苦境から立ち上がった経験――今はその声がほしい(4/21付)

 政府は4月12日、福島第一原発の事故が国際的な事故評価尺度でレベル7(深刻な事故)と認めた。10日に行われた第17回統一地方選挙の2日後という、政府にとっては絶妙なタイミングについて、今後も物議を醸すことは間違いないだろう。 福島県にはたくさんのお世話になった方々がいる。旅行者を迎え入れる観光産業にとって、原発事故は本当に厳しい環境になっている。不安定な事態がこれ以上長引かず、最小限の被害で収まることを祈るしかない。
 政府が「レベル7」を認めたその日、観光庁は「観光で日本を元気に」と、各都道府県知事や観光団体などに発信した。
 きっかけとなったのが、震災発生から1カ月が経過した前日に宮城県の村井嘉浩知事が「被災地が元気になるためには、日本経済全体の元気が必要。全国の皆様には過度に自粛することなく、ぜひ、被災者の分まで経済活動やイベントの開催を積極的に行っていただき、日本全体を盛り上げていただきたい」というメッセージだ。まずは西日本から“元気”を発信して、この国難からの脱出に向けて日本を牽引していってほしい。
 その宮城県は4月11日、「震災復興基本方針」の素案をまとめた。基本理念には「単なる『復旧』ではなく『再構築』」「壊滅的な被害からの復興」などとある。世界中が注目している今回の大災害だ。文字通り「壊滅的な被害」を受けた被災地が地震、津波を乗り越え、どのように再生していくのか、世界に示すチャンスでもある。
 人は、自分が苦しい状況にあるときには、同じ道の先達の話が聞きたいと思う。転倒し、大怪我し、無様な姿を晒し、地獄を見てきたような経験をしながら、そこから這い上がった人の飾りのない声や言葉だ。
 観光業界で、先行きが見えない状況に困惑している人がたくさんいる。新潟県旅館生活衛生同業組合の野澤幸司理事長は、新潟で3年間に2度の震災を受けた。被災者を受け入れた経験や、苦境から復興に向けてどのような活動を行ったか、さまざまな実体験から得た助言ができる。4月上旬には、被災した東北4県の旅館組合の理事長を、全旅連の佐藤信幸会長と共に慰問した。義援金を渡し相談にも応じた。旅館業界にはさまざまな苦境から立ち上がった経験を持つ方々がいる。今はその声がほしい。
(編集長・増田 剛)

成田空港メッセージを募集、震災応援プロジェクト始動

ワードアップメッセージ
ワードアップメッセージ

 成田国際空港は、東日本太平洋沖地震を受け、海外との窓口である成田空港だからこそできることをコンセプトに、「頑張ろう!NIPPON From NARITA AIRPORT」プロジェクトを立ち上げた。第1弾は「NARITAから伝えるエール、そしてありがとう」と題し、ニッポンを応援するメッセージと、海外からの支援に対する感謝のメッセージを一般募集してターミナル内に掲示している。

 メッセージの募集テーマは「被災地でも立ち上がり頑張るニッポン」「希望に満ちたニッポン」「成長していくニッポン」を伝えるものと、海外からの救援隊など、救助のために日本へ来てくれた人たちへ感謝の気持ちを伝えるもの。

 選考されたメッセージは第1旅客ターミナルビルの南ウィングと北ウィング、4階出発ロビーセキュリティ検査後から3階出国審査場に向かうエリア、第2旅客ターミナルビルの本館3階出発ロビー南北セキュリティ検査場前に掲示される。募集期間は5月8日まで。応募はメールとツイッターから。

 メール=oasis@naa.jp、ツイッター=#narita_oasis

国内、海外横断的に、復興プロジェクトWG始動へ

 日本旅行業協会(JATA)はこのほど、東北地方太平洋沖地震による被害に対応するため、「復興プロジェクトワーキンググループ」を立ち上げ、3月29日に第1回の会議を開いた。日本旅行の瀧本勝一常務取締役が座長を務め、国内旅行や海外旅行など各分野を含めて横断的な検討をしていく。

 3月30日の定例会見で、長谷川和芳事務局長は「観光の役割は何かを検討し、協会としてアピールする必要がある」としたうえで、「できることと現実的にできないことの精査をしていく」と語った。また、WGや震災後に開いた各旅行委員会で各社からあがった意見なども報告。「支援する一方、我われが元気をつけることや各国の政府観光局からの激励に応えていこうというトーンの意見が多かった」と紹介した。

