“多様化で世界取り込め”、急増する国際観光人口、デービッド・アトキンソン氏
世界観光機関(UNWTO)によると、2015年の国際観光客到達数は14年から5千万人増の11億8400万人となった。「新・観光立国論」の著者、デービッド・アトキンソン氏は、急増する世界の観光市場のなかで、訪日観光客は2030年までに8200万人に到達できる潜在能力があると評価する。一方で、観光の「多様性の実現」が進まず、世界の旅行者を取り込めていないとも指摘する。1月26日、東京都内で開かれた同書の山本七平賞受賞を記念した同氏の講演の内容を紹介する。
【丁田 徹也】
デービッド・アトキンソン氏は「日本の観光の潜在能力について分析したところ、2020年に5600万人、30年に8200万人が訪れるだけの力を秘めていることがわかった」とし、「世界の観光人口は約11億3300万人(14年)で、このうちの5%弱の市場が取れる計算だ。UNWTOは30年までに世界の観光客が18億人に増えると試算しており、現在その予測を上回るペースで増加している」と語った。
8200万人の潜在能力は「シェアが5%弱から4・5%まで下がると仮定したうえでの分析で、極めて保守的な数字」としている。15年に訪日外国人1973万人を達成したばかりだが、「伸び代はまだ充分にあり、日本の観光で取り組めていない『多様性の実現』でさらに上のステージに進める」と強調した。
まず取り掛かるべき多様化は「国」とした。14年の国際観光客11億3300万人のうち、最も大きな市場は欧州で、5億7500万人を占める。次いでアジアが2億6800万人、米州の1億9千万人と続く。アジア2億6800万人市場のうち、日本のシェアは4・2%の1113万人を占めるが、訪日客のうち中国・韓国・台湾の3カ国が60%以上を占めており、「多様性が実現できているとは言えない」と指摘し、これから狙うべきは最も大きな市場の欧州とした。「国際観光市場の半分が欧州でありながら、日本には欧州から108万人しか来ていないところを見ると、最大のチャンスは欧州にある。海外市場はインバウンドの半分が近隣諸国から来ているので、8200万人の訪日客のうち4千万人をアジアの近隣国から、残り半分を欧州から来てもらうとバランスが良い」と語る。
米州については、「日本は割とフォーカスしてきたが、市場が1億9千万人と欧州に比べて小さく、南米から米国への観光など内部での移動が多いため、外部への移動が約9千万人しかない。米国はパスポート取得が先進国のなかでも少ないということも関係しているだろう」と分析する。
「国の多様化」が実現すると、次は「目的の多様化」の段階に移る。訪日観光は現在“買い物”が象徴的だが、観光は“スポーツ”や“文化”“農業”など多くの楽しみ方があり、「東京や大阪に買い物客が集中しているが『目的の多様化』が実現されると、例えば“文化”面で京都や奈良、和歌山などに観光の可能性が広がる」と強調した。
「ハード・ソフトとその価格の多様化も重要」と語る。「欧州の文化財は平均入場料1980円だが、日本は平均で593円。1980円に慣れている欧州の観光客を取り込むならば、価格設定を考え直すと良い。イギリス・バッキンガム宮殿は約3千―6700円と幅のある入場料を5種設定しており、料金が高くなると説明のグレードも上がりガイドも付く」というものだ。
「『発信の多様化』も求められるようになる」という。「日本の海外PRは日本人目線のアピールが多く、文化に頼りすぎる傾向があった。よく桜をPRしているが、1週間も咲くかわからない桜を全面的に出すことで『桜が咲く期間以外は見どころが無い』というメッセージを間接的に送っている危険性もある」とした。「春夏秋冬・東西南北の魅力についても考えるべきで、食べ物についても“和食”だけでなくさまざまな日本の食があることに留意すべき。世界72億人の属性の数だけ発信すべき情報はあるのに、あまりに文化に偏っていると、文化が好きな観光客しか来なくなる」。
最後に「日本はいい国ですよと抽象的なPRをするのではなく、国・所属・趣味・目的・滞在期間・費用を分析し、より専門的にビジネスの感覚を取り入れることでPRの効果が高く表れる」と語った。