山陽・九州新幹線「さくら」を公開、車内は木材生かして温かみ演出

 2011年春の九州新幹線(鹿児島ルート)全線開業に合わせ、新大阪―鹿児島中央駅間を直通運転する山陽・九州新幹線「さくら」の車両が6月15日、マスコミ関係者に公開された。

 新幹線車両はN700系をベースとした8両編成で、「凛(RIN)」をキーワードに和のもてなしを意識してデザインされた。車体の色は陶磁器の青磁のような「白藍(しらあい)」色を使用し、車体横には濃藍と金色のラインが伸びる。

 車両は1―3号車が2―3列シートの自由席で、客室は若桜調の木目を生かした柔らかな雰囲気。指定席は4―8号車で、6号車の一部がグリーン席となる。指定席は朱桜調の木目の客室で、座席はレールスターの2&2サルーンシートをブラッシュアップ。長時間の座席にも快適な新リクライニング機構を採用。手すりやテーブルにも木を使用した。

 グリーン席は手すりやテーブル、デッキに古代桜調の木材を使用。座面、背もたれ連動のリクライニングシートにレッグレストと枕を設置し、航空機の特別シートに匹敵する快適さを追求。シートを濃藍色の生地、通路には金色の花唐草模様のじゅうたんを敷くなど、プレミアム感を演出している。

 5号車には女性に優しい専用トイレや、全身の写る三面鏡をつけたパウダールームも設置。7号車には多目的室や多機能トイレも完備した。喫煙ルームも4カ所設けている。

 12月からは九州での試験走行を行う。全線開通後は、新大阪―熊本駅間が3時間20分前後、同―鹿児島中央駅間が4時間前後で結ばれる。

個人旅行拡大推進の年に、中連協 新会長に山崎氏

 中華人民共和国訪日団体観光客受入旅行会社連絡協議会(中連協、山崎道徳会長代行、212会員)は6月8日、東京都内で第11回通常総会を開いた。山崎会長代行は7月から中国人向け観光ビザの発行条件が大幅に緩和され、中国指定旅行会社や、発給地域も拡大されることをあげ、「中国の旅行会社の情報提供など、我われの活動も強化していかなければならない。積極的な予算組も行った。今年は中国人個人旅行拡大を推進していく年にしよう」とあいさつ。今後の重点的な取り組みとして、中国指定旅行会社との速やかな関係拡大、煩雑な個人旅行の手続きの簡素化、団体旅行における自由行動の制限緩和――の3点をあげた。

 とくに個人旅行の手続きについては、団体と同じくらい手間がかかり、中国指定旅行会社からの不満の声も多いという。また、日本の受け入れ側旅行会社も帰国の報告に関する諸手続きがあるなど、改善をはかるべき課題は多い。山崎会長代行は「中国指定旅行会社やお客様の声を真摯に受け止め、直接観光庁に報告し、改善の努力を続けたい」と話した。

 これについては中国国家観光局の范巨レイ主席代表も「一部国内メディアでは自分でビザ申請し、自由に行き来ができる『自由行』と報道されている。煩雑な手続きを考えると利益にならないと現地旅行会社の抵抗も強い。場合によっては逆効果。中身がどうなのか、もっと説明すべき」と危惧を示した。

 10年度の主な事業計画は、関係諸機関への要望書の提出、中国での研修旅行の実施、マーケット情報の会員向けセミナー、研修会などの実施、トラベルマーケット出展への協力。そのほか、ホームページ改定も行う。

 役員選任では、山崎道徳会長代行(JTBグループ本社執行役員・グローバル事業本部長)が会長に選任された。また、昨年7月から個人観光ビザの自由化が始まったことに伴い、協会名から団体を削除するとともに、規約のなかの団体にかかわる文言を変更する。

 副会長以下の役員は次の各氏。

【副会長】
土屋雅彦(日本旅行・VJC訪日推進室担当部長)

【幹事】
是川清人(中国巨龍旅行社・部長)▽吉野一男(ニュージャパントラベル・代表取締役会長)▽後藤順(近畿日本ツーリスト・中国・アジアセンター・センター長)

