「差別化できるものが売りに」
観光地域経営フォーラムは8月4日、東京都内で観光地域経営フォーラム「会員勉強会」を開いた。テレビ・ラジオキャスターとして活躍する孔怡(こう・い)さんが「日本の観光戦略への提言~中国人観光客が期待するもの」をテーマに講演した。YOKOSO!JAPAN大使にも任命される孔怡さんは、大阪を中心に全国各地域の観光プロモーションを手がけている。
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中国人観光客は今後、急増して、2020年には1億人になるともいわれている。世界中の行き先のなかで最初に選ばれるのは、異なる文化を持つヨーロッパ。一巡後、日本への関心も高まってくると思う。中国と日本はすごく近い国。羽田空港と虹橋空港間は2時間半、九州とは1時間半、日帰り旅行もできる。1週間以上の休みがある旧正月の期間中(日本での1月中旬から2月中旬)は、すでに大勢の中国人が日本を訪れている。
中国人観光客は日本への旅行に何を期待するのか。いろんなことが刻々と変化しているのが今の中国。日本への旅行に期待するものも毎年のように変わっている。風景や温泉、和食を楽しみたいといった次元を超えてニーズは多様化していく傾向にある。
中国人旅行者というと、すぐに富裕層を連想し、秋葉原や銀座で買い物という図式ができているが、鵜呑みはいけない。家族でゆっくり過ごしたい、余裕があれば少しでもいいツアーに参加したいというのが変化の1つ。
買いたいものも変化している。例えば、炊飯器を何個も買い込んで帰る人がいるが、その理由はおいしい日本米が食べたいから。中国では、一般のお米の10倍以上の価格にも関わらず、日本米がおいしいと大変人気がある。しかし、中国で食べる日本米よりも日本に来て食べる日本米はさらにおいしい。日本には、いかにおいしくお米が炊けるかを追求した炊飯器がたくさんある。そこで炊飯器に行きつく。
現在、在日中国人は80万人を超えて、在日朝鮮人を上回っている。その友人を訪ねて旅行している人も多い。口コミがものすごい効果を持っているのも特徴。
デジカメや化粧品など、中国人旅行客は日本で大量に買い物をするというイメージもあるが、これは関税が日本の方が安い、偽物が氾濫する中国より日本で本物を買いたい、日本エリア限定商品がある、新作が出るのが早い――などさまざまな理由がある。今何が売れているかの表面を追うだけでは、実態はなかなか見えてこない。中国人旅行者のニーズを追うだけの一方通行もダメで、日本人が中国人観光客をどう見ているのかも大事。
中国とひと言でいっても大変広い国で、北と南、内陸部と沿岸部では言葉だけでなく考え方も異なる。年齢によっても考え方はずいぶん違う。文化大革命を経験した45歳以上の人は、映画などで最初にインプットされたイメージを大事にしていて、その面影を探しに日本に来る。30代は先進の技術、10―20代は日本の漫画、フィギュア、コスプレといったものに興味がある。
しかし、どのように接すればいいのか、難しく考える必要はない。普通のお客さんと同じように接すればいい。人間だから丁寧に接すれば気持は通じる。来日後、どこへ行くのか。各地域のプロモーションはしっかり行う必要がある。どこも似たようなPRをしていても区別がつかない。一番差別化できるのは何か。それがわかって初めてPRができる。
観光客が見たいのは、興味を持っていること。観光客の立場で考えれば、県や市や町の区切りも関係ない。広域で連携を取らないと、観光客が求めているものと行政がPRしているものがずれていく。
そしてプロモーションにはぜひプロの手を入れてほしい。アマチュアだけでやるとチェック機能がない。中国人が見ると違和感のあるものになってしまう。プロが入れば見せ方、言葉の使い方など、微妙なニュアンスの調整ができる。
中国人は日本に対して、文化や技術などあらゆる面でレベルが高いというイメージを持っている。実際に来てみて、雑なところがあると「なぜ?」となる。期待が大きい分だけ落胆も大きい。今までの観光情報をそのまま多言語展開するプロモーションは終わりにした方がいい。