No.322 JATA国際観光フォーラム・旅博 - 各分野で今後の旅行業模索

JATA国際観光フォーラム・旅博
各分野で今後の旅行業模索

 日本旅行業協会(JATA)は9月20―23日の4日間、東京都江東区の東京ビッグサイトで「新たな旅文化の創造へ」をテーマに「JATA国際観光フォーラム・旅博2012」を開いた。入場者数計は12万5989人、出展数は156カ国・地域、1083コマと過去最高を記録した。フォーラムは、変革が求められる日本の旅行業界の今後を模索するため、基調講演に世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)会長でTUI AG会長のマイケル・フレンツェル氏を招いた。イン・アウトバウンドの各シンポジウムも開き、議論した。

【飯塚 小牧、樫村 香那子】

JATA 菊間会長、日本市場をアピール、旅博の入場者、出展数過去最高に

 開会式は、各国の来賓や観光関係者ら863人が出席。各国の来賓が登壇する恒例の鏡開きで盛大に幕を開けた。

 そのなかで、あいさつに立ったJATAの菊間潤吾会長は「東日本大震災後の日本の海外旅行市場は、昨年7月以降、14カ月連続で前年同月比を上回るなど、勢いを取り戻している。本年は、過去最高の1880万人の海外旅行者数が予想され、今後、LCCの本格的就航などによる新しい市場創出や羽田空港の再拡張など、日本の旅行市場は大いに期待されている」と日本市場の動向を紹介。そのうえで、「日本市場は数で上昇気流にあるが、それ以上に強調したいのは、成熟したマーケットであるということ。魅力的な提案をすれば、時季を問わず、あまり知られていない地域へも積極的に出掛ける魅力的なマーケットだ」と優位性を売り込んだ。

 

※ 詳細は本紙1477号または10月5日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

 

ピンクリボン月間は温泉に ― 心や体の傷を癒す力

 10月はピンクリボン月間である。旅行新聞が事務局を務める「ピンクリボンのお宿ネットワーク」(会長=畠ひで子・匠のこころ 吉川屋女将)が7月10日に設立し、現在50軒を超える旅館・ホテルが参画している。12月には参画する宿の詳細を掲載した冊子を発行する予定だ。

 このようなピンクリボン運動に賛同する全国的な宿のネットワークがなかったためか、あらゆるメディアにも取り上げられ、一般の方々からも「早くネットワークに参画する宿の冊子がほしい」という声が毎日のように届いてくる。また、ネットワークに参画したいという宿からの問い合わせも多い。

 乳がん患者さんの多くは、術後、温泉に行きたい気持ちが強まる一方で、家族や友人を悲しませたくないと悩み、大浴場に入ることができないでいる。ピンクリボンのお宿ネットワークでは、年間約5万人といわれる乳がんの手術を受けた患者さんと、その家族にも温泉旅行を楽しんでもらいたいという気持を表明し、「脱衣所の照明を少しだけ暗くする」「体を洗う場所に仕切り板を付ける」「体を隠すタオルを自由に使っていいように脱衣所に置いておく」など、ちょっとした心がけをさりげなくしていこうと、第一歩を踏み出した。ヨチヨチ歩きのネットワークなので、参画する旅館ホテルを対象とした、勉強会やセミナーの開催も予定している。また、ロゴマークも決まった。「ピンクリボンのロゴマークがあるだけで、私たちは安心するんです」という患者さんの言葉を、1人でも多くの旅館関係者に届けたいと思う。

 古来から温泉は、人や動物の傷を癒してきた。歴史のある温泉地は、鶴や鷺、鹿や猿などの傷を治したという伝説がたくさんあるし、武田信玄をはじめ、戦国武将の隠し湯は全国至るところにある。また、農作業で疲れ切った人々が収穫後に骨休めにゆったりと温泉に浸かってきた湯治宿の歴史もある。近年は団体慰安旅行や、観光旅行として温泉旅館が脚光を浴びた時期もあったが、もう一度あらゆる人々の病気や傷を癒してきた温泉の力に目を向けるときが来たのではないだろうか。

