〈旬刊旅行新聞1月1日号コラム〉日本の最近の観光政策 高い目標達成へ「足りないもの」を投入
2019年12月31日(火) 配信
2013年9月7日に、アルゼンチン・ブエノスアイレスで開かれたIOC(国際オリンピック委員会)の総会で、東京が20年夏季オリンピック開催都市に決まった。そのときは、「7年先なんて遠い未来の出来事」のように感じたが、あっという間に年月が流れた。13年といえば、訪日外国人旅行者数が1036万4千人と、初めて1千万人を突破した年だ。
「2020東京五輪」は1つの国家的な目標として準備が進められてきた。今年は集大成の年となる。膨らみ続ける、莫大な予算をかけたプロジェクトの成功を祈るしかない。
パラリンピックも開催されるため、東京だけでなく、日本各地で「ユニバーサルデザイン」の考え方が広く普及してほしいと願う。旅行者にも、そして住んでいる人たちにも心地よい空間が広がればいいと思う。
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年末の12月7日、菅義偉官房長官が訪日外国人旅行者の受入強化に向けて、新たな経済対策に盛り込んだ融資制度を活用して「世界レベルの高級ホテルを50カ所程度新設することを目指す」旨を発表した。
訪日外国人の富裕層向けの“ラグジュアリーホテル”が日本には不足しているというのだ。これは国として、やや踏み込み過ぎではないかと感じた。
20年までに訪日外国人旅行者数4千万人、訪日外国人による消費額8兆円が国の目標である。高めの目標値を達成するために、「現状では足りないもの」をどんどん投入していくという手法が、今の日本の観光政策だ。「地道にいいまちを作り上げていった結果、世界中の観光客を魅了していった」取り組みとは、プロセスが異なる。
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JTBがこのほど発表した「20年の旅行動向見通し」によると、19年の訪日外国人旅行者数は3180万人、20年は3430万人と試算している。国が目標とする4千万人には到底足りない数値だ。だからといって、なりふり構わずに「数値の目標達成第一主義」に邁進してほしくはない。
4千万人を無理矢理に達成させようとすれば、時間をかけてまちを育てていく意識が低くなる。現場の軋みも大きくなる。13年に訪日外国人旅行者1千万人突破から、わずか7年で4倍の4千万人を受け入れるのは、性急過ぎる気がする。
訪日外国人旅行者数の急成長と、消費額拡大を急ピッチで追いかける姿は、裏返してみると、相当に国内の旅行市場がやせ細り、衰退していることを証明している。いや、国内の旅行市場だけならいいが、地域を維持する力が予想を超えて低下しているのだと思う。
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今も都市部を中心に宿泊施設の新設ラッシュが続いている。夏には五輪は終わるが、訪日外国人旅行者を急激な右肩上がりで伸ばしていくことが、政府の目標である。10年後の30年には、現状の約2倍の6千万人の訪日外国人旅行者の受け入れを目指していく。先すぼみの国内旅行市場を育てるよりも、「裕福な外国人旅行者にお金を落としてもらう」ことを優先にする。手っ取り早く、即効性は期待できるかもしれないが、真の観光立国に育つことはないと危惧する。
東京オリンピックが開催される夏は、日本中熱気に包まれるだろう。しかし、真価が問われるのは「祭りのあと」だ。冷静な目を失わないことが大事な年になる。
(編集長・増田 剛)