UTセンター設立、旅行業取得へ、神戸UTフォーラム

「全国協議会の設立目指す」

 神戸ユニバーサルツーリズム(UT)の成果報告会「ユニバーサルツーリズムフォーラム」(主催・NPO法人ウイズアス)が2月27日、神戸市内の神戸学院大学で行われた。

 内閣府の09年度地方元気再生事業に認定された「ユニバーサルツーリズム事業の振興と障がい当事者の一般就労機会の創出による地域活性化プロジェクト」での取り組み内容と成果を報告し、安心安全で豊かな旅を支援するUTの推進と全国各地との連携などについて議論を深めた。

 第1部では神戸学院大学、阪南大学、神戸夙川学院大学の福祉や観光を学ぶ学生がジョイントし、神戸市内10カ所に設置された「どこでも車いす」を活用した神戸観光の楽しみ方を紹介した。

 3大学の学生が7チームを編成し、北野異人館街や南京町、ハーバーランド、三宮センター街などテーマに沿ってルートマップを作成し、実際に車イスに乗って体験した観光のポイントと利用施設の入り口段差、スロープ、スタッフの対応など評価し、問題点を指摘した。

 主催者では「福祉の学生が観光を、観光の学生が福祉を学ぶ取り組みは全国でも珍しい」と話し、今後さらに発展させていく考えだ。

 第2部では事業推進の各部会報告が行われた。UT推進委員会ではウイズアスを中心に、移送、宿泊、福祉・医療の関係連絡協議会に旅行会社、神戸市、県などと「神戸UTセンター」を設立し、ワンストップサービスを提供。4月に旅行業2種取得を目指し、UT商品の販売など積極的な誘客を目指していく計画も明らかにされた。さらに全国UT推進連絡協議会の設立も目指し、全国各地の連携も強化する。

 この日は旭川、東京、神戸、松江、熊本のUTに取り組むNPO代表によるパネルディスカッションも開かれ、活動内容と抱える問題など意見を交換。日本ユニバーサルツーリズム推進ネットワーク「協力と連携の宣言」を承認した。

青森で国内活性化、フォーラム開く(ANTA)

 全国旅行業協会(ANTA)は4月8日、青森県・青森市文化会館で「第7回国内観光活性化フォーラム」を開く。基調講演や記念講演、パネルディスカッションのほか、地旅大賞の表彰式なども行う。

 フォーラムは、午後1時に開会。第1部は、1時30分から観光庁の田端浩観光地域振興部長が、「国内観光旅行の促進について」を題に基調講演を行う。その後、1時50分から「売れる着地型旅行商品(地旅)づくりに向けた課題(仮称)」をテーマに、まちづくり観光研究所所長の奥坊一広氏がコーディネーターを務めるパネルディスカッションを実施する。パネラーは、弘前観光コンベンション協会専務理事の今井二三夫氏とびわ湖・近江路観光圏協議会 長浜市産業経済部観光振興課副参事の北川賀寿男氏、飯山市観光協会主任の小泉大輔氏、㈱全旅社長の池田孝昭氏の4人。

 第2部は、3時30分から記念講演として伊奈かっぺい氏が登壇。4時40分からは青森大学学長の末永洋一氏が観光情報を紹介する。また、5時10分から(株)全旅主催の「第2回地旅大賞」を発表、表彰する。なお、フォーラム後は市内のホテル青森で6時20分から懇親・交流会を開く。

多彩な観光資源紹介「バイオマスツアー」など(岡山県真庭市)

 岡山県真庭市(井手紘一郎市長)は2月26日、東京都内で旅行会社やマスコミ関係者を招き観光素材説明会を開いた。首都圏での知名度向上が狙いで、井手市長自らトップセールス。初の試み。同市は中国山脈、大山の麓、岡山県の最北に位置し、鳥取県と隣接する。平成の市町村合併で5年前にできた。