 乳がん患者だけではなく、大きな病気やケガを負った人は体だけでなく、心にも傷を負っているはずだ。温泉はその傷すらも癒す、大きな力を持っているのだ。

(編集長・増田 剛)

台湾駐日代表処を訪問

沈斯淳氏を訪問する女将
沈斯淳氏を訪問する女将

震災後の支援に感謝、山形おかみ会

  やまがた女将会(佐藤洋詩恵会長=日本の宿古窯)は9月10日、台北駐日経済文化代表処の沈斯淳(しん・しじゅん)代表(駐日大使に相当)を表敬訪問し、震災後の対日支援への感謝を伝えるとともに、「台湾とのより一層の交流を」と呼びかけた。

 佐藤会長は「震災後、台湾と深い絆で結ばれていたことを改めて認識した。21世紀は心の交流の時代。『おしん』の古里・山形の母性豊かな女将たちが頑張ります」とあいさつ。沈代表は「山形は温泉天国といわれるほど知られている。おかみ会と協力し合い、双方の交流を進めていきたい」と応えた。

 佐藤博子さん(旅館山恵)、酒井まき子さん(材木栄屋旅館)、須藤佳子さん(展望露天の湯有馬館)、工藤真理さん(花明かりの宿月の池)、岡崎恭子さん(ホテルルーセントタカミヤ)、斉藤淳子さん(和歌の宿わかまつや)、髙橋ゆき江さん(松伯亭あづま荘)、山口秀子さん(栄屋ホテル)、佐藤まりさん(湯坊いちらく)、大塚せつ子さん(甚内旅館)、佐藤嘉高山形県観光経済交流局長、本澤邦廣県観光物産協会課長、伊藤和宏県観光物産協会東京支部主事、そして山形県の観光誘致ソング「旅にでませんか」を歌う葵ひろ子さんが同席した。各女将が自己紹介した後、「旅にでませんか」を、葵さんと一緒に全員で歌い=写真=交流を深めた。

 訪日外国人旅行者数は今年6月、震災前と比べて初めてプラスに転じた。なかでも台湾は、オープンスカイ(航空自由化)による新規路線就航や増便で、日台間の航空座席数が増加。1月から7月までの訪日旅行客数は約85万人(前年比58%増)と大幅に伸び、震災後の回復基調をけん引している。

気仙沼ゾーン開業

東北観光博に30番目

 3月から官民あげて実施している東北観光博にこのほど、30番目のゾーンとして「気仙沼ゾーン」がオープンした。

 気仙沼ゾーンのテーマは「震災を乗り越え、『海と生きる』気仙沼」。旅のサロンは気仙沼駅前観光案内所で、旅の駅は気仙沼大島観光協会、復興商店街「南町紫市場」、唐桑半島ビジターセンターが担う。

 オープンの9月15日には、JR気仙沼駅前広場でオープニングセレモニーを行った。到着列車の横断幕による出迎えと東北パスポートの発給、気仙沼大漁唄い込みなどが行われ、気仙沼ホルモンとサンマ塩焼きが振る舞われた。

医療通訳士を拡大

中国からの訪日客に対応、FUNtoFUN

 人材派遣業などを展開するFUNtoFUN(櫻木亮平社長、東京都千代田区)と医療ツーリズム業などを手掛けるメディカルツーリズム・ジャパン(MTJ、坂上勝也社長、北海道札幌市)はこのほど、中国からの医療ツーリズム拡大に対応し、事業連携を強化すると発表した。10月にMTJ本社の札幌で中国語医療通訳士養成講座を開講するなど、連携強化で中国語医療通訳士の養成・派遣事業の拡充と全国展開を目指す。

 インバウンド医療観光については、2010年に政府が閣議決定した「新成長戦略」や今年3月の「観光立国基本計画」でも重要な戦略の1つとして位置づけられ、観光庁も研究会を設置して議論を重ねてきた。

