「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(122) 創客を実現する感謝の想い サービスを感謝に乗せて
2021年3月12日(金) 配信
その光景は北国での冬の寒い日のことでした。今でも、私の強烈な記憶として永く残っています。それは路線バスで移動している時のことです。バス会社の営業所近くのバス停で、バスの運転手が交代しました。
「こちらで運転を代わります」と車内アナウンスがあり前を見ると、その運転手が通路の真ん中に立ち、客席に向かって帽子を取り、丁寧にお辞儀をしてあいさつをしたのです。その後、バスを降りて待っていた新しい運転手と引継ぎをしていました。
交代した運転手も同じように、客席に向かってあいさつをして運転席に座りました。これだけの行動でしたが、路線バスのイメージを大きく変えるその行動に、感動すら覚えたのです。
路線バスは地元利用者の移動を支える大切な公共交通機関ですが、残念ながらそのサービスにはお叱りの声もたくさん寄せられていると聞きます。私自身も車内で利用者が運転士を怒鳴る声を何度も聞いたことがあります。
そのなかには、乗客の理不尽な声もありますが、逆におもてなしの「お」の字も感じられない、不甲斐ない運転手に出会うことも度々あります。ただ、毎日のように叱られていたら、運転手がお客様の声にバリアを張りたい気持ちも分からないでもありません。
運転手も人の子です。お客様から叱られ、会社では上司から責められたら、やる気を失くしても仕方がないと思います。
嬉しい行動には正しい評価を伝えて、気持ちの良い地域の足を共に創っていくことが必要です。北国で体験した運転手交代のあいさつは、運転手からの感謝と一緒により良い公共交通を創って行きたいというメッセージです。
メッセージをどのように受け止めるかは、私たち自身がサービス提供者として働く姿を変えていくヒントになるかもしれません。
北国の路線バスでは、さらに私を感動させる光景に出会いました。新しい運転手のバスが出発したときです。何気なく前を見ていると、先ほど交代した運転手がその場に留まり、出発したバスに手を振っていたのです。
これがいつものことか、たまたまだったのか、その運転手だけの行動か、あるいは、みんなで取り組んでいるのかは分かりません。ただ、思わず手を振り返したのは、私だけではありませんでした。
毎日、お客様に利用いただけるのが「当たり前」ではないことを、コロナ禍の中で私たちは思い知らされました。感謝の想いを伝える行動をこれまで以上に大切にして、想いを込めて実行しましょう。「ここで良かった」と確信していただくことが創客を実現するのです。
コラムニスト紹介
西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。