 09年は勝山町並み保存地区が都市景観大賞「美しいまちなみ大賞(国土交通大臣賞)」に、バイオマス(生物資源)事業を見学する「バイオマスツアー真庭」が新エネ大賞の普及啓発活動部門金賞(経済産業大臣賞)に選ばれるなど注目が集まるが知名度は低い。

 井手市長は「真庭市の観光を一言でいうと多彩」と表現。北から南へ、蒜山高原、湯原温泉、神庭(かんば)の滝、勝山町並み保存地区、旧遷喬尋常小学校、醍醐桜など多くの観光スポットを紹介した。醍醐桜は見晴らしのよい高台にある推定樹齢1千年の一本桜。五分咲きのころから午後9時までライトアップされ、夜桜も楽しめる。見ごろが近づくと、付近の道の混雑は必至という。

 また、井手市長は「市の8割が山林で木材はふんだんにある。バイオマスタウンとして新しい産業作りにも取り組んでいる」と紹介。例えば木材ペレットを活用したエコ発電や、木材をナノレベルまで超微粉砕し、バイオディーゼル燃料を製造する取り組み、コンクリートに木紛を入れ、鉄と同じ強度を持つバイオプラスチックの製造などをあげた。

 これらの取り組みを産業観光として見せる「バイオマスツアー真庭」には、全国から年間2千人以上が参加し人気ツアーになっているという。

会期は来年1月10月まで「であい博」の魅力発信、都内で旅行会社に説明会(高知県)

 土佐・龍馬であい博推進協議会(会長・尾崎正直高知県知事)と高知県観光コンベンション協会(岡内啓明会長)は3月1日、東京都内のホテルで旅行会社を招き、1月16日に開幕した「土佐・龍馬であい博」の説明会を開いた。

 あいさつに立った協議会の宮村耕資運営委員長は「NHKの大河ドラマ『龍馬伝』の放映を受けて坂本龍馬と岩崎弥太郎の故郷高知で、土佐・龍馬であい博が約1年間の会期で開幕した。視聴率も好調で、都内の書店でも龍馬関係コーナーが人気と聞く。ドラマを見た人の関心が旅行という行動に出る時期が近づいた」と述べた。であい博は「メイン会場となる高知市のほかに安芸、土佐清水、梼原の3市町をサテライト会場にしている」とし、県内全域に観光客を誘導する博覧会の魅力を理解して、高知県への送客をと要請した。

 であい博の会期は来年1月10日まで。JR高知駅前のメイン会場「高知・龍馬ろまん社中」では、ドラマ関連の企画展示や学び成長していく龍馬の姿をパネルや資料、シアターで紹介。併設する情報発信館「とさてらす」は、映像で高知の観光地紹介のほか高知自慢の特産品販売コーナー、観光案内所などがある。

 サテライト会場の安芸市は三菱グループの創始者となり世界に冠たる企業を築いた岩崎弥太郎の立志伝を、龍馬との関わりとともに紹介する「安芸・岩崎弥太郎こころざし社中」、土佐清水は龍馬が世界に目を向けるきっかけとなったジョン・万次郎にスポットを当てた「土佐清水・ジョン万次郎くろしお社中」、梼原町は龍馬が脱藩した街道として龍馬と立ち上がった同地の若き志士たちを関連資料やパネルなどで紹介する「ゆすはら・維新の道社中」を行っている。

 入場料はメイン会場が大人500円、小中学生250円。団体は15人以上で同400円、同200円。サテライト会場は同200円、同100円。団体は同160円、同80円。なお、メイン会場とサテライト会場のすべてが回れる通行手形は、大人700円、小中学生350円。

 問い合わせ=同博推進協議会 電話088(823)9043。

山梨特集 特別企画「NEXT山梨~次のステージを担う旅館経営者の座談会」

「時代に挑戦する個性的な宿の魅力」  山梨特集の特別企画「NEXT山梨~次のステージを担う旅館経営者の座談会」に、県内で個性的な宿づくりをしている「風のテラスKUKUNA」(富士河口湖温泉郷)の宮下明壽代表取締役社長、「若草の宿 丸栄」(富士河口湖温泉郷)の渡辺洋専務取締役、「銘石の宿 かげつ」(石和温泉)の横森光平代表取締役社長の3氏に登場していただいた。新たな旅館像を探りながら、山梨全体の活性化策も聞いた。