 そうしたなか、従来の業務で中国人を多く雇用していたFUNtoFUNは11年6月から、中国語医療通訳士養成事業として「日本医療通訳アカデミー」を開始。「中国医療通訳士1級養成講座」を開講し、受講者は7月末の時点で100人を超えた。

櫻木亮平社長
櫻木亮平社長

 9月12日に開いた会見で櫻木社長は同事業について「実質当社のみ」と語り、「関西や横浜でも展開予定で、2―3年で全国展開を目指す」と展望を語った。現在、養成講座の卒業生100人のうち、約20人が中国語医療通訳士の派遣業務に登録しており、約半数は実践を踏んでいるという。受講は中国語、北京語、日本語が話せることが前提で、受講者のうち85%は中国人、15%は日本人が占める。今後は、現場での応用力を高めるため、日本文化やビジネスマナー、倫理観などを重視した新カリキュラムを取り入れていく。

 中国の富裕層を対象にした医療ツーリズム事業で月間20―30人を送客するMTJは、自社でも25人の中国語医療通訳士を抱えており、今回の連携強化で、13年3月までに通訳士を50人まで増やしていく。

 
 

坂上勝也社長
坂上勝也社長

 坂上社長は中国の医療観光の傾向について「富裕層は医療行為を海外へ求める。治療の場合はアメリカなどが多い。求めているのは安心・安全。日本で扱うのは健康診断だが、日本ブランドへの信頼も崩れていない」と紹介した。同社の顧客単価は80―100万円と高額で、売上高は前期、全事業計で3億円を計上。来年3月期には5億円まで増収を目指す。

 一方、通訳士の課題として民間資格のため、責任の所在が明確でないことなどを提示。そのため、同社は通訳士を自社派遣することで責任を明確化させ、顧客にも安心感をアピールしているという。今後は「ホスピタリティをどう担保するかが課題。ドクターレベルまで追求できる能力が必要になる」と語った。

 さらに、会見には受入側の医療施設から日本医科大学検診医療センターの百崎眞事務室長も出席。同センターの中国人患者の受入実績は、今年4月から現在まで約100人。今年度は約200人を予想している。百崎氏は「当初、家族や留学中の学生などが通訳として同行してきたが、医師の言葉が正確に伝わっているか不安だった。しかし、医療通訳士をお願いするようになり検診結果の説明もスムーズになった」と、医療現場から見た医療通訳士の必要性などを語った。今後は「文化の違いやマナーなど説明されているが、問題もある。通訳士には現場での調整力を求める。できる限りクオリティーを上げていただきたい」と述べた。

東日本の女将5人が参加、東京で被災地企業の販売会

来月の開催に向けて一致団結
来月の開催に向けて一致団結

にっぽん元気マーケット、10月27、28日 東京国際フォーラムで

 東日本大震災により被災した中小企業の販路開拓を支援する「にっぽん元気マーケット」in東京国際フォーラム(10月27、28日開催)に出展・出演する5軒の旅館の女将たちが10月12日、東京都内に集まり、参加に向けての各自の思いや演出内容について意見交換した。

 大澤幸子さん(岩手県、ホテル対滝閣)、磯田悠子さん(宮城県、ホテル松島大観荘)、高橋知子さん(宮城県、篝火の湯緑水亭)、畠ひで子さん(福島県、匠のこころ吉川屋)、村田明美さん(茨城県、五浦観光ホテル)が参加した。

 来月の催しでは、テレビショッピング(27日)やステージ企画(28日)への出演、展示ブース(27、28日)出展を通じて、宿や地域の魅力をPRする。テレビショッピングでは最大手「ジュピターショップチャンネル」が5時間半にわたり会場から生中継する。女将たちも参加し、地域や宿の魅力を伝えるほか、宿泊券のプレゼントも企画している。ステージ企画「女将さんいらっしゃい!」は、5人の女将たちが交替で登壇。震災後の取り組みを報告するほか、一芸披露などで親しみの湧く舞台演出を目指す。展示ブースは2日間常設し、プレゼントやパンフレット配布を行う。