 柴田耕介理事長は「国内旅行についていえば、受地の宿泊施設などの営業状況や被害状況などの情報が分かりづらい。会員各社は個別で集計しているが、今回に限らず、情報を集約して会員に発信できるシステムがあるといいという声もあった」と話した。

 また、各社の予約状況や被害状況について集計などは行っていないが、3月の春休み旅行などは相当なキャンセルが発生したという。今後は、被害額などの集計についても検討する。

 なお、JATAが呼び掛けている義援金総額の合計は31日時点で307万3909円。

国宝・姫路城修理を公開、3月26日 見学施設がオープン

姫路城の大天守を覆う素屋根
姫路城の大天守を覆う素屋根

 世界文化遺産の国宝・姫路城(兵庫県姫路市)で行われている大天守大修理のようすを見学できる施設「天空の白鷺」が、3月26日にオープンした。世界文化遺産修理の常時公開は日本初で、2013年度末まで行う予定。工事は14年度末の完了を目指す。

 姫路城は1956年から8年かけて350年に一度という昭和の大修理を行ったが、すでに半世紀が過ぎ大天守の軒や懸魚(げぎょ)の漆喰が剥離し、瓦が破損するなど傷みが目立ってきた。このため、8万枚を超える瓦の全面葺き直しや屋根の目地漆喰の全面修復、壁面漆喰の修復、耐震補強など、2009年から保存修理工事に着手した。

 「天空の白鷺」は大天守を高さ52メートルの素屋根ですっぽり覆い、中に8階建ての見学施設を設けたもので、8階と7階に見学ホールを設置。高さ3メートル、幅6メートルのガラス窓から修復のようすを見学する。

大天守を間近に見学
大天守を間近に見学

 窓からは大天守の最上階(5層部分)の大屋根や唐破風、千鳥破風、漆器壁などが間近に観察できる。

 時期によっては、専門職人による漆喰の修復や瓦の葺き直し、釘や銅線を使った瓦留めなどの修理のようすも見られるという。

 映像やパネル、写真、模型などを使っての展示も行われ、城の全容と工事内容が分りやすく紹介している。ホールからは姫路市街地も一望できる。展示室までは、1階のエントランスホールからエレベーターで昇る。

 入館料は大人200円、子供100円。入城料は別途400円(子供100円)が必要。

 展示室までのエレベーターは2基しかなくシーズンは混雑も予想され、団体は6カ月前、個人は1カ月前から予約も受け付けている。ちなにみ2月末の団体予約状況(8月末までの期間)は、バス2700台(約9万5千人)。

 問い合わせ=電話:079(287)2013。

ハウステンボス、地域全体で誘客

9市町の首長が全員出席で総会開く
9市町の首長が全員出席で総会開く

 長崎県佐世保市のリゾート施設ハウステンボス(HTB)と周辺の9市町が連携して、地域全体への観光客誘致をはかるため、ハウステンボス周遊観光協議会を3月28日に設立した。同日にHTB内で総会を開き、規約や事業計画を決定。協議会会長にHTBの澤田秀雄社長を選出した。

 同社は昨年から旅行業大手のエイチ・アイ・エス(HIS)の傘下で経営再建を進め、入場者数も増加。2011年9月期の第1四半期(10年10―12月)決算では営業黒字を達成するなど業績は大きく回復している。

 同社へは周辺市町から連携を要望する声が高まり、昨年12月に同社と市町で部会を立ち上げ、新組織設立に向けての準備を進めてきた。参画したのは同社と子会社のエイチ・ティ・ビイ観光に長崎県の西海市、佐世保市、波佐見町、平戸市、松浦市。そして佐賀県の有田町、伊万里市、嬉野市、武雄市の9市町で県境を越えた広域組織となっている。

 総会では澤田社長や各市町の首長も全員出席して意見を交換。澤田社長は「全国、海外ではハウステンボスの近くに焼き物の有田、伊万里や嬉野、武雄の温泉などがあると知らない人は多い。連携して発信すれば、周辺地域の観光活性化につながる」と述べ、HTBと周辺地域相互のバス運行計画も発表。「1泊だけでなく2―4泊の商品ができれば地域の滞在時間も伸び、消費も拡大する」と強調した。

