「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(123) 花より「根っこ」 地域の中で生きる人財
4月を迎えても、コロナ禍の厳しい状況は変わりません。先行きが見通せず、新卒採用を見送る企業が多いなかで、未来を見据えて新しいスタッフを迎えたところもあります。この「ひと」は、地域や業界にとっても大切な「人財」です。
ある日、我が家の前にある桜の樹を見上げると、たくさんの蕾のなかに20輪程の花が咲いていました。見上げる桜は美しく、多くの人が笑顔になります。
ただ、この花を来年も変わらずより美しく咲かせるためには、大地に張った強い根っこが大切です。
私は「ひと」の教育も同じだと思います。接客評価が高い他社の行動を教えるだけでは駄目です。中小企業が新入社員も大切な即戦力として、やるべき型だけを教えて「後は仕事をしながら学べ」と現場に送り出すやり方が、実は社員の早い離職を生み出す原因にもなっています。
重要なのは何をしたかではなく、何のためにその行動を取るのかという、仕事に対する目標と自信をしっかりと持たせることです。「おもてなし」を提供する人には、宿泊施設や業界内といった狭い世界だけでなく、異業種も含めてより広い現場で実行される「おもてなし」に興味を持つことが、一番大切なことです。
まずは、ひとりのお客様として、そうした現場で「おもてなし」を体験することです。その積み重ねが、間違いなく良いおもてなしをキャッチする、アンテナの感度を高めていきます。
また、すべてのスタッフが体験した優れたおもてなし事例を集めて、より多く知ることが大切です。さらに、それを自らの仕事に置き換える「転換力」も必要となります。
先日に利用したタクシーでは、支払いのクレジットカードをドライバーが身体ごと私の方に向けて両手で受け取ってくれる、という体験をしました。
大事なことは、その瞬間にそれが素晴らしい行動だと感じ取るかどうかです。何気なくサービスを受けていると、気付かないかもしれません。
それに気付けば、お客様から預かる大切なクレジットカードを、カウンターの上に置いたりしないよう、自らの仕事にも置き替えて、おもてなし考動を高めて行くのです。
その考動が、チェックイン時であれば、これから始まる滞在への期待感を高めることであり、チェックアウト時であれば最後の印象をより良いものに変える行動なのです。
さらに、これからのビジネスで重要なことは、それぞれの地域が元気でなければならないということです。皆さんがそれぞれの企業で活躍するだけでなく、地域の中で仕事をしていることを強く意識しての人財育成が求められているのです
コラムニスト紹介
西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。