温泉と健康・医療など組み合わせたヘルスツーリズムへの取り組みが盛んになっている。古くからある湯治の現代版で、入浴の指導やヘルシーメニューの開発、近隣の医療機関との連携、ITを使った科学的分析など病気予防の効果が「現代湯治」に期待される。そこで、鳥取県・三朝、岡山県・湯原、鹿児島県・指宿の3温泉地の取り組みを取材した。
「ITでストレスチェックも」
鳥取県・三朝温泉は、世界屈指の高濃度ラドン含有量を誇る放射能線の泉質を生かして健康増進をはかる「現代湯治」に取り組む。同温泉の13軒の旅館が2―5連泊の滞在型宿泊プランを設定し、2泊目割引やカロリー・塩分など表示の夕食を提供。温泉入浴指導員「ラヂムリエ」の資格を持った旅館スタッフが、入浴方法などをアドバイスする。
近隣の医療機関とも連携し、健康チェックも行う。温泉療法を行う岡山大学病院三朝医療センターと三朝温泉病院の2医療施設では、95度に温めた温泉泥をタオルでくるみ、約30分間患部にあてる「鉱泥湿布療法」や「温泉プール療法」などが受けられる(各種療法利用には医師の診察が必要)。
3泊以上の滞在型プラン「湯食健身」を販売する「三朝薬師の湯 万翆楼」では、昨年9月から今年5月末まで湯治目的の宿泊が約1千泊あったという。50代後半から70代の年齢層が中心で、地域は西日本エリアが多いが、首都圏からも少なくない。
県の「健康づくり応援施設」事業の認定を受け、夕食メニューにカロリーとたんぱく質、塩分を計算した栄養成分を表示。長期滞在客には地元食材を使った日替わりメニューを用意する。例えば水曜日は「すっぽんスープ小鍋仕立て」「鯉の洗い、酢味噌和え」「鯖の煮付け」など10品で、総カロリー687キロ、たんぱく質33・6グラム、塩分7グラムに抑える。
同館の高島稔支配人は「旬の食材も使いながら、今後はヘルシーメニューの昼食も対応していきたい」と話す。
また、岡山県の湯原温泉では2004年から地元の真庭国民健康保険・湯原温泉病院と連携し、人間ドッグと旅館の1泊2食をセットした「湯けむりドッグ」を発売し、お湯が豊富な温泉と健康保養でイメージアップをはかる。セット料金を2万9千円からと格安設定し、旅館スタッフが正しい温泉の入り方も指南する。
検査は医師による問診・診察から身体計測、循環器、呼吸器、血液、肝機能、脂質、腎機能、糖代謝、消化器などの項目で行う。希望で直腸がんや乳がんなどの検査もできる。とくに同病院では、血液検査で消化器系のがんを発見できるペプシノゲン法を取り入れており、受診者は朝食を摂って検査に臨める。検査も午後1時から約2時間で終了。30分後には医師の説明がきけ、夜には旅館で通常の夕食が食べられる。600キロカロリー以下に抑えたヘルシーメニューも用意した。
同病院よると09年度の「湯けむりドッグ」受診者数は66人。温泉組合の古林伸美理事(プチホテルゆばらリゾート)は「夫婦や家族で予約し、そのうち1人が利用するケースが多く、宿泊者数にすれば200―300人になる」と話す。
課題は「滞在しての楽しみ方」(古林理事)で、懐かしい射的場を復活させたり、ボランティアガイドによる散策、ロンドンタクシーでの周遊、そば打ち道場での体験などメニューをそろえている。
一方、砂むし温泉で知られる鹿児島県の指宿温泉では、ホテル・旅館10軒が温泉保養・滞在のリラックス度を測定する「平成版IT湯治」の無料お試しキャンペーン(実証実験)の第1回を昨年9月20日から今年2月7日まで、4月からは通年で実施している。
IT湯治は、ホテル・旅館に用意されたベルト型の計測器(小型心電モニター)を胸につけて(砂むしや温泉入浴ははずす)、朝から夜まで約12時間の行動を30分間隔で記録してリラックス度(ストレス変化)を計測する。ホテル旅館に設置のパソコンで、その記録をチェックして、結果をプリントアウトして持ち帰り、日常のストレスと健康のコントロールに役立ててもらおうというもの。
主催は同温泉のホテルや県、大学、医学財団など産官学で構成する「鹿児島県健康保養地域活性化協議会」で、旅館・ホテルが共催する。対象は指宿温泉に原則2泊以上する滞在客で、各旅館・ホテルで5人ずつの1日50人の限定利用とした。
第1回のキャンペーンでは約200人が利用。そのうち168人にアンケート調査し、結果をまとめた。全体の約4割が50―60歳代だったが、働き盛りの30―40代も3割を占め、職業では「仕事でのストレスを感じている」と思われる会社員が全体の6割を占めた。
体験の感想では「ストレスの変化が見られ、体調管理など日常に生かせる」などおおむね好評だった。主催者の1人、指宿ロイヤルホテルの細川明人社長は「計測器の使いやすさと有料の場合の価格設定(アンケートでは3千円以上5千円未満が1位)、検査データの表現を面白く、分かりやすくする」などを今後の課題に上げる。
IT湯治はJTB九州が旅行商品のオプションとして組み入れており、医療、健康組合、生保などの企業団体からも関心が集まっているという。
主催者は地元食材を生かした低カロリー食の開発とウォーキング、砂むし入浴などを組み合わせた滞在型プログラムに、身体状況計測器・ICTを活用した滞在者の健康チェックを組み込み、商品化の定着を目指す。