 各市町からは専門部会による事業の具体化や宿泊、交通など民間団体への参加要請、事業のスピード化、情報発信強化など出され、HTBからは総合パンフの作成やHTBイベントでの地域PRなど提案された。次回会議には民間団体の参加も促す。

 今年度は年4回の季刊誌発行やHPでのPR、広報媒体活用など決定した。今年11月にはHTBと市町で「大陶器市」開催も計画。ツアーバスも4月29日から運行を開始する。

時代の象徴“赤プリ”、55年の歴史に幕

グランドプリンスホテル赤坂
グランドプリンスホテル赤坂

 「赤プリ」の愛称で親しまれたグランドプリンスホテル赤坂(東京都千代田区)は3月31日、同ホテルで閉館セレモニーを行い、55年という長い歴史に幕を下ろした。

 同ホテルは1955年に客室31室、宴会場2室で開業。60年に現在の別館、83年に新館をオープンした。土地柄、政界や財界にも多用され、まさに時代を象徴するホテルとなったが、建物の老朽化を理由に閉館を決めた。なお、閉館後から建物取り壊しまでの3カ月間は、東京都の主導により東日本太平洋沖地震の被災者の受入れを行う。

 松下学総支配人は「一般のお客様から政治、文化、芸能など、幅広い分野でご利用いただき、結婚式は1万組を超えた。多くの方から閉館を惜しむ声をいただき、このホテルはお客様に育ててもらったのだと切に実感している」とこれまでの感謝を述べた。また、4月からの被災者受入れについて、「最後に、被災された方の受入れという形で、皆様のお役に立てるのは、皆様に支えられたこのホテルにとっては何よりのご奉公」と語った。

最後のお見送りをするスタッフ一同
最後のお見送りをするスタッフ一同

 セレモニーでは、アメリカ在住で今回の閉館に伴い訪れた最後の宿泊客が、同ホテルへの思いを述べた。「日本に帰国したときはいつも赤プリに泊まらせてもらった。初めて来たときは、乳飲み子を抱えていたが、そんな娘ももう22歳になりました。恐れ多いですが、日本での思い出、子供の成長はこのホテルとともにありました。感謝しても感謝しきれないです」。感謝の意を込め、松下総支配人から花束が贈られ、10年8月よりホテル利用者から募集していた、同ホテルでの思い出をつづった「赤プリメッセージ」を入れたボックスに鍵が掛けられた。

 セレモニー後には、ホテルスタッフ一同がホテル玄関に集合し、最後の宿泊客へ最後のお見送りを行った。

 懇意のホテルスタッフは宿泊客より声を掛けられ目を真っ赤にしながら、最後のお勤めを遂行。スタッフ全員が、それぞれの思い出と感謝を胸に、送迎のタクシーが見えなくなるまで、深々と頭を下げた。

閉鎖などは9社26店舗、JATA東北会員の被災状況

 日本旅行業協会(JATA)は4月5日、東北6県の会員会社の東北地方太平洋沖地震の被災状況について発表した。

 それによると、閉鎖中または電話対応のみの営業を余儀なくされているのは9社26店舗だという。3月31日までに旧JATA東北支部が取りまとめたもの。

 現在、東北6県のJATA正会員旅行会社は37社でこのうち、主要事業所を東北6県に置く会社は22社。事業所総数は223店舗。

 なお、JATA会員会社に勤務する役職員の安否については全員の無事を確認済みだという。

四万温泉、募金付プランを開始、10%を被災者受入費用に

 群馬県・四万温泉協会はこのほど、中之条町と連携し、東北地方太平洋沖地震の被災者の避難場所として、四万温泉や沢渡温泉、六合温泉郷など町内の宿泊施設を開放した。町全体で1千人の受入が可能だという。

 また、この滞在費用を捻出するため、「AID forBED大震災募金付き宿泊プラン」を売り出した。宿泊料の10%が「中之条 被災者を助ける会」に募金され、中之条町が一括管理して滞在費用にあてる。

 宿泊客以外の人からも銀行振り込みとクレジットカード送金での募金を受け付けている。振込先は群馬銀行中之条支店・普通預金0798331 「中之条被災者をたすける会会長入内島道隆」。