 緑水亭の高橋知子さんは復興がまだ進んでない場所もあるなか、「地域の今を伝える元気な人たちの代表として」催しに臨みたいという。

 にっぽん元気マーケットは中小企業庁の主催。東日本大震災で被災した中小企業の新たな販路開拓を支援するため、これまで3度にわたりバイヤー向けの商談会を開いてきた。一連の事業の総仕上げとして来月27、28の両日、東京国際フォーラムで一般消費者を対象に展示販売会を開く。食品や伝統工芸品など225社が出展、2日間で5万人の来場を見込む。

空海ゆかりの西安へ、二階氏団長に交流使節団

銀杏の記念植樹
銀杏の記念植樹

日中国交正常化40周年記念事業

 日中国交正常化40周年の記念事業として、弘法大師・空海を偲ぶ日中交流使節団が8月28日、全国旅行業協会(ANTA)、日本旅行業協会(JATA)、日本観光振興協会、弘法大師・空海を偲ぶ日中交流使節団実行委員会主催で、空海ゆかりの地、陜西省西安市の青龍寺で法要はじめ、銀杏の記念植樹、大賀蓮の種まきなどを行った。

二階俊博氏
二階俊博氏

 今回の使節団は、ANTA会長の二階俊博氏(衆議院議員)を団長に、衆議院議員の林幹雄氏、JATA会長の菊間潤吾氏、日本観光振興協会理事長の見並陽一氏を副団長とし、高野山無量院住職の土生川正道氏、政治評論家の森田実氏、観光庁長官の井手憲文氏らが、官民あげて参加。旅行業界から全国会員が多数参加した。

 

 

 

 

 

唐家セン氏
唐家セン氏

 記念講演会(大唐芙蓉園内・鳳鳴九天劇院)には、唐家セン中日友好協会会長が出席、「文明の古都西安に古き友人、新しい友との出会いができたことは大変うれしく思う。これからも友好の絆を大切にしていきたい」とあいさつした。二階俊博ANTA会長は「500人を超える同士が、1200年前に空海が学んだこの地を訪れることができたことに歴史の重さを感じている。40周年を機に、日中観光のリーダー国としてより一層発展に寄与していきたい」と述べた。

 2部の交流会では、昨年東日本大震災被災地の中学生を海南島に招待した「心を癒す海南の旅」に参加した子供たちのメッセージを紹介。西安、日本の観光地の魅力をそれぞれの担当者から紹介した。3部の交流の夕べでは、西安の民俗芸能や中国琵琶の演奏などが行われた。

 

個別相談会を実施

亀山秀一観光庁国際交流推進課長の講演
亀山秀一観光庁国際交流推進課長の講演

観光庁の取り組みを講演、JNTO

 日本政府観光局(JNTO、松山良一理事長)は9月5日に八芳園(東京都港区白金台)で、海外事務所長の各海外市場の最新情報をもとに、賛助団体・会員を対象とする個別相談会と、観光庁関係者などを講師に招いた講演会を開いた。

 観光庁国際交流推進課の亀山秀一課長は「2012年度のビジット・ジャパン事業の取り組みおよび今後のインバウンド施策の方向性について」をテーマに講演。2012年の訪日外国人旅行者数目標の900万人に向けた、各市場の目標旅行者数を紹介し、「7月までの数字を見る限りでは目標の900万人には、もうひと踏ん張り、ふた踏ん張りの取り組みが必要。韓国が戻れば一気に取り返せるが、そう簡単にはいかない」と語った。

 また、中国・韓国で高まる反日気運について、「2年前の尖閣漁船事件のときとは異なり、現時点で大きなキャンセルなどは確認していない」と話した。

 そのほか、3月に閣議決定した新たな観光立国推進基本計画や、東北・北関東インバウンド再生緊急対策事業による商談会と観光復興PRイベントの実施状況、大規模国際会議の機会をとらえた訪日プロモーションなどについても紹介。なかでも、観光庁やJNTOと外務省や在外公館をはじめとする関係省庁との連携協力を強化し、「オールジャパン体制による訪日プロモーションの推進」を強調。「13市場に限定せず、在外公館と連携を強化して日本のPRに尽力している」と語った。