【監事】
足立成雄(トップツアー・経営管理本部経営企画部インバウンド推進部長)▽野口英夫(農協観光・旅行事業部国際交流課・課長)

05年度以降最多に、7.8%増の674件、「居酒屋・バー」がトップ

「外食産業の倒産動向調査」(帝国データバンク)

 帝国データバンクがまとめた2009年度の外食産業の倒産(負債総額1千万円以上)件数は、前年度比7・8%増の674件。現行の方法で調査を始めた05年度以降、最多の倒産件数となった。負債総額は765億6200万円で、大型倒産の減少から前年度を17・7%下回った。今後の見通しについては、10年度に入っても4月が50件、5月も57件と高止まりのうえ、口蹄疫の影響などといった懸念材料もあるとし、今後も高水準での推移が続く見込みだという。

 日本フードサービス協会によると、09年の外食産業の売上高は新規店を含めた全店ベースで03年以降、6年ぶりに前年を下回ったという。消費者の外食離れに加え、牛丼チェーンに代表される値下げ競争なども影響。市場が縮小するなか、一部の好調な大手を除き、厳しい経営環境下にあるとみている。

 倒産件数は05年度以降、ガソリン高や原材料高などの影響を受け増加基調が続き、09年度はリーマン・ショック後の不況で客離れが深刻化し、さらに増加した。ちなみに09年度は外食産業を除き全業種とも前年度割れとなっている。

 業態別で最も倒産件数が多かったのが「居酒屋・バー」の212件。前年に比べ14%増。07年9月から飲酒運転に対する罰則が強化されたことなどから、高水準で推移している。次いで多いのが「一般飲食店、食堂」の138件(前年度比17・9%増)。3番目は「日本料理店、料亭」の84件(21・7%増)。企業の接待交際費などの抑制から法人需要が落ち込んだ。倒産件数の増加率ではトップ。

 一方、中華料理店や西洋料理店、そば・うどん店は、前年度比2ケタ減だった。

 倒産の主な原因は販売(売上)不振、業界不振とする〝不況型〟が542件。構成比は80・4%となり、過去5年間で初めて80%を上回った。来客数や客単価を維持できず、新規で店や改装費用の借入金、店舗のテナント料などが重荷となって倒産するケースが多いと分析している。

 地域別では、近畿が266件でトップとなり、全体の4割を占めた。関東(214件)と九州(40件)は過去5年間で最多。増加率トップは中国で約2倍。傾向として広島や東京、神奈川、福岡など各地域の都市部での増加率が目立つ。

 東北や北陸、中部の3地域は、2ケタの減少となっている。

訪日旅行取扱の登録制度を、観光庁に訪日外客増加への要望書(JATA)

 日本旅行業協会(JATA)の外国人旅行委員会(委員長=田辺豊農協観光社長)は6月22日、観光庁に「訪日外国人客の増加に向けた要望書」を提出した。昨年の要望書は9項目だったが、今回は14項目に増やし、そのうち「訪日旅行取扱業の登録制度の新設」などを求める内容など、7項目を新たに要望した。

 新規は(1)インバウンド取扱業者の適正化の推進(2)通訳案内士関連問題への取り組み強化(3)中国関連問題への取り組み強化(4)人材育成の強化(5)訪日外国人観光客に便利な観光案内所の設置(6)航空路線の拡充及びチャーター施策の推進(7)海外でのプロモーション活動予算のさらなる増額――の7項目。一方、昨年から要望しているものの、成果があまり感じられない「訪日教育旅行の受入体制の強化」「MICEへの取り組み強化」などの5項目については、改めて記載した。また、「その他」で1項目設けた。

 このなかで、とくに新規(1)では、アジア市場の日本旅行の実態は、低品質なサービスでクレームを発生させ、国際競争力の低下などを招いていることや現在の業法では無条件で参入可能な自由な業界になっており、旅行者の保護に十分ではないことなどを問題点として列挙。観光産業の健全な育成と訪日旅行者保護の観点から、「訪日旅行取扱業(仮称)」の登録制度新設を求めた。また、これが困難な場合には、ランドオペレーターへの適切な指導と事故発生時の適切な対応のため、最低限の法整備として届出制を導入してほしい旨の妥協案も併記した。

