旅館のニーズ「18%」 ― 一律のサービスを強要していないか
3月1日に開かれた第2回観光産業革新検討会で、宿泊産業の生産性向上や、人材不足への対応などが話し合われた。
このなかで、興味深い資料も配布された。「日本人の国内旅行における旅館ニーズ」に関して、今年2月に日経リサーチが調査したところ、最も利用することが多い宿泊施設では「ホテル」が75%と、全体の4分の3を占めた。2番目の「旅館」は18%という結果となった。
ホテルに次いで2番目であるが、この18%という数字は微妙な感じである。残念ながら積極的に選ばれているという印象は薄い。旅館を選ばなかった理由については、「値段が高い(割高に感じる)から」が32・1%でトップ。「行きたい場所に予算に見合った(好みに合った)旅館がないから」が16・8%と続く。
そして、注目すべきは「仲居さんが部屋に入ってくるのがイヤだから」が14・2%と、3番目に多い結果となったことだ。
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このほかにも、「和室や布団がイヤだから」(13・8%)や、「食事が選べない」(9・3%)、「朝食・夕食は不要だから」(7・0%)、「チェックアウト時間、食事の時間などの融通が利かないから」(6・7%)など、旅館ならではの特徴やシステムが「選ばない理由」の上位を占めている。おそらく、「旅館の都合を旅行者に強要している」部分が、窮屈に感じられるのだと思う。
私は旅館が大好きなのだが、時折「サービスの強要」を感じることもある。
スタッフが旅行者の荷物を持って客室でお茶を入れてくれることあるが、このサービスを望む層と、「無い方がいい」と感じる層に分かれるのではないか。私自身もフロントでルームキーをもらうと、あとは自分1人で客室に入りたいと思うタイプだ。スタッフが荷物を持って客室まで持っていくサービスを望むお客には、準備ができるまでロビーでお茶のサービスをしながらご案内すれば大変に喜ばれるだろう。いつも案内を求めるリピーターであっても「今日はいいよ、ロビーで少し寛いで、あとは自分で客室に行くから」という客もいるかもしれない。「お客様が望んだ場合には、対応できる用意がある」という柔軟なスタンスの方が旅行者にとっても、気が楽だ。
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一律のサービスは、ロボット的である。お客の表情や到着時間などを考慮しながら、「お部屋までお荷物をお持ちしましょうか?」と要望を聞く。このように旅行者ごとに対応するスタンスに変えた方が、人によるサービスの価値を「感謝」として感じてもらえる機会が増えるだろうし、チェックインのピーク時での対応も余裕が生まれる。外国人旅行者が旅館に宿泊する機会が増えているが、一方的なサービスの押しつけではなく、日本人の旅行者以上に、そのサービスが必要かどうかを確認した方が軋轢も少ないだろう。
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旅館のスタッフが客室に入ることを厭う傾向がこの数年、さらに強くなっているように感じる。一方で、スタッフが客室に入らなくても十分におもてなしを感じられる宿はたくさんある。客室のスタッフの姿は見えないが、すごく綺麗に清掃されているすがすがしい客室に宿の心を感じるものだ。
案外、自分たちが良かれと思っていたことが、旅行者に煩わしく思われているかもしれない。
(編集長・増田 剛)