 さらに、2011年7月の中国、2012年6月のタイに続き、9月1日からのマレーシア、インドネシアのマルチビザ解禁についても紹介した。

 続いて、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会の小倉和夫事務総長による「2020年東京オリンピック・パラリンピック招致について」、JNTOの神保憲二理事による「訪日旅行市場の推移と今後の見通しについて」の講演も行われた。

第1回観光産業政策検討会、経営とマーケティングが課題

17人の委員が観光産業政策を語った
17人の委員が観光産業政策を語った

多岐の分野から委員が議論

 観光庁はこのほど、旅行業、宿泊業のトップや大学教授など幅広い分野の有識者などで構成し、観光産業の強化をはかるための課題や具体的な方策を議論する「観光産業政策検討会」を立ち上げた。9月10日に第1回目の検討会を開き、宿泊業のマネジメントやマーケティングなどの課題があがった。

【伊集院 悟】

 検討会の冒頭、観光庁の井手憲文長官は「日本の観光産業を世界最高レベルまで強くするために、広い分野で見識のある皆さんの知恵を借り、具体的な方策を提言してもらいたい」と協力を呼びかけた。

 初会合では、まず観光庁から、国内旅行消費額や国内宿泊旅行者数、インバウンドの推移、観光産業の人気度、産業間賃金の比較、旅行会社の現状、宿泊業の労働環境など、旅行・観光業界の現状を数値やデータをもとに紹介された。

 学生の人気企業ランキングでJTBグループが1位、エイチ・アイ・エス(HIS)が6位と上位に入っているのに対し、転職ランキングでは2010年にJTBグループが14位に入っているのを最後に、2011、12年とトップ20位から観光業が姿を消し、入社前の企業に対するイメージと、実際の現状のギャップが浮き彫りになった。産業間所定賃金を比較すると、全産業の平均を100としたときに、銀行業、鉄道業が平均を超え、平均以下に製造業、旅行業を含むその他の生活関連サービス業、小売業と続き、宿泊業は89・2と大きく平均を下回り、最低となった。

 宿泊・飲食サービス業の労働条件を諸外国と比較すると、日本は欧州よりも条件が低く、宿泊業の労働条件は全産業より低い水準で推移している。宿泊業のパートタイマー比率は全産業平均よりも10%程度高く、年々上昇。離職率でも全産業平均より高くなっている。

 また、米国の旅行会社の現状も紹介。従来通り実在する店舗で販売する旅行会社は日本以上に淘汰され、現在米国で生き残っているのは、企業の出張業務を一括して受注・管理することで顧客企業の旅行関連コストの削減をはかるビジネス・トラベル・マネジメント(BTM)とオンライン旅行会社(OTM)の2パターンという。

座長の山内弘隆一橋大学大学院商学研究科教授が進行役となり、各委員が発言。宿泊業や旅行業のマネジメントの問題や、業界のマーケティングやプロモーション方法についての課題があがり議論した。 

 リクルートじゃらんリサーチセンターの沢登次彦センター長は旅行実施率が07年の66%から12年57%と5年間で10%低下し、6万人が旅行をしなくなった現状を報告。「国内を旅する価値を上げることを議論しないといけない。そのためにも地域力のアップは欠かせない。地域を1つの企業と捉え、商品開発やイノベーションのスピードをアップする必要がある」と提起した。

 帝国ホテルの小林哲也社長は「日本をどう売るかの視点が足りない」と投げかけ、諸外国と比較し「インバウンドを増やすにはどうしたらよいのかを、国がもっと考え動かないといけない」と話した。また、在日大使館で自国のワイン会社を招き、日本企業へ積極的に売り込むイタリアの事例を紹介。「在外公館をもっと有効的に使って営業をしてはどうか。観光は1つの企業の問題ではなく、国益だ」と語った。

