が拡散し、中心市街地の空洞化が深刻になっています。
そこで人生の折り返しとも言える40代を迎えたのを機に、空洞化に苦しむ地元の中心市街地再生に取り込み始めました。
地元の仲間と十勝地方の魅力を発信する映画制作から始まり、「HOTEL NUPKA(ホテルヌプカ)」を開業。ホテルに訪れるゲスト向けにクラフトビールも作りました。そこから、ホテル自体の立ち上げからの構想である「街全体をホテルに」のコンセプトを具体的なカタチにするプロジェクトとして、夜の街を馬車で巡る「馬車BAR」を始めました。
結果、これらの取り組みは昨年10月、地域総合整備財団(ふるさと財団)の「ふるさと企業大賞(総務大臣賞)」を受賞したことで、地元内外にも認知されつつある状況にまで至りました。
岡村:私は京都府京都市の五条通で、働く環境の総合商社と銘打った会社を経営・運営しています。人の価値・個性を引き出して、そのような多様な人を混じり合わせて新たな価値を生み出させるお手伝いをする会社です。企業や組織、社会、イベントを始め、地域に人が集まり共創が生まれる拠点を作り、関係人口を増やして地域創生につなげるため、地域の資産と掛け合わせた価値創造に取り込んでいます。
現在は丹後地域の京都府・与謝野町で、料亭だった場所を共創が生まれる拠点づくりの場にするためのプロジェクトを展開しています。丹後に人を集めるため、ものづくり系や体験型のツアー・研修の場として活用できるように、リノベーションを進めています。課題解決やイノベーション、創発を生み出すような場を目指しています。
これに宿泊の機能は設けませんが、地域の宿泊施設とタイアップするなど、新たな共創が生まれることが想定できます。
柏尾:地域の中で色々なことを実現しても、地域内での人の移動にとどまるのであれば生まれる変化に限界があります。外から人が来ないところに盛り上がりは生まれません。そこで、私はホテル内に宿泊ゲストと地元の人に開かれたカフェやイベントスペースを設けました。ここでの交流から生まれる盛り上がりがホテル集客の起点になり、宿泊につながるようになりました。
冒頭に話した馬車BARも同様で、宿泊につながる入口となっています。ところがこの馬車BAR事業は、元もとイベントで来てくれた地元のお客様からの提案でした。街に開かれた人の集まる施設にすることで、地元の人からの提案が生まれるのです。
岡村: 人が集まってくるような街づくりの場にするには、我われ中小企業の経営と同じように、コンセプトを尖らせることが重要と考えます。
柏尾:とくに今後は、人の活動空間・能力に対しテクノロジーを活用して拡張し、地域資源を付加価値の高いカタチに表現することがカギになってくると見ています。そのうえで、「地域の外、世界とまちをつなぐ」という動線のつなぎ方で新しい地域の可能性が生まれていくと思います。
こうした考え方と「ワーケーション」は深くつながっていると思っています。ただし、ワーケーションが働く場所を移動するだけで、価値創造を変化させないのであればあまり意味がないと思います。私は「リゾート」「ワーケーション」に「イノベーション」を合わせた造語「リゾベーション」を、地方滞在の新たな働き方として提唱しています。ただの滞在ではなく、地域の人と積極的に交流して、新たな価値を生み出してほしいと考えています。
岡村:確かに今人気が高いワーケーションは、バケーション要素が強い。そうなるとバケーション要素の強い地域のワーケーションしか残らなくなります。丹後地域の場合、西陣織の下請け産地として京都に残り続ける限り、繊維の技術資産も残り続けます。丹後の技術や繊維、産物などの結び付きをワーケーションで訪れた人の会社の資産や仕事に結び付くようなものが良いでしょう。
川村:ビジネスとつなげていくというのは、ある意味この資本主義社会で一番分かりやすい。ビジネスとして資産になるのであれば、会社はワーケーションの場として活用するでしょう。
岡村:また、地域にとって何をやっているのかより、誰がやっているかが大事です。行政に関してもサポートしてくれるところに人が集まります。面白いことをする人たちをサポートする体制が、官民で上手くとれることが一番で、そこがポイントだと思います。
川村:あとはそれをどう仕組み化していくか、ちゃんとビジネスの座組みの中に持っていくかが、今後の大きな課題になっていくと思います。