【特集 No.480】新春対談・民泊元年によせて 予算は「人」にこそ配分すべき
2018年1月11日(木) 配信
住宅宿泊事業法(民泊法)が6月に施行される。都市部で規制が進む一方、誘客と消費額増に生かそうと、プラットフォーマーとの提携に手を上げる地方行政も出てきた。今回はその是非から一度離れ、地域に人とカネをもたらす手段として「民泊」を捉えたいと考えた。勝瀬博則氏(パソナ)と上山康博氏(百戦錬磨)はそれぞれ、大手OTA(オンライン旅行会社)を経て、イベント民泊や合法民泊、農泊の推進に携わってきた。地域は今、何をし、何をしないべきか?一歩踏み込んだ対談を届ける。
【司会進行・構成=謝 谷楓】
――いよいよ今年、住宅宿泊事業法(民泊法)が施行となります。違法民泊の問題をはじめ、昨年は宿泊する「場所」の側面に光が当たりがちでした。
上山:違法民泊の淘汰により、物件数は一時減少するはずです。宿泊提供日数の180日規制により、都心部の不在型は運営が厳しくなるからです。
「人」の魅力に着目した観光コンテンツの創出が、地方で民泊を運営する際には、重要となっていくと見ています。
勝瀬:同感ですね。提供日数の制約がネックとなり、都心部で部屋を借りての運営は割に合いません。一方、居住する自宅が舞台の、滞在型民泊の持つ可能性は大きいと考えます。不動産の価値だけでなく、人と人のつながりにも目を向けるべきだということです。
――詳しく教えてください。
勝瀬:今後は地域に住む「人」とその取り組みがコンテンツをつくっていくこととなります。場所ではなく、「人」が旅の重要なコンテンツになりはじめています。アイドルグループAKB48が良い例です。秋葉原でスタートしたものの、栄や難波、博多など、場所を問わず成功を収めてきました。「人」の持つ魅力に関心を抱き、握手会やコンサートにリピーターが集まっているのです。
地域に住む一人ひとりが主役となる、劇場型の観光がこれからの本流です。行って帰ってくるだけの、消費される場所で終わってはいけません。
上山:観光地を磨き上げるという言葉を良く耳にしますが、人間同士のコミュニケーションを通じた摩擦がなければ輝きは望めません。外国人旅行者の視点を取り入れることも重要です。地方行政の皆さんにはぜひ、地域住民個人が活躍するステージ(舞台)として民泊を捉えてほしいと思います。
勝瀬:大型の観光施設が誘客に役立つことは否定しませんが、場所の磨き上げは差別化につながりにくいのが現実です。代えのきかない「人」に焦点を据えることが必要です。地域をPRする動画の作成がムーブメントとなっていますが、地域住民を前面に押し出す工夫が求められます。この地域にはこんな人がいるのだということを広め、ユニークな取り組みを行う「人」の発信を助ける。そういう役割を、地方行政には担ってほしいですね。
――地方で民泊を成功させるキーワードは、「人」のようです。
勝瀬:昨年8月、徳島市の阿波踊りでイベント民泊に携わりました。ホストとゲストの多様な交流を目の当たりにして、「人」がこれからの観光の主役だということを実感した次第です。
地元住民の知恵とネットワークを活用すれば、新しいスタイルの地域体験を提供できるはずです。オープンマインドの方が多いのも特徴でした。地域住民と交流したい外国人旅行者の取り込みも見込めます。
「人」に焦点を据えることは、住民の取り組みに予算を配分することを意味します。観光コンテンツの企画に携わってもらい、適切な判断のもと、予算をつけるべきです。
上山:過剰投資を抑えるためにも、有効なことです。補助金や交付金など、お金をかけずにどれだけ成果を出せるか。儲ける仕組みをつくり、補助金や交付金を無駄にしない姿勢を、地方行政は一層強く求められていますから。
民泊法や新しい通訳案内士法の施行など、ルールが変わる今をチャンスと捉え、地域のために本腰を入れてほしいですね。…
※詳細は本紙1699号または1月17日以降日経テレコン21でお読みいただけます。