 日本観光振興協会の西田厚聰会長も政府主導による海外拠点の重要性を語り「JNTOの機能をもっと強くしないといけない。海外拠点が13拠点というのは韓国の29拠点と比べてもあまりにも少なすぎる」と指摘した。

 百戦錬磨の上山康博社長はリスティングの重要性を提起した。「多言語の検索で日本の観光関係や観光地が出てくるようリスティングに予算を取ってほしい。ワードごとにアクセス数を数値化できるので費用対効果の検証もしっかりできる。サイトを作っても、アクセスが少ないのであれば、人通りの少ない場所にひっそりと店を構えているのと変わらない」とネット対応への遅さを指摘した。

 企業の再生を請け負うリヴァンプの湯浅智之副社長はインバウンドについて「数よりも訪日客の満足の方が重要」と語る。日本で流行る外国料理は、若い女性の人気旅行先と相関関係があるというフード業界の定説を紹介しながら、「満足を高めて日本のファンを増やすことが大切。訪日客の満足が高ければ、自国へ商品を輸出したり、口コミで日本の良さを広めたりしてくれる。留学生など日本を好きな人を効果的に利用した方がよい」と話した。

 一方、宿泊業や旅行業のマネジメントなど内部要因に目を向けたのは、産業技術総合研究所サービス工学研究センターの内藤耕副研究センター長。内藤氏は「旅館業界に淘汰が必要」と提起。「どれだけの宿が魅力あるサービスや品質をお客に提供できているのか。内装が汚く、スタッフが単なる運び屋さんになってしまっているところも正直多い。現場には無駄が多く、宿はもう一度経営や社員教育を見直さなくてはいけない。シフトを組みなおすだけで計上利益5%アップも可能。いかに生産性とクオリティを上げるかが、宿泊業の生き残るためのポイント」と鋭く切った。

 大観の佐藤義正会長も旅館業界全体を見て、①組織体制の強化②団体客から個人客へのシフト対応――などの経営改善の遅れを指摘。「同族経営のため組織体制がしっかりしていないから、トップの判断で業績が左右されやすい」と語った。また、重くのしかかる固定資産税など財務構造の課題についても問題提起した。

 サービス・ツーリズム産業労働組合連合会の大木哲也会長は人材の確保について触れ、「労働環境が悪く、新入社員が3年の壁を超えられない。労働時間が長すぎて自分のスキルアップをする時間もない」と現状を紹介した。

 いせんの井口智裕代表は旅館業のほか、飲食業、旅行業、物販業、コンサル業など多岐にわたる事業を行っていることを紹介。「旅館業は労働生産性が悪いので、付加価値を上げるにはマルチタスクでやる必要がある。フロントの社員が空いた時間にイラストレーションで市の広報のチラシを作ったりしている。ピーク時をどうするかではなく、空いた時間で何をするかが勝負」と語り、「企業水準を維持し、いい人材を確保することが大切。地方にはやるべきことがまだたくさんあり、旅館が雇用の受け皿にならなくては」と力を込めた。

 トップツアー執行役員の百木田康二経営管理本部副本部長兼経営企画部長は、同じく「優秀な人材の確保」を重要事項にあげ、加えて高齢者の企業への取り込みも提起。「定年後の高齢者はスキルが非常に高く貴重な人材。若い人との間を取り持ち、経験や知識の伝達ができれば、企業や業界にとってプラスになるのではないか」と語った。

 日本経済団体連合会の大塚陸毅副会長・観光委員長は人材の確保について「学校教育のなかで地域の良さに触れ、家族旅行を奨励するのも重要」と提起。また同検討会について「提言だけでなく、具体的な行動が大切。民間にできることと、行政でできることを明確にして進めなくては」と話した。

 JTBの田川博己社長は「省庁間の連携」をポイントにあげ、「中・長期的な政策のなかでは、人材や教育など国交省だけでできるものは少ない。各省庁間のスムーズな連携を行政には期待したい」と注文した。