「一生自分も楽しんで続けられる旅館――宮下氏」

 ――宿の特徴をお話いただけますか。「風のテラスKUKUNA」は個性的な宿として知られています。

 宮下:会社の母体である河口湖第一ホテルは、創業50周年を迎えた2005年に約1年間休業して全館リニューアルを行いました。そのときに、祖父母の代から50年も営業してきた河口湖第一ホテルという屋号を、思い切って「風のテラスKUKUNA」に変えました。激変する旅行業界の動向や消費者志向の変化に乗って、「新たな気持ちで再出発したい」との思いが強かったのです。屋号を変えると心も一新し、生まれ変わった気持ちになりました。「KUKUNA」は、ハワイの古い言葉で「日の光」という意味です。

 富士五湖エリアはもともと美しい湖に面し、富士山をはじめ名山が望める高原リゾートのイメージが強くあったので、河口湖の大自然に囲まれた光と風と、水をイメージした「リゾート感」や「開放感」のある宿を演出していきたいという思いがありました。同じ河口湖畔の「若草の宿 丸栄」さんもそうですが、周辺には純和風の旅館がたくさんありますので、「似通った旅館をつくっても河口湖畔全体の底上げにはならない」「多種多様なタイプの宿泊施設があることによって、河口湖という温泉地・リゾート地の幅が広がる」と考えました。たまたま私は海外(ハワイ)での生活も長かったので、過去の経験値も生かした方が自分の得意な分野が伸ばせると考え、ハワイをイメージした施設をつくりました。しかし、リニューアルから3年半が過ぎ、少しずつですが私たちが目指す河口湖らしい独自のリゾート感、つまり「KUKUNAらしさ」が従業員にも、お客様にもイメージされるようになってきました。

 3年半前にリニューアルした大きな目的は、団体主流でやってきたスタイルを個人型に移行するためでした。当時は団体と個人の比率は8対2でしたが、今はそれが逆転しました。宿のネーミングで若年層中心とイメージされやすいのですが、高齢層のお客様も多いのが特徴です。3年半前に改装したときには9割が和室でしたが、高齢者の割合が多くベッド希望が増えてきたため、現在は全体の半分をベッドの部屋にするための改修工事を行っており、車イスも2台から5台に増やしました。この2010年夏に、新KUKUNAがリフレッシュオープンします。

  私たちはとくに客層を特定せず、「KUKUNA」スタイルを支持していただけるすべてのお客様に泊まってほしいと思っています。

 ――接客が高評価を受けている「若草の宿 丸栄」の特徴は。

 渡辺:私は4代目なのですが、歴史を辿ると、呉服業を営んでいた曽祖父が、1955年に木造の小さな旅館を創業したのが始まりです。屋号の「丸栄」は初代栄吉の名にちなみ、「宿の繁栄とご来館くださったお客様の人生が丸く栄えたものになりますように」という願いが込められています。「若草の宿」は、「いつの日にも伸びゆく宿でありたい」との思いから、私が専務に就任したときに命名しました。

 富士山麓という自然が豊かな場所にあり、富士五湖で一番にぎわいのある河口湖畔にありながら、喧騒を離れた一軒宿のような佇まいが特徴となっています。お客様には宿の前にある遊歩道の散策など、常に自然を身近に感じていただける環境にあります。宿では日本の風情を基調とした雰囲気を味わっていただきたいと思います。

 昨今では畳の部屋がある家庭が減ってきています。だからこそ旅館の和室は、今や日本人でありながらエキゾチックな「非日常」と「落ち着き」の両方を感じていただける空間と捉え、当館では和の雰囲気をとても大切にしています。客室には窓から見える風景に合った言葉を書に表し、軸にして飾り、自然との調和をさりげなく演出しています。お客様に意味を尋ねられても、従業員がすぐに答えられるよう教育も行っています。目まぐるしく変化する時代のニーズに沿った宿の姿を日々模索しながらも、一方で「日本の旅館にこだわりたい」という強い思いがあります。