 これに関して、国内・訪日旅行業務部の興津泰則部長は「これは規制強化ではなく、消費者保護や健全な商取引の観点から、緩和のなかで安心・安全に拡大していくためのもの」と述べた。

新会長に高橋氏「時代の潮流見極め事業」、東北観光推進機構が総会

 東北観光推進機構(幕田圭一会長)は6月18日、宮城県仙台市内のホテルで第3回通常総会を開き、みちのく冬祭り創造事業などの今年度事業計画案を承認。幕田会長の東北経済連合会会長の退任を受けて、新会長に高橋宏明東北経済連合会会長を選任した。

 今年度の事業計画のうち、新規事業は2007年に実施した海外マーケット調査を再度行い3年間の成果を検証するとともに次期実施計画策定の基礎データとして活用するほか、豪州向けのスキーパンフレット、中国富裕層向けの認知度向上事業などをあげている。

 また、旧正月行事を観光資源として育成するために東北冬祭り創造研究会(仮称)を立ち上げ、地域連携に関する提言を実施する。観光セミナーは関西圏、中京圏、九州圏に加え今年度は北海道でも開く。  このほか国内・海外向けのポータルサイトの運営やFIT向け招聘、豪州の旅行会社招聘、タイやロシアなどへのプロモーション、海外からの教育旅行誘致として広州と上海の教育関係者招聘、東北の観光素材を主要テーマにした番組制作などに取り組む。

 幕田会長は「昨年度は08年に3カ年計画で策定した中期実施計画の2年目ということで東北観光の認知度向上を重点課題として取り組んだほか、海外PRで香港や台湾など東アジアを中心にプロモーションを行った」と述べた。退任にあたって「東北各県が一致団結して東北観光の振興に努力し、東北の観光産業振興と経済の発展に寄与することを心に抱いていた」と機構への思いを披歴し、「今年は東北新幹線の全線開業もある。高橋新会長のもと一層の事業展開を進めてほしい」とエールを送った。高橋新会長は「観光の振興は東北経済の発展には欠かせないものであり、機構が果たす役割は大きい。幕田会長の築かれた路線をしっかりと受け止め、新たな時代の潮流も見極めながら事業に取り組むのでご協力を」と抱負を語った。

国内、国際線とも減、国内は最近10年で最低(09年の航空輸送統計)

 国土交通省がまとめた2009年の航空輸送統計速報によると、国内定期航空の輸送旅客数は前年比9・6%減の8395万人で、国際線も6・3%減の1539万人となりいずれも前年割れ。国内線は2000年以降の10年間で最も低く、国際線も新型肺炎(SARS)が影響した03年に次ぐ2番目の低さだ。

 国内線の搭乗旅客数は3年連続の減少で、8359万人は最近10年間で最低を記録した。景気低迷の影響によるものと思われる。月間でもすべての月で前年を下回った。なお、1999年以降08年までの10年間はいずれも年間9千万人を上回っていた。旅客数に搭乗距離をかけた人キロベースは、9・2%減の752億640万人キロとなる。

 幹線(新千歳、羽田、成田、伊丹、関西、福岡、那覇の7空港を結ぶ路線)とローカル線(その他の路線)別でみると、幹線が8・6%減の3489万人、ローカル線が10・3%減の4906万人になる。人キロベースでは幹線が8・4%減の353億6984万人キロ、ローカル線が10・0%減の398億3656万人キロ。

 路線別では大阪―那覇線の横ばい1路線を除いて羽田―大阪線や同―福岡線、同―那覇線、同―新千歳線など軒並み前年割れに終わった。落ち込み幅が最も大きかったのは中部―福岡線の35・6%減。  路線別ランキングのトップは羽田―新千歳線の約902万6千人。次いで同―福岡線の約750万9千人、同―伊丹線の約525万人、同―那覇線の約511万7千人、同―鹿児島線の約215万7千人と続き、上位5路線の順位は前年と同じ。6位以下では前年9位だった羽田―関西線が13位にまで順位を下げ、代わって前年10位だった羽田―長崎線が9位、同11位の羽田―松山線が10位に上がった。