 なお、同検討会は4回の開催を予定し、2013年3月に提言をまとめる予定だ。次回は10月中旬を予定。

観光産業政策検討会の委員は次の各氏。

 井口智裕(いせん代表)▽大木哲也(サービス・ツーリズム産業労働組合連合会会長)▽大塚陸毅(日本経済団体連合会副会長・観光委員長)▽上山康博(百戦錬磨社長)▽百木田康二(トップツアー執行役員経営管理本部副本部長兼経営企画部長)▽小杉眞弘(マリオット・インターナショナル日本支社長)▽小林哲也(帝国ホテル社長)▽佐々木経世(イーソリューションズ社長)▽佐藤義正(大観会長)▽沢登次彦(リクルートじゃらんリサーチセンター長)▽田川博己(JTB社長)▽丹呉泰健(読売新聞グループ本社読売新聞東京本社監査役)▽内藤耕(産業技術総合研究所サービス工学研究センター副研究センター長)▽鍋山徹(日本政策投資銀行産業調査部チーフエコノミスト)▽西田厚聰(日本観光振興協会会長)▽矢々崎紀子(首都大学東京都市環境学研究科観光科学域特任准教授)▽山内弘隆(一橋大学大学院商学研究科教授)▽湯浅智之(リヴァンプ副社長兼COO)

「オンリーワンのまち」認定第1号、鎌ヶ谷市(千葉県)の「雨の三叉路」

髙津理事長(左)と鎌ヶ谷市・清水市長
髙津理事長(左)と鎌ヶ谷市・清水市長

ふるさとICTネット

 NPO法人ふるさとICTネット(髙津敏理事長)はこのほど、「オンリーワンのまち」に、千葉県・鎌ヶ谷市(清水聖士市長)の「雨の三叉路」を第1号認定した。9月12日には同市の市長室で認定証授与式を行った。「オンリーワンのまち」は、そのふるさとにしかない独特の風土や伝統文化、産物、無形のおもてなしなどに光を当て、全国ブランドの観光資源に育てることで、継続的な地域活性化に結びつけることを目的としている。今後、第2号、第3号認定を予定しており、候補地を広く募集している。

【増田 剛】

当日訪れた分水嶺モニュメント「雨の三叉路」
当日訪れた分水嶺モニュメント「雨の三叉路」

 「オンリーワンのまち」第1号認定となった鎌ヶ谷市は、北総台地の高台にあり、富岡と京塚の交差点付近は、標高約29メートルでありながら、降った雨の水が手賀沼・印旛沼・東京湾の3方向に分かれて流れる全国でも珍しい分水嶺(界)がある地であり、同市の宝として親しまれている。この地に分水嶺モニュメント「雨の三叉路」が市民の発意で建立され、市に贈呈された。最上流部に住む市民として、「川の水を汚さないように」との自然環境保全への意識も高まっている。

 髙津理事長は「高山や峰の頂きではなく、中心市街地にある分水嶺は、市民や観光客がいつでも訪れることができる」ところを高く評価。「市と市民が心を合わせ、自分たちのふるさとの環境維持活動に取り組まれている姿勢」も認定の大きな判断材料となった。

 9月12日に開いた認定証授与式には、ふるさとICTネットからは髙津理事長をはじめ、理事の東京成徳大学教授の秋山秀一氏、同事業の公式メディアとして参加する旅行新聞新社社長の石井貞徳氏らが出席するなかで、髙津理事長から清水市長に認定証が手渡された。

 清水市長は「第1号認定に、鎌ヶ谷市が選ばれたことはとても名誉なこと。これまで『分水嶺』が顕在化する機会はあまりなかったが、『オンリーワンのまち』認定をきっかけに、広く市民に知られ、環境意識もさらに高まるのではないかと期待している。『雨の三叉路』という名前も詩的で、歌などが生まれるといいですね」と語った。

 ふるさとICTネットは、自薦、他薦問わず「オンリーワンのまち」の候補地を募集している。今後、認定条件に合えば第2、第3の認定を行う計画だ。

 問い合わせ=NPO法人ふるさとICTネット 電話:03(5800)4787、公式メディア・旅行新聞新社 電話:03(3834)2718。