「観光人文学への遡航(39)」 生成AI全盛の世の中で観光を生きる
2023年9月30日(土) 配信
最近とくに業界の大先輩の方々から、ChatGPTが今後さらに普及していったら旅行業・観光関連産業はどうなってしまうのか、島川君の意見が聞きたいとよく聞かれるようになった。
結論から言うと、私はあまり心配をしていない。ただ、ChatGPTなどの生成AI全盛時代になったとき、今の人材募集・人材教育と同じでは、多くのマンパワーが生成AIに取って代わられる。観光は新たな物差し(といってもこれは別に新しくもなんともないのだが)で人を採用していく必要がある。
生成AIの強みはもうあらゆるところで喧伝されているから、生成AIの弱みをここに挙げる。その弱みを押さえておけば、何も怖いものはない。
そもそもAIは統計である。最近は、文字を入力したら、予想で漢字変換してくれたり、次につながる文章が自動的に提示されたりするが、これがAI技術の根本である。膨大なデータの中で、次に来るものを確率論的に予想する。だから、文字で入力して文字で答えてほしいときは、文字に書かれたものでしか判断ができない。
膨大なデータから瞬時に引き出してくるから、その出典が分からない。だからその内容の真偽について、責任を取らない。それがわかっているから、ChatGPTに入力すると、これは一つの意見であり……云々と最初から逃げを打つ。これって人間でも賢いと言われる人がよくやる手口だ。批判を受けそうなものには、最初から逃げを打っておく。大学教員や官僚はほとんどこの生き方だ。
また、ユーモアや楽しさ、遊び心がびっくりするほどない。ChatGPTに面白いことを言ってくださいと入力しても、何度やっても全然面白くない。人を面白がらせるというのは、どうやらかなり高等テクのようだ。そして言わずもがな、体温がないし、情熱もない。
ここまで書いていて感じた。ヒトの生き方も、AIに影響されて、知らず知らずのうちにそちら側に引き込まれていないだろうか。
AIが最も得意とする超膨大なデータベースから瞬時に引き出してくる超高速情報発見力、これは読解力ではない。共通テストの改革からも、今の学力テストが深い読解力ではなく、超高速情報発見力に傾斜してきているが、高速情報発見力はAIには勝てない。
AI全盛の時代に生き残るには同じ土俵で勝負するのではなく、絶対に違う土俵で勝負するべきなのだ。
同傾向と予想された「あなたらしい人」ではなく、ユーモア、楽しさ、遊び心、寄り添う心で、目の前の「あなた」に迫ること。
AIに取って代わられて無くなるのは、「AI時代に無くなる業種はこれだ」と偉そうに予想するコンサルだ。旅行業が最近味を占めた公共コンサルの真似事をしても、その未来は短い。
神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏
1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。