 11位までの羽田―宮崎線まで、いずれも羽田と地方都市を結ぶ路線が占める。

 12位は福岡―那覇線で13位は羽田―関西線だが、14位が那覇―石垣線となり、沖縄リゾートの根強い人気を示している。なかでも那覇―石垣線は離島路線ながら100万人を維持し、健闘している。

 一方、国際線は経済危機や新型インフルエンザなどで訪日外国人観光客が落ち込み、6・3%減の1539万人にとどまった。人キロベースも7・7%減の672億343万人キロ。月間では6月を底に回復し、8月以降は前年を上回った。

 方面別の搭乗客数は、すべての方面で前年を割り込んだ。落ち込み幅の最も大きかったのはオセアニア(オーストラリア、ニュージーランド)の14・3%減。次が米大陸(南米、北米)の9・4%減。搭乗客数の最も多い方面は中国、韓国を除くアジアで466万4千人(前年比3・3%減)、2位が中国で305万8千人(1・1%減)、3位は韓国で229万5千人(3・1%減)。以下、太平洋(ハワイ、グアムなど)が203万6千人、米大陸が160万1千人、欧州が147万8千人、オセアニアが26万人と続く。

 航空貨物の輸送量は国内線が重量ベースで6・0%減の94万699トンとなり、7年ぶりの落ち込み。国際線も10・9%減の117万348トンで2年連続のマイナスを記録した。

会長に西田氏(東芝会長)国、地方、民間との橋渡し役に(日観協)

 日本観光協会(中村徹会長、741会員)は6月10日、東京都港区の東京プリンスホテルで第47回通常総会を開き、任期満了による役員改選で、東芝取締役会長の西田厚聰氏を会長に選任した。

 4期8年にわたり会長を務めた中村前会長は「観光というのは地域主権で、自分のまちをどうしたいのか地域の人たちが現実に形にしていくお手伝いをするのが任務だと思い、努めてきた」と振り返り、「新しい観光の切り口という観点から、経団連副会長の西田氏に後任をお願いする」と新会長に引き継いだ。西田新会長は「これまでの経験を生かし、国や地方、民間の橋渡し役などの果たすべき役割を遂行していきたい」と意気込みを語った。

 今年度事業は、(1)観光地域づくりと人材の育成(2)観光需要の喚起(3)外国人訪日旅行の促進と双方向交流の推進――を重点項目に掲げる。新規事業としては、海外観光宣伝事業のなかで、台湾向けプロモーションサイトの運営に加え、今年から2年の日台観光交流年を契機に、交流年事業を実施する。また、ニューツーリズムの活用と人材育成のセミナーなどを開くほか、新たな観光地域づくり基盤の整備や促進事業を行う。

 なお、日本ツーリズム産業団体連合会との合体も総会で承認し、今後は来年度総会までに新組織を設立して事業を開始する。法手続上は、日観協が存続法人となる。

日観協と合体、年内に詳細決定、第10回TIJ総会で承認

「観光立国の強力なエンジンに」

 日本ツーリズム産業団体連合会(TIJ、舩山龍二会長、183会員)は6月8日、東京都千代田区のグランドプリンス赤坂で第10回通常総会を開き、日本観光協会との合体などを承認した。

 10回目という節目を迎えるにあたり、舩山会長は「この10年は観光業界の飛躍に携われ充実した10年だった」と述べ、日観協との合体については「これから始まる10年は、新しい組織となり、観光庁の強力なパートナー、観光立国推進の強力なエンジンとなれれば」と思いを語った。

 10年度は「ツーリズム産業の連帯と拡大をはかり、観光立国の実現を目指す」ことを基本目標に、「休暇改革事業」「ツーウェイツーリズム事業」「広報・啓発事業」「産学連携事業」の4本柱の強力な推進と組織強化に取り組み、観光立国の実現へ向けTIJが主体的な役割を担うことを確認した。

 09年12月の理事会から検討を続け5月19日に合意書を交わした日観協との合体も、本総会で承認。合体準備協議会(仮)を立ち上げ、年内を目途に新組織名、制度設計、業務運営方針など、実務協議を重ね、結論を出していく予定だ。