「“進取性”に富んだ企業家でありたい――横森氏」

 ――先進的な取り組みをされている「銘石の宿 かげつ」の特徴は。

 横森:かげつは、祖父が創業してまもなく50年を迎えます。当初は甲府で旅館を営んでいましたが、石和で温泉が湧き出てから2年目の年に別館をつくり、小さな宿からスタートしました。現在、6千坪の敷地に36部屋と、非常にゆったりとした造りになっています。

 石和温泉には地形的な大きな特色がなかったので、かげつは創業以来庭とお風呂に特化した宿づくりをしてきました。バブルの頃までは経営的にも順調でしたが、私が3代目として22歳で会社に戻ってきた時期は景気が低迷し、宿も厳しい経営環境にありました。そのときから、財務や人事、営業、銀行との交渉といった会社経営者としての権限が、すべて私に委譲されていました。

 そのような状況で、まず財務の見直しなど経営の建て直しから入ったので、当初は宿の特色などは考える余裕がありませんでした。私は旅館の主というよりも、経営者の視点で「無駄を無くしていこう」ということを優先させてきました。最初はお金をかけられなかったので、掃除や清掃を徹底しました。身の回りの整理整頓をやっていくうちに、仕事がスムーズになっていきました。驚いたのは、事務所にあったものの7割ほどがいらないものでした。

 3代目である私は、祖父が作り、父が大きくした会社をしっかりと守りながらも、「新しいかたちにして世に出していく」ことが宿命と考え、さまざまな改善を行っている最中です。

 ――かげつでは、「従業員の働きやすさ」など、労務管理などにも従来型の旅館にはない新しい取り組みをされています。

 横森:私が一番大きく変えたことは、「旅館はこうあるべきだ」といった固定観念です。製造業やサービス業など多種多様な業種の経営者などにお話を聞き、そこからヒントを得ながら、従来型の旅館業のあり方という固定観念を捨てて、さまざまなことに取り組んできました。

 労務管理に関しては、まず「働きたい」と思われる会社を目指しました。社員の気持ちになって、労働時間の短縮や、ローテーション化といった「働きやすい環境づくり」に今も日々取り組んでいます。ローテーションは前もって1カ月先まで基本的なものをつくっておくなどシステム化しています。そして、週に1日くらいは、午前中のみで午後から休みというような、勤務スケジュールも取り入れており、社員は休日以外にも自由な時間が増えることで、宿でのモチベーションアップにつながる取り組みも行っています。

 やはり、かげつで働く社員や取引業者さんに、誇りを持っていただけるような経営をしていくことが目標であり、そして、その先には地域貢献などにも取り組むことによって、地域の皆さんが応援してくれるような宿を目指したいと考えています。

 宮下:これからの旅館は地元の若い人たちに「あの旅館で働きたい」と思われ、雇用していくことが非常に大きなポイントになっていくと思います。KUKUNAのすべての根底にある考えは、「ES」(従業員満足)です。「CS」(顧客満足)を高めるにはさまざまな手法があると思うのですが、やはり「従業員の満足度を上げる」ことが一番基本にあると思います。それによって旅館業界の価値観や、地位の向上にもつながると考えています。

 私はその中で大きく3つのことを実行しています。

 1つは、会社としてしっかりとした基本理念を常に示しながら、社員が一丸となってテーマを考えます。私はハワイのリッツカールトン・カパルアで働いていたときに、「クレド」というものに強いインパクトを受け、その経験からKUKUNAを立ち上げたときに参考にしました。育ちも感性も違う従業員が、一語一語考えて提出したテーマをカードにして身に付ける。これに基づいて経営者も従業員も心を一つにしていくことを大切にしています。2つ目は、社員全員に7段階の決済権を与えていることです。これは仕事のやりがいは“社員全員の経営者意識”がとても大切だという考え方に基づいています。3つ目は、地元のスタッフを極力採用すること。インバウンドの拡大などグローバル化するなかで、旅行者は訪れた地域の人との触れ合いの中で、ローカルな話が聞きたいものです。富士山の麓で生まれ育った地元の人は、マニュアルどおりの受け答え以上の楽しい話ができると信じています。8割を地元のスタッフでそろえるのが目標です。

