経済効果は1億円超も 星空保護区認定「地域の誇りに」 ダークスカイツーリズムシンポジウム
2020年11月19日(木) 配信
10月29日~11月1日に開催された「ツーリズムEXPOジャパン 旅の祭典in沖縄」では、2日目に3つのシンポジウムが開かれた。そのなかの1つ、「ダークスカイツーリズム(星空観光)シンポジウム」(主催:石垣市、竹富町、国際ダークスカイ協会東京支部など)は、2018年3月に日本で初めて「星空保護区」に認定された沖縄県・八重山諸島への効果について、基調講演とパネルディスカッションが行われた。 【入江 千恵子】
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「星空保護区」認定された年の八重山諸島の経済効果は9800万円以上にのぼり、新規客層の獲得や閑散期誘客のほか、宿泊増加、夜間の就業機会創出など、星空観光旅行価値と地域振興が多方面に及ぶことなどを紹介した。
八重山諸島の星空が美しいと言われる理由には、21個の1等星すべてを観測できる、88ある星座のうち84星座を観測できる、ジェット気流の影響が少なく、星が瞬くことなく見ることができる――などが挙げられる。また、12~6月には、南十字星が観測できる。
国際ダークスカイ協会東京支部代表で東洋大学准教授の越智信彰氏は、星空保護区認定に関連する光害(ひかりがい)について、「過剰な人工照明は人間だけでなく、エネルギーの浪費や動物の生育など、さまざまな悪影響を引き起こす」と説明。そのうえで、星空保護区認定制度は「美しい星空を保全するための取り組みを世界基準で評価するもの。星空がきれいなだけでなく、地域の人々が星空保護の重要性を理解し、保護に取り組む。認定を取ることは、地域にとっての誇りになるのでは」と述べた。
□五感を研ぎ澄ます 近場でも満天の星
パネルディスカッションでは、モデレーターに越智伸彰氏が、パネリストには、星空H2O八重山地域振興会代表理事の友利恵子氏、環境省西表自然保護官事務所自然保護官の竹中康進氏が登壇し、ニュージーランドTEKAPO ダークスカイ プロジェクトディレクターの小澤英之氏がオンラインで参加した。
星の魅力について、友利氏は「星空ツアーの参加者は、暗闇で聴覚や嗅覚が研ぎ澄まされる。波の音でリラックスしたり、生き物の鳴き声に敏感になったり、植物の香りをかいだりして、星を見ながら『地球の夜』を全身で感じて楽しんでいるように見える」と述べた。また、ほとんどの参加者が「国内でこれほど美しい星空が見られる場所があることに感動する」という。
竹中氏は「以前の赴任先の北海道もきれいだったが、西表島は庭先から満天の星が見ることができて驚いた。今では9歳と6歳の子供も星空に興味を持つようになった」と話し、遠くまで移動する必要がないことを紹介した。
小澤氏は、自身がガイドを務めるニュージーランドでの星空ツアー参加者について「年配の人は星を見ながら人生を振り返っている人が多いように思う。若い人たちは生き生きしている。お客様それぞれの星との向き合い方を大事にできたらと思っている」と述べた。
越智氏は、石垣市と竹富町が行ったアンケート調査結果を紹介。星空保護区に認定された18年の星空ツアー予約実績を事業者にたずねたところ、回答した9社10店舗の経済効果は9828万9000円で、予約数は2万7749人だったことが分かった。「実際には、星空ツアー事業者は20社ほどあり、ツアー以外にも宿泊や物品購入など、さまざまな経済効果をもたらしていることが予想される」と述べ、効果は1億円以上にのぼる可能性を示唆した。
□大都市も申請可能 条例制定がカギに
基調講演は、国際ダークスカイ協会のアダム・ダルトン氏がビデオメッセージを寄せた。ダルトン氏は、認定前に「照明器具改修の必要がある」と述べ、色温度や光りの向きの調整、点灯制御などの基準があると説明した。保護区への申請は、小さい村落や、東京のような大都市も可能だが、質の良い屋外照明条例の施行、照明改修の実績、教育啓発活動やモニタリングの実施が必要だとし、「条例を制定できることが重要な条件」とアドバイスした。
星空観光における海外での効果については、米国のミズーリ州立大学の研究を紹介。コロラド高原(ユタ州・コロラド州・アリゾナ州・ニューメキシコ州)の国立公園を訪れる観光客の消費額は、10年間で25億㌦(日本円で約2612億5000万円)が見込まれることが明らかになったという。
全体への波及効果は、5万人の雇用創出と17億㌦(日本円で約1776億5000万円)の経済効果を創出。1グループの消費額は1日当たり90㌦(日本円で約9405円)だったのが、270~390㌦(日本円で約2万8215円~4万755円)まで増加すると報告した。