No.579 座談会「ウィズコロナ時代の観光地形成」 ロケツーリズムでまちづくり
2021年4月16日(金)配信
ウィズコロナ時代の観光は、個人が関心の高い場所に赴くようになるなど、旅への興味が大きな変化を遂げるといわれている。
また、移動が制限されるなか、居住地域の近くで観光を楽しむ動きも加速している。
「何もない場所」が観光地になると注目されるロケツーリズム。情報バラエティ番組が多くロケに訪れる神奈川県・湯河原町の冨田幸宏町長と、ロケツーリズムを推進する山田実希氏、木庭清美氏が、観光庁の片山敏宏参事官(取材時)とロケツーリズムを活用したウィズコロナ時代の観光やまちづくりについて話し合った。
――神奈川県・湯河原町は、今多くの情報バラエティ番組の撮影が行われているとお聞きしました。
冨田:2020年8月からロケ誘致をスタートし、5カ月で情報バラエティ番組など14番組のロケが行われました。決定率も63・6%と高い数字が残せ、反響にとても驚いています。
町民からも、「自分たちのまちがテレビに映りうれしい」という声を聞きます。また、放送後に問い合わせが増えた店舗などもあり、テレビの影響の大きさも実感しました。
――年々、自治体関係者らのロケツーリズムへの注目が高まっているように感じます。ロケ情報誌「ロケーションジャパン」の山田編集長は、地域がロケを誘致するメリットはどこにあると思われますか。
山田:ロケツーリズムとは、「映画・ドラマのロケ地を訪ね風景と食を堪能し、人々のおもてなしに触れ、その地域のファンになってもらう」ことです。
ロケ地になることの利点は、何気ない風景でも、ファンにとっては特別な場所になるということです。
――「ロケツーリズム協議会」では、毎年自治体関係者や企業、映像制作者が一堂に会しロケ誘致に向けた情報交換を活発に行っています。木庭事務局長の目から見て、コロナ禍で自治体のロケ誘致への熱量に変化を感じていますか。
木庭:コロナ禍だからこそ、自治体の「ロケ誘致」熱は高まり続けています。
どの地域もいいモノがあり、資源の磨き上げも行っているのに知られていないから来てもらえないという悩みを抱えるなか、最後の発信に効果的なのが「ロケツーリズム」です。
今はとくに、テレビの情報バラエティ番組を誘致したいという声が多いですね。
――一方で、コロナ禍で、観光の在り方も変化を求められています。観光庁では今の観光の現状をどのように見ていますか。
片山:ウィズコロナ時代の観光は3密になるということで、「コミュニケーションを取ってはいけない」、「未知の人と会ってはいけない」と言われています。これは、観光にとって非常に致命的なことです。
また、旅の醍醐味である混雑している場所に行くこともできませんし、飲食時の感染リスクが大きいということで食の楽しみもなくなるなど、旅自体の魅力が否定されています。
こうした状況下で、観光産業全体が沈んでいくのは構造的に非常に危ないという問題意識を持っています。
――3密を避けるなどの対策が必要ななかでも、自治体が情報バラエティ番組を誘致したい理由はどこにありますか。
山田:情報バラエティ番組のメリットは、即効性です。番組に出るときに地名や店名もそのまま放送されるので、翌日には観光客が訪れることもあります。
旅番組や情報バラエティ番組は、誘客力が強い一方、少人数のロケで地域側が知らない間に撮影が完了し、放送されていることが多く、これまでは観光振興につながっていませんでした。しかし、撮影できる地域が少なくなり、制作隊も事前に一本化された自治体の窓口に連絡することが増えました。これにより、観光への仕掛けができる地域が増えているように思います。
もう一つ重要なことは、「テレビ番組に出た場所は安心・安全」な場所ということです。
なぜなら、そういった場所でないとロケもできなければ、放送もできないからです。コロナ禍で旅先での安全に消費者が目を向けるなかで、こうした裏付けを発信できることも、地域にとっての利点ではないでしょうか。
併せて、これまでの地域のロケ実績を掘り起こし、観光資源として活用することができれば、人を地域内で分散させることが可能なので、よりしっかりと安全対策も行えると思います。
【全文は、本紙1829号または4月23日(金)以降、日経テレコン21でお読みいただけます。】