「人情あふれる行き届いた日本の宿に――渡辺氏」

 ――「若草の宿 丸栄」ではどのような人材教育をされていますか。

 渡辺:「人(お客様)が人(従業員)に癒される宿」をサービスのコンセプトにしています。

 旅館というサービス業では、身だしなみや所作、言葉遣いの美しさ、笑顔の清々しさなどの基本が自然にできるのが当たり前だと考えています。しかしながら、その当たり前のことができるように育てるまでには、大変なトレーニングが必要です。感性の問題や、生まれ育った環境もあります。そして、次の段階では、自ら考えて動ける人を何人育てていけるかが勝負だと思います。

 私が大学時代に演劇を専攻していたこともあって、お客様が宿にチェックイン(開演)してからチェックアウト(カーテンコール)までの間に、従業員(役者)はマニュアル(台本)をベースに、お客様を満足させるサービス(アドリブ)ができる、臨機応変の対応能力を育てていくことを目標にしています。

 毎年4月の新人研修では、入社日から1週間は全員で清掃の仕事をやります。それによって館内の倉庫やパントリーなどのバックヤードの仕組みを覚えることができます。次の1週間はフロント係ならばそれ以外の部署で、お皿洗いや布団敷きなどあらゆる仕事を経験させます。2週間の基礎研修を終えると、次は客室係の研修です。これは、部屋割をする際も、仕事配分が理解でき、いざというときにはあらゆる部署のスタッフが応援できる体制をつくるためです。その後、5月中ごろから、それぞれの部署に入っていきます。この仲居研修のなかで、正座の状態での前後左右の動きやお盆を持ってから立つ、座ってから置くといった所作、立居振る舞いを徹底的に仕込む教育訓練を行っています。

 宮下:「丸栄」さんのような純日本旅館では、お客様がそのようなサービスを求めてきますので、社員教育も徹底されていると思います。一方、KUKUNAでは、「いかにお客様に気を使わない旅館をつくるか」がベースにあり正反対のスタイルを考えております。ただ、お客様が求めてきたときには、120%の応対をするように指示しています。

 KUKUNAでは、従業員の満足を最も大切にし、次に大切にするのが協力業者さん、その結果がお客様の満足につながればと考えます。経営幹部には「お客様に感謝されるために、まず社員の満足を考えなさい」と言っています。この順番だけは間違えないように徹底しています。しかし、この考え方には中小零細の旅館経営に一つ足りないことが気づきました。それは多くの旅館は家業であり、企業である欧米のホテルとは決定的に違う部分があります。

 我われが最初に考えなければならないのは、自分の家族を一番大切にすることです。社長と女将、先代と若旦那が違うことを言っていたのでは社員は困惑してしまう。これが旅館の家業の難しさでもあります。私自身できるだけ家族全員で食事をするように、いつも心掛けています。

 ――宿の個性化について。

 宮下:宿の個性というのは、生まれて育った環境やさまざまな人たちと出会う中で、自分の内から出てくるもので、本当に自分がやりたいことが宿の個性化につながっていくのだと思います。

 私もKUKUNAを立ち上げるときに、「周りの和風旅館のように安全に基本ベースを合わせようか?」と悩みました。だけど個性とは、自分自身なのです。これだったら一生自分も楽しんで続けられるというのがKUKUNAなのです。周りからは「個性豊かだね」などといわれますが、自分自身が飽きずに、自分らしくやっていることが結果としてオンリーワンになってゆくのだと思います。自分自身というキャラクターは、世界に1人だから……。

 渡辺:宿の個性とは、言い換えれば、経営者の「魂」ですね。自分の嫌なことは続けられない。好きな道を究めることも苦しいですが、好きな仕事だからこそ耐えられる喜びもあります。

