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「提言!これからの日本観光」 ワーケーション考

2021年5月30日(日) 配信

 「ワーケーション」という新しい働き方が提唱されている。「ワーケーション」とは“WORK(仕事)”と“VACATION(余暇活動)”を合わせた造語だ。普段余暇を楽しむ場所を仕事場にする新しい働き方の提案である。

 コロナ渦を動機として、自宅やこれまでの職場に拘ることなく、積極的に余暇を楽しむリゾート地などに移動し、滞在して、リモート方式などで仕事をすることで、都会の過密と混雑を避ける。そのうえ、仕事の能率も上げようというコロナ渦時代にふさわしい働き方改革と言えよう。

 同時にこの動きをさらに進めて2地域居住(自宅と新職場所在地)や新職場への移住も実現して、人口減少に悩む地域の再活性化もはかれるという幅広い効果まで考えられ、時宜を得た提案と考えられていた。

 しかし最近、ワーケーション候補地として、熱心に誘致活動をしている有名観光地などの資料を見て、疑問を持たざるを得なくなった。

 有名観光地の見事な海岸の景色が展望できる施設、しかも大ガラス張りの窓側に海に面した横長の机が置かれている。机の前のイスに客が海に面して横並びに座っている。そして、コンピューターを置き、書類を前に仕事をしている。

 そこで疑問を持ったのは、このような素晴らしい1日眺めても飽きないような景色を前にして果たして仕事や勉強に専念できるのか。また、せっかくの観光地の素晴らしい景色を充分味わって体得するなど観光効果が充分に得られるのかどうかという疑念がある。

 つまり、仕事と観光の両方が中途半端に終わる心配である。

 観光地がワーケーション誘致に努力するのも理解できる。しかし、「観光」とは地域の「光」を「心を込めて」観ることと定義されている文化行動でもある。「観光」に力を入れるほど、仕事への集中力は落ちると思う。

 具体的には、私のように海に接していない県の出身で、海への憧れのようなものを持っている人は、見事な眺望を楽しめる場所でのワーケーションは仕事と景色に集中できない時間の浪費になるのではと考えてしまう。

 即ち、ワーケーションは「観光」とは一線を画すものといえよう。ワーケーションは仕事に集中できる季節や適地などを各個人の性格に合わせて選ぶことが望ましい。その結果として観光地が選ばれるとしても、観光地が前述のような写真を掲げて誘致するようなものではないと思われる。むしろ仕事にふさわしい気象条件と医療・教育を含む生活環境、集中できる場所の情報が発信されるべきであろう。

 ワーケーションという新語に惑わされることなく、非日常的な場所で毎日の通勤から解放され、仕事をする適地を選ぶという考え方で臨む必要がある。ワーケーションが気持ちを集中すべき行動でもある「観光」と混同されているのでは、観光の効果や発展などが期待できないと思うことは筆者の杞憂なのだろうか。

須田 寛

 

日本商工会議所 観光専門委員会 委員

 
須田 寬 氏
 
 
 
 

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