【特集No.554】アグリツーリズムで地域活性化 宿泊客には体験と周遊促す
2020年5月29日(金) 配信
ヨーロッパでは、宿泊客に地元農産品や体験コンテンツなどを提供する「アグリツーリズム」を呼び水に、地方への誘客に成功している。背景として教育水準を高め補助制度を充実させることにより、経営者の破綻を防いでいることが挙げられる。新型コロナウイルス収束後の新しい集客方法として、アグリツーリズムに詳しい食総合プロデューサーの金丸弘美氏に、イタリアで視察したアグリツーリズムによる地域活性化の現状をはじめ、集客に成功した理由、日本で展開するための提言など話を聞いた。
【木下 裕斗】
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□手厚い支援で“地方誘客”成功
農業で観光振興20年間で倍増
アグリツーリズムとは、「農家の宿泊」と「体験コンテンツの提供」に加え、町への周遊促進をはかる旅のスタイルだ。
イタリア語で農業を表す「Agricoltura」と、観光の「Tourismo」からできた造語「Agriturismo」を英語にしたもの。アグリツーリズムを実施する農家は1996年に約1万軒だったが、20年後の2017年には、約2万4千軒と大幅に増加している。
背景として「アグリツーリズムが特産品の売上増加と観光振興に貢献することが多くの人に知れ渡り、移住と定住につながったから」と金丸氏は考察する。
体験は近隣を利用料理も町の飲食店で
体験コンテンツでは、宿泊施設が近隣のワインやパン作りなどを紹介。各施設ができるプログラムや、地元特産品などの素晴らしさ、美味しさについて細かく、解説を行う。観光客は商品知識を得たことや、訪問の記念などに、特産品を購入していく。
紹介する内容は町全体で共有され、農家や自治体関係者など誰もが案内できる。併せて、特産品に対する町の想いも伝える。これによって、安定して地元の農産物や特産品の売上も大きく増加し、地域経済に貢献できるようになった。
イタリアのほか、フランスとドイツのアグリツーリズムを実施する多くの宿泊施設は、夕食や朝食などの料理を提供しないのが一般的。これは、町の飲食店やマルシェ(市場)への周遊を促し、地域全体を活性化させることが目的だからだ。
平均の宿泊料は70~100ユーロ(約8223~1万1746円)。素泊まりだと30~40ユーロ(約3524~4698円)というところもあり、比較的廉価だ。
ローマから数時間ホテルより快適
金丸氏は今年2月22日(土)~3月4日(水)まで、イタリア北東部のエミリア=ロマーニャ州でアグリツーリズムを学ぶインターンシップに参加した。コーディネーターは中央大学法学部の工藤裕子教授で、メンバーは同大学のゼミ学生のほか約20人。一行はローマからバスで数時間かけて同農場の近くまで行き、小型バスに乗り換え、1時間ほどで到着した。
日本では、農家の住居に宿泊する簡易民泊が多い。イタリアでは農家の住居と離れた場所に泊まるスタイルが主流。キッチンやトイレ、ベッド、シャワーなども備えており、「日本のシティホテル以上に快適に過ごすことができる」(金丸氏)という。
日本は時季限定イタリアは通年
日本の農家民泊は約1500軒で、簡易民泊は2千軒。南信州観光公社(長野県飯田市)や長崎県松浦市の青島などで、修学旅行の一環として行うことが中心だ。このため、日本の場合は客単価が低く、時季も限られる。一方、イタリアでは年間を通じて一般客を集客する仕組み作りに成功している。……
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