「津田令子のにっぽん風土記(70)」ふるさとへの想いとコロナ禍で思う事~ 東京都国立市編 ~
2021年2月28日(日) 配信
一橋大学や東京女子体育大学があり東京郊外の文教都市としても有名で、アニメ映画や小説の舞台にもなっている東京都国立市。国立駅から歩いて2分の地に、NHK学園くにたちオープンスクールでスクール長を務める池崎千鶴さんの勤務先はある。「教養や趣味を楽しみ仲間と出会える場として、文化や情報発信の一翼を担っています。教室での講座やトレッキング、街歩きなどの現地講座の開講も含め、私はスクールの運営のいわば舵取り役でしょうか」とおっしゃる。
生まれは香川県坂出市。「香川といえばうどんを真っ先に思い浮かべる方も多いと思いますが、瀬戸内海に面していて穏やかな気候で遡ると崇徳上皇が島流しにされた悲しい歴史もあるんですよ」。
坂出で暮らしていたのは、生まれてから3歳までと小学4年生から高校卒業まで。途中、父の転勤で岡山県や茨城県で過ごした時期も。大学入学以来、今に至るまで東京に居を構えているが、年に1度の坂出への帰省を欠かすことはない。
「私にとって、ふるさとは、東京駅を出発するところから始まります。今でも懐かしく思い出すのは、東京―高松(香川)間を運行する寝台特急『サンライズ瀬戸』で帰省したときのこと」と目を輝かす。10年前、入院中の母の看護のため仕事の合間を縫って週末ごとに東京と坂出を行き来することになった際に、頻繁に寝台特急を利用したという。
「当時はカーテンで区切られただけの1畳分の座席を利用していました。あの時に感じた列車の揺れや、車窓から見える静まり返った街の明かりとともに、心細さと母への心配の入り混じった、じれったいような気持ちまで甦ります」。池崎さんは「朝早く坂出駅に降り立ったときの、ふるさとに帰ったというあの安堵はいまだに忘れることはないですね」と感慨深げに語る。
オフシーズンの伊豆に惹かれるという池崎さん。「閑散期の観光地ならではの町の静かな雰囲気と、ゆったりとした時間の流れに心が洗われます」。
「コロナ禍では、不要不急という言葉が声高に論じられることが多くなり、改めてカルチャースクールの持つ意義を見つめ直す1年でした」と振り返る。カルチャースクールは不要不急なのだろうかと自問自答が続いているという池崎さんは、「私たちが豊かに生きるために必要なものなのではないでしょうか。人が人らしく生きることを応援できる世の中に早く戻ってほしいと願っています」と話す。
津田 令子 氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。