2024年11月15日(金) 配信
日本ケアフィット共育機構(畑中稔代表理事)は11月1日(金)、同機構の東京共育センター(千代田区)でサービス介助士25周年特別記念シンポジウムを開いた。DXの普及であらゆる産業の無人化や省人化が推進され、有人サービスの希少性が高まるなか、AIやロボットでは対応できないサービス介助士だからこそ提供できる持続可能な付加価値を探った。
高齢者や障害のある人など多様な人が暮らすなか、同機構は1999年11月から、誰もが積極的に参加・貢献していくことができる社会の実現に向けて、おもてなしと安全な介助技術のプロフェッショナルであるサービス介助士の認定を行っている。
シンポジウムの冒頭、オリエンタルランドCS推進部バリアフリープロデューサーの野口浩一氏が「東京ディズニーリゾートのユニバーサルデザイン」をテーマに、講演を行った。
野口氏は、83年の東京ディズニーランド開園前に招いた多くの地域住民が見慣れない景色を眺めながら歩いたため、段差に躓いて転んだことを語った。このため、「すべての人が下を向いてなくても躓かないパークを目指した安全対策がバリアフリーの始まりだった」と振り返った。
その後、西部開拓時代などテーマ性を追求したエリアへのエレベーター設置は、テーマ性を最優先したため、公共施設にあるような設備と比較すると、使いづらいさや分かりづらさは否めかった」と説明した。
開園後、一部アトラクションの並ぶ場所が狭く一緒に列に並ぶことができないため、車いすを利用する障害のある方を列には並ばせず優先的に案内していた。
そうしたなか、優先入場に対し疑問を抱くゲストやキャストが増え社内関係者で検討を繰り返し。「各施設の並ぶ場所の改修工事(拡幅)を実施するなどして、優先入場は2001年に廃止された。以降、列に並べるゲストは並び、長時間待つことが困難な障害のある方は負担のないように、別の場所で時間を費やしてもらい、症状によってはすぐ案内している」とした。
併せて、すべての人が平等公平にパークを楽しめよう、ユニバーサルデザイにも取り組み始めた。具体的には、視覚障害のある方(全盲)はキャラクターの体型、背丈、着ている服などが分からないことから、キャラクターのシルエットを細かく表現したキャラクタースケールモデルを制作した。
さらに、車いす使用者にもショーを楽しんでもらうため、東京ディズニーシーでは、視覚的なフラストレーションを払拭するため、水域沿いの一部の手すりが倒れるように工事を行った。
野口氏は「いくつもの最新の設備を導入しても、最後は人が操作する。つまりは「人間力」が最も大切であり、障害のある方に安心して楽しんでいただくためにも、サービス介助士資格取得は、とても大切な手段である」とまとめた。
次に日本航空(JAL)客室本部客室品質企画部人財品質グループの北彩乃氏が登壇。テーマは「誰もが旅を楽しめる社会の実現に向けて、心に寄り添う客室乗務員の取り組みについて」。
北氏は、JALが2021年度、客室乗務員独自の社内資格「JALアクセシビリティアシスタント」を創設したことを紹介。同資格は、誰もが安心し、旅を楽しむことのできる機内環境の提供を目指し、創設された。制約の多い機内環境に特化したサポート方法を理解し、実技講習を経て、与えられる。客室乗務員全員が取得を目指しているという。
また、訪日客が増加していることを受けて、英語での介助も行えるよう取り組んできた。
しかし、障害のある方などが必要とする介助は、それぞれ違うため、知識を持ったうえで、お客一人ひとりに心で寄り添うことが欠かせないという。
そのうえで、北氏は「気づき力とお客さまに寄り添う気持ちの双方を持つことで、障害のある方に飛行機での旅をお選びいただくことが出来る」と人によるサポートの意義を語った。
最後に淑徳大学経営学部観光経営学科准教授の白井昭彦氏「共生社会実現に向けてユニバーサルデザインと心のバリアフリーを考える」をテーマに登壇した。
白井氏は、東京都によって行われた都民の生活実態と意識報告書で外出中に困っている障害のある方を見かけて、手助けしなかった人は11年が15・4%、21年は16・9%だったことを紹介。そのうえで、「声を掛けられる人材育成に力を入れている」と述べた。
さらに、アメリカの国立研究所のデータを用いたうえで、「講義では内容の5%ほどしか定着しない」とし、「(白井)ゼミでは75%を体得する体験学習を通じて、90%を身に着けることができる人へのレクチャーを実践している」と話した。白井氏は「お客さまに対する期待以上の接客や、必要なことを先回りして察知することがリピーターにつながる」として、サービス介助士の資格を取得する価値を示した。
パネルディスカッションでは、野口氏と白井氏、JALカスタマー・エクスペリエンス本部CX推進部企画推進グループの徳永すみれ氏が登壇。ファシリテーターは、日本ケアフィット共育機構共育室室長の冨樫正義氏が務めた。
障害のある人へのサポート方法を学ぶことや、人による介助の意義について意見を交わした。
その後の懇親会では、同機構によって運営されているケアフィットファームワイナリー(山梨県甲州市)で製造されたナチュラルワインとオードブルが振る舞われた。同ワイナリーは、あらゆる人たちが、共に働き、学べる場を創造することを目的として設置されている。また、コミュニケーションワークも行われ、参加者は交流を深めた。