2021年度は33%減の460億円要求へ 観光再生と新たな展開目指す 観光庁予算概算要求
2020年9月25日(金) 配信
観光庁は2021年度予算の概算要求で、前年度予算比33%減となる460億570万円を求めた。このうち、一般会計は167億5700万円、東北復興枠は3億円と前年度予算並みを要求。税収が減少した国際観光旅客税(出国税)を活用した観光施策の展開には、290億円(同43%減)を計上した。観光の再生と新たな展開として、主な事項要求に「働き方改革とも合致した『新たな旅のスタイル』の普及・定着」など3点を求めた。【馬場 遥】
21年度予算はなるべく簡略化する目的で、要求額は基本的に対前年度同額とし、そのうえで、新型コロナウイルス感染症への対応や緊要な経費については、上限額なしの「事項要求」として、別途所要の要望を行うことができる。今後の感染状況や観光需要の動向なども踏まえ、国際観光旅客税の歳入見通しも考慮し、年末に向けて予算編成過程で検討する。
観光庁はこの枠組みのなかで、感染症・自然災害などで大きな打撃を受けた観光産業の事業継続や雇用維持に「引き続き全力を尽くす」と、支援を続ける意向を示した。そのうえで、金額を示さない「事項要求」で、地域経済を支える観光の再生に係る取り組み・支援や、インバウンド再開を見据えた取り組み、その他必要な施策について増額を求めた。
このほど示した3点以外の追加事項要求について、観光庁総務課の野口透良企画官は、「Go Toキャンペーンに充てられた予算は1・35兆円となる。始まってまだ2カ月ということもあり、まずはこれを使い切っていくのが至上命題」との考えを示した。
出国税は例年では前年度4~3月の出国者実績で算出している。例年の算出方法を踏襲しながらも、新型コロナ感染拡大による渡航制限でインバウンドが99・9%減という現状を鑑み、昨年8月~今年7月までの出国者数(約2900万人)で算出した。
21年度の出国税を充当する予算に関しては、既存政策の財源の単なる穴埋めをするのではなく、①受益と負担の関係から負担者の納得が得られる②先進性が高く費用対効果が高い取り組み③地方創生を始めとする日本が直面する重要な政策課題に合致する――の3点を基本的な考え方とした。
具体的な施策・事業については、硬直的な予算配分とならず、毎年度洗い替えが行えるように、観光戦略実行推進会議において、民間の有識者の意見を踏まえつつ検討を行い、予算を編成する。
□税制特別支援措置 運輸局と求める
今回観光庁独自の税制改正要求はなく、運輸局ともに、新型コロナ感染拡大によって需要減となった観光業・交通運輸関係業界に対して、税制特別支援措置を求める。
施策の背景として、貸切バスは運送収入が前年同月で7割減となった事業者が84%、航空業界は国際線輸送人員が97%減となった。宿泊業界においては、売上が前年同月5割減となった事業者が61%にのぼり、80%を超える事業者・施設が資金繰り支援を活用した。
このことから、今後とも税制支援措置などを活用した資金繰り対策が必要不可欠として、資金繰り対策に資する所要の措置を要望した。
事項要求の3本柱
□観光再生・新展開へ 新しい旅のスタイル
新たな施策イメージとして、「働き方改革とも合致した『新たな旅のスタイル』の普及・促進」を挙げた。
民間企業において長期休暇が取得しづらい、特定の時期に一斉に休暇を取得する、宿泊日数が短い――などの問題点を挙げ、特定の時期や場所に集中して混雑や密が生じやすかった旅行需要の平準化を目指す。
テレワークの普及も踏まえて、リゾート地や温泉地などで余暇を楽しみつつ仕事を行うワーケーションや、出張などの機械を活用し出張先で滞在を延長するなどして余暇を楽しむブレジャー、企業や団体の本拠から離れたところに設置されたオフィスで仕事を行うサテライトオフィスなどの普及も促進させ、より多くの旅行機会を創出する。
