「提言!これからの日本観光」 観光統計の“緊急事態”
2021年6月20日(日) 配信
毎年、前年度の統計が出そろって発表されるころになると“観光統計”について、いくつか気になる点がある。観光庁が設置された約10年前、観光事業に携わるものとして「永年の懸案が実現した」と大きい期待を寄せていたことを思い出す。
同庁発足時の重点施策のひとつに“観光統計”の「整備」があった。省庁の重点施策に統計の整備が掲げられることは珍しい。また、新しい役所の発足にあたり統計整備が掲げられたことは当時、“観光統計”の整備が遅れていたことを意味する。それだけに、関係者は統計の完成に大きな期待を持ち、自らも努力してきた。
同庁は発足直後に、観光客数の「集計基準」を策定している。各都道府県に同基準を通知して数値をまとめることとした。「同基準」はこれまで、複数回改定し、現在に至っている。これで日本の総観光客数も判明するはずだった。
しかし、この基準による集計に「応じない」、または調査しても「集計中」などとし、毎年の公表時に自県の状況を発表しない府県が数カ所に及ぶ。このほか、観光統計のなかには「自治体によって集計方法が異なるので比較できない」と注記されているものも存在する。
このため、同統計は現在でも、完成されておらず、国内総観光客数も把握できていない。外国人の観光目標数値は入管統計などから推計している。このうち、外国人入国者数は明示されるが、邦人観光客は示されていない状況が続いている。
筆者は各地域が全国統一の「基準」である同統計の集計方法で、調査することが必要だと思う。なぜ、各府県は「同基準」による統計を取らないのか。また、数値の同時期公表を拒否するのであろうか。
もし、国の「共通基準」が採用できないなら、その理由と「共通基準」での集計を公表したうえで、自地域が正確と考える別手法による数値を併記するなどして、統計を完成させるべきではないか。
コロナ禍で国内観光が未曾有の打撃を受けている現在こそ、地域別入込客数統計で地域別の影響度を把握するべきである。今後、客数の変移から地域別の復元状況も明らかにしなければならない。
なぜなら、前者における数値の把握・分析結果が、それぞれの地域がコロナ禍後、観光復元への施策を策定するうえで、貴重な指針になると思う。
さらに後者からは今後、観光需要を回復するためのフォローアップの情報が得られると考えるからである。
また、災害時に地域別入込客数の推計や、国内観光客数の推移が定量的に把握できないことは、観光の復元や新しい観光客受入態勢を整備するための貴重な指針が得られないことを意味している。極言するならば現在の統計末整備は観光統計にとって“緊急事態”と考えざるを得ないと思う。
一刻も早く関係統計の完備を願うこと切なるものがある。
日本商工会議所 観光専門委員会 委員