 また、役員の一部改選も行われ、大西賢日本航空社長、小川矩良日本ホテル協会会長、佐々木隆之西日本旅客鉄道社長、新堂秀治全国空港ビル協会会長、太田耕造日本ツーリズム産業団体連合会事務局長の計5人が新任理事として就任し、大西氏は副会長に就いた。

国内宿泊旅行1.42回、宿泊数は2.31泊(09年度観光白書)

 国土交通省はこのほど、「2009年度観光白書」(09年度観光の状況・10年度観光施策)をまとめた。それによると、09年度の国民1人当たりの国内宿泊観光旅行回数は、前年度比6・0%減の1・42回(暫定値)、宿泊数は同2・1%減の2・31泊(同)だった。

 08年度の国内旅行消費額は同0・3%増の23兆6千億円。この結果、生産波及効果は51兆4千億円、雇用誘発効果は430万人と推計される。観光庁の矢ケ崎紀子参事官は「少ない回数、少ない日数で料金をかけて旅行していると想像する。消費額は横ばいだが、家族旅行が減少しているのでいつまで維持できるか。各世代で旅行回数0回が3―5割という数字もある」と所感を述べた。

 また、「宿泊旅行統計調査」によると、09年1―12月の延べ宿泊者数は2億9295万人泊で、このうち日本人延べ宿泊者数は2億7520万人だった。月別では、8月が3081万人泊と最多。昨年固有の要因としては新型インフルエンザ、また景気低迷の影響などから、シルバーウイークで好調だった9月を除くすべての月でマイナスだった。

 一方、海外旅行者数は同3・4%減の1544万6千人。8月以降、燃油サーチャージの廃止や円高などで回復基調に転じたものの全体では減少。また、訪日外国人旅行者数は景気後退や円高の継続、新型インフルエンザの感染拡大などで、同18・7%減の679万人と大きく減少した。

 2010年度の主な新施策は、「国際競争力の高い魅力ある観光地の形成」で、観光地域づくりプラットホームの立ち上げを支援し、共通の課題・解決策を整理する。「観光産業の国際競争力の強化及び観光振興に寄与する人材の育成」は、産業の新たなビジネスモデルの構築などに取り組む。「国際観光の振興」の国際会議(MICE)誘致では、今年を「Japan MICE Year」として積極的に海外にアピールする。また、「観光旅行の促進のための環境の整備」は、文化観光や医療観光、スポーツ観光の促進を行うほか、観光に関する統計調査として、観光事業者などの売り上げや就業実態などの調査手法を検討する。

医療機関とも連携、温泉地で現代湯治プラン(鳥取県・三朝、岡山県・湯原、鹿児島県・指宿の温泉地)

 温泉と健康・医療など組み合わせたヘルスツーリズムへの取り組みが盛んになっている。古くからある湯治の現代版で、入浴の指導やヘルシーメニューの開発、近隣の医療機関との連携、ITを使った科学的分析など病気予防の効果が「現代湯治」に期待される。そこで、鳥取県・三朝、岡山県・湯原、鹿児島県・指宿の3温泉地の取り組みを取材した。

「ITでストレスチェックも」

 鳥取県・三朝温泉は、世界屈指の高濃度ラドン含有量を誇る放射能線の泉質を生かして健康増進をはかる「現代湯治」に取り組む。同温泉の13軒の旅館が2―5連泊の滞在型宿泊プランを設定し、2泊目割引やカロリー・塩分など表示の夕食を提供。温泉入浴指導員「ラヂムリエ」の資格を持った旅館スタッフが、入浴方法などをアドバイスする。

 近隣の医療機関とも連携し、健康チェックも行う。温泉療法を行う岡山大学病院三朝医療センターと三朝温泉病院の2医療施設では、95度に温めた温泉泥をタオルでくるみ、約30分間患部にあてる「鉱泥湿布療法」や「温泉プール療法」などが受けられる(各種療法利用には医師の診察が必要)。

 3泊以上の滞在型プラン「湯食健身」を販売する「三朝薬師の湯 万翆楼」では、昨年9月から今年5月末まで湯治目的の宿泊が約1千泊あったという。50代後半から70代の年齢層が中心で、地域は西日本エリアが多いが、首都圏からも少なくない。