□DXでサービス変革観光需要の創出目指す
デジタル技術と観光資源の融合で、従来の形に捉われない新しい観光コンテンツ・価値を生み出し、「DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進による観光サービスの変革と観光需要の創出」を実現する。
オンライン空間上でのツアーを通じて観光地の情報収集や消費の機会を提供する。
高精度測位技術(位置情報などに使用される)や5Gなどのデジタル技術を複合的に活用し、文化芸術や自然などの既存の観光資源を磨き上げ、新しい観光コンテンツや価値の創出を目指す。
観光エリアの経営・マネジメントの変革も行う。ホテルの部屋の施錠やショッピングに顔認証を活用し、鍵や財布を持たない「手ぶら観光」を提案する。また、予約・購買・行動などに関するビッグデータの利活用拡大などの可能性を調査する。
□宿・地域・事業者が連携し新たなビジネス
宿泊施設を核とした、地域における新たな観光ビジネス展開を支援する。
宿泊施設の取り組みとして、ゆったりと過ごせる客室や3密を避けた露天風呂付き客室の改修プランを作成し、高付加価値化を促す。
非接触型チェックインシステムや、飲食スペース・大浴場などの混雑状況を見える化し、先進的な感染症対策を行う。
ワーケーション体制整備の改修などを支援する。
これらの取り組みで宿泊施設の魅力を向上させ、誘客増を目指す。
宿泊施設、地域施設、旅行会社、交通事業者などがそれぞれ連携した、宿泊客がワンストップで多様な選択肢の中からさまざまな地域の魅力を選べる観光体験の提供を支援する。
地域においての長期滞在を実現するための新たな観光ビジネス展開を促す考えだ。
□前年度に続き訪日プロモにも注力する
観光庁は、戦略的な訪日プロモーション施策では、8300万円の内数(JNTO運営費交付金)を計上した。
新型コロナの収束を見極めつつ、2030年訪日外国人旅行者数6千万人などの達成に向けて、感染収束後の旅行動態の変化を見据えた取り組みを支援する。また、訪日客回復に向けた既存のプロモーションを強化する。
なお、予定していた訪日プロモーションについて、入出国を伴う事業は来年度以降に延期(交付金は繰り越し)する。オンラインで実施できる事業などは、感染状況を確認しながら開催か延期の判断をしていく予定。
教育旅行を通じた青少年の国際交流も、世界的な感染拡大の影響を受けているが、再開・回復に向けた取り組みを支援する必要があるとして、予算に300万円を要求した。
訪日外国人旅行者受入環境整備に対し、多言語翻訳システム機器や無料Wi-Fiサービスの提供拡大、キャッシュレス決済の普及、バリアフリー化の推進などを進めていくとして、5620万円を計上した。
サーモグラフィーや非接触体温計の導入などで、感染症対策において地方自治体、DMO、宿泊施設が行った先進的な取り組みはモデル事業として支援する。
観光統計の整備は、「観光施策の企画・立案のために極めて重要」(同庁)として、前年と同額の653万円を求めた。都道府県や、さらに詳細な地域レベルの旅行者数などを把握することで、地方への誘客や消費の拡大など、地方創生に資する観光施策への展開を行う。
日本人の旅行に関する意識調査も行い、旅行需要が減少するなかで、需要回復期にその勢いをより一層加速させる施策を行うため、定点観測により旅行に関する意向の変化を明らかにする。
□観光振興推進と災害に定員要求
▽「新たな旅のスタイル」の普及・促進事務
本庁2人
▽「新たな旅のスタイル」に合わせた魅力的な滞在型コンテンツ造成のための事務体制
本庁1人、各地方運輸局10人
▽災害・感染症対策事務
本庁2人、運輸局9人
▽訪日外国人旅行者の安全対策事務
本庁1人、運輸局1人
▽改正バリアフリー法の成立に伴う事務体制構築
本庁3人
▽宿泊施設の再生・再建及び投資促進に向けた事務
本庁1人