 受入の申込み・問い合わせ=中之条町経済産業課 電話:0279(75)8814、宿泊プランの問い合わせ=四万温泉協会 電話:0279(64)2321。

ボランティア落語、被災者に無料で公演

 群馬県草津町の草津温泉で3月27日から、東北関東大震災で被災し、非難してきた人々を対象にしたボランティア落語の無料公演が始まった。

 1日1回公演で会場は草津ナウリゾートホテル。午後2時から午後3時まで原則毎日開催。出演者は夜8時からの「草津温泉らくご」に出演する落語家が担当する。

 温泉らくごは2009年12月にスタート。温泉街の活性化を目的に、湯畑の近くにある「熱の湯」で午後8時から毎晩開演している。今回、草津町の3月下旬の第1次被災者受け入れ(約400人予定)を機に、草津温泉らくご事務局と落語芸術協会(桂歌丸会長)が「湯上がり落着けボランティア隊」を発足し、被災者を対象に無料で落語を楽しんでもらうボランティア落語を企画した。初日の3月27日には11人が集まり、ボランティア落語を楽しんだ。

 温泉らくご事務局の大谷正美広報室長は「震災以降、宿泊キャンセルが相次いでおり、温泉地自体もたいへん厳しい状況にあるが、草津温泉から笑いと元気を発信して、被災された方々が少しでも笑顔になってくれれば」とコメント。「午後8時からの温泉らくごも被災者の方は入場無料」という。

 福島県南相馬市の避難者や被災者を中心に、草津町では24軒のペンションや旅館に258人(4月3日現在)を受け入れているが、部屋の中に引きこもりがちな被災者をみて、現在では落語家の方から受け入れ施設に出かけて行き、落語を聞かせる「ボランティアキャラバン落語」を開始。落語を初めて聞いた被災者からは「被災後、今日はじめて笑いました。本当に楽しかった」「こんなに笑ったのは久しぶり。夜の落語会にもぜひ行ってみたい」という感想が多かった。

危機管理学ぶ場追加、おかみの集い 6月28日開催

有村政代運営委員長
有村政代運営委員長

 全国旅館おかみの集い運営委員会(有村政代運営委員長=清流山水花あゆの里女将)は3月30日、福岡市のグランド・ハイアット・福岡で3回目の運営委員会を開き、「第22回全国女将サミット」について、プログラムに危機管理をテーマとした全体勉強会を追加し、予定通り開催することを決めた。

 東日本大震災の発生を踏まえ、開催するか否かを検討した。有村委員長は、開くべきか悩むなか、過去の委員長経験者にも相談したことを報告。「今は心を一つにして、あたたかい気持ちになれる会を開くことが大切」と、迷いなく開催への決意を示した。各委員も賛同し、女将サミットの開催を満場一致で決めた。

 これを受け、プログラムなど、催しの中身について意見交換をした。「災害について関心が高まっているのは事実だが、女将の集まりがそのテーマに沿うのはどうか」「決めたことをそのまま、普段通りに行うことも大切」「分科会テーマの1つを危機管理とした場合、この場にいる自分たちは選択したいと思うか」など、活発に意見交換した。

 今回は「全国大会」という会の位置付けを踏まえ、「宿泊施設の危機管理」について全員が学べる場(全体勉強会)を新たに追加し、基調講演や4つの分科会は変更しないことを決めた。初の試みとして、基調講演と全体勉強会、懇親パーティーのみという条件で、男性(社長や支配人)の参加も認める。

 東日本大震災は被災地区が広範に及び、直接被害はもとより、風評や旅行自粛による間接的な影響も各地で見られる。6月に参加することが難しい仲間もいると予想される。

 「いつでも戻ってきてもらえるよう、会を続けていきたい」(運営委員会)。

≪第22回全国女将サミット2011福岡概要≫

 開催日:6月28日▽開催場所:グランド・ハイアット・福岡(福岡市)▽基調講演講師:茶道裏千家前家元・千玄室氏▽全体勉強会:宿泊施設の危機管理(講演者未定)▽分科会(人材育成、もてなし、次世代への事業継承、旅館文化の海外への発信の4つ)▽参加費2万5千円(税込)、男性1万5千円(同)