 県の「健康づくり応援施設」事業の認定を受け、夕食メニューにカロリーとたんぱく質、塩分を計算した栄養成分を表示。長期滞在客には地元食材を使った日替わりメニューを用意する。例えば水曜日は「すっぽんスープ小鍋仕立て」「鯉の洗い、酢味噌和え」「鯖の煮付け」など10品で、総カロリー687キロ、たんぱく質33・6グラム、塩分7グラムに抑える。

 同館の高島稔支配人は「旬の食材も使いながら、今後はヘルシーメニューの昼食も対応していきたい」と話す。

 また、岡山県の湯原温泉では2004年から地元の真庭国民健康保険・湯原温泉病院と連携し、人間ドッグと旅館の1泊2食をセットした「湯けむりドッグ」を発売し、お湯が豊富な温泉と健康保養でイメージアップをはかる。セット料金を2万9千円からと格安設定し、旅館スタッフが正しい温泉の入り方も指南する。

 検査は医師による問診・診察から身体計測、循環器、呼吸器、血液、肝機能、脂質、腎機能、糖代謝、消化器などの項目で行う。希望で直腸がんや乳がんなどの検査もできる。とくに同病院では、血液検査で消化器系のがんを発見できるペプシノゲン法を取り入れており、受診者は朝食を摂って検査に臨める。検査も午後1時から約2時間で終了。30分後には医師の説明がきけ、夜には旅館で通常の夕食が食べられる。600キロカロリー以下に抑えたヘルシーメニューも用意した。

 同病院よると09年度の「湯けむりドッグ」受診者数は66人。温泉組合の古林伸美理事(プチホテルゆばらリゾート)は「夫婦や家族で予約し、そのうち1人が利用するケースが多く、宿泊者数にすれば200―300人になる」と話す。

 課題は「滞在しての楽しみ方」(古林理事)で、懐かしい射的場を復活させたり、ボランティアガイドによる散策、ロンドンタクシーでの周遊、そば打ち道場での体験などメニューをそろえている。

 一方、砂むし温泉で知られる鹿児島県の指宿温泉では、ホテル・旅館10軒が温泉保養・滞在のリラックス度を測定する「平成版IT湯治」の無料お試しキャンペーン(実証実験)の第1回を昨年9月20日から今年2月7日まで、4月からは通年で実施している。

 IT湯治は、ホテル・旅館に用意されたベルト型の計測器(小型心電モニター)を胸につけて(砂むしや温泉入浴ははずす)、朝から夜まで約12時間の行動を30分間隔で記録してリラックス度(ストレス変化)を計測する。ホテル旅館に設置のパソコンで、その記録をチェックして、結果をプリントアウトして持ち帰り、日常のストレスと健康のコントロールに役立ててもらおうというもの。

 主催は同温泉のホテルや県、大学、医学財団など産官学で構成する「鹿児島県健康保養地域活性化協議会」で、旅館・ホテルが共催する。対象は指宿温泉に原則2泊以上する滞在客で、各旅館・ホテルで5人ずつの1日50人の限定利用とした。

 第1回のキャンペーンでは約200人が利用。そのうち168人にアンケート調査し、結果をまとめた。全体の約4割が50―60歳代だったが、働き盛りの30―40代も3割を占め、職業では「仕事でのストレスを感じている」と思われる会社員が全体の6割を占めた。

 体験の感想では「ストレスの変化が見られ、体調管理など日常に生かせる」などおおむね好評だった。主催者の1人、指宿ロイヤルホテルの細川明人社長は「計測器の使いやすさと有料の場合の価格設定(アンケートでは3千円以上5千円未満が1位)、検査データの表現を面白く、分かりやすくする」などを今後の課題に上げる。

 IT湯治はJTB九州が旅行商品のオプションとして組み入れており、医療、健康組合、生保などの企業団体からも関心が集まっているという。

 主催者は地元食材を生かした低カロリー食の開発とウォーキング、砂むし入浴などを組み合わせた滞在型プログラムに、身体状況計測器・ICTを活用した滞在者の健康チェックを組み込み、商品化の定着を目指す。