 丸栄では、夕食後のひとときに行う紙芝居があります。今では、年間100日ほど上演する私の紙芝居を定期的に見てくださるための会もできました。父親が団体旅行華やかなりし頃、宿としての特色を出そうと、さまざまな舞台を演出していましたが、毎回芸人さんを頼んでいるとお金がかかるので、自分で音楽の好きな仲間を集めて楽団でボーカルや、ギターを弾いたりしていました。祖母も踊りの名取でした。しかし、宴会で古典の舞踊を舞っても酔ったお客様には喜ばれないことに気が付き、演歌の名曲に合わせて踊っていました。私も小さな頃から舞台で歌い、演じてきました。その経験がベースにあるため、芸能を通じてふるさとを感じてもらいたいという気持ちが強くあります。ですから、高級な宿を目指しているわけではなく、馴染みのお客様同士がロビーで擦れ違うときに声を掛け合うような人情あふれる宿を理想としています。同時に、清潔な施設でサービスも行き届いて、美味しい料理も楽しめる日本の宿を目指しています。

 今の時代は、おじいちゃん、おばあちゃんから孫まで家族全員が一つのものを楽しむことが少なくなっていますが、紙芝居や童謡だったら一緒に物語を楽しめたり、手拍子を合わせたりできるので、旅館という舞台で世代を超えて楽しめる場を提供したいと思っています。次なる夢としては、詩の朗読など「表現をしたい」と思うお客様に、表現できる機会と場を提供し、お客様同士がコミュニティーを広げていけるような宿づくりを考えています。

 ――かげつはいち早く発光ダイオード(LED)照明を導入し、大幅なコスト削減を実現しています。

 横森:LED照明を導入したのもそうですが、情報を早く掴み、取り入れる進取性のメリットは、アドバンテージを取れるところにあります。LED照明の導入で年間約1千万円の光熱費の削減が可能で、初期投資も3年で返還できる見込みです。

 私は「企業家でありたい」という考え方で、これからもかげつの経営の枠だけに納まらず、もっと広い視野を持って色々な事業に挑戦したいと思っています。  企業としてかげつを成功させることを第1ステップとして、次の第2ステップでは、旅館とはまったく別のフィールドかもしれませんが、思い切ったチャレンジをしていきたいと考えています。幹部に別会社の社長を任せるようなビジョンも持っています。常にステップアップを考えながら、旅館だけの情報ではなく、全方面へアンテナを張り巡らし、取り入れていきたいと考えています。そして、成功した事例を、今度は旅館業界全体に広めていけるようなポジションにいたいと思います。

  宮下:KUKUNA改修工事の施設面で私が一番力を入れたのがバックヤードの充実です。今回のリニューアルで見事に実現できたのですが、お客様の廊下と同じくらい、バックヤードの廊下があります。玄関から9階のお風呂までお客様に一度も会わずにどこにでも行けるようにしています。だから、時折廊下でお客様に「スタッフの方が、あまりいないですね?」といわれます。バックヤードから表舞台に出る箇所は30カ所ほどありますが、そこには「笑顔で」などの言葉を書いていました。表舞台の笑顔を四六時中続けるのは不可能なので、バックヤードは従業員が少し気を抜く空間として、旅館にはとても大事だと思います。今後、改装を考えている旅館に参考になればと思います。

 ――山梨観光の活性化に向けての取り組みは。

 宮下:グローバルな視点から見たときに、抜群の知名度がある富士山と絡めることが重要ですが、何よりも「山梨」というブランド力が必要だと思います。京都や沖縄、北海道には行ってみたいと思っても、現状の山梨には「行ってみたい」と思わせるドキドキ感が少し足りないような気がします。

 山梨県は「観光立県」に向けて、県からのさまざまなバックアップによる追い風も吹いており、河口湖や石和も含めて、県内全体でレベルアップし、ブランド化していかなければならないと思います。これからの狙いは、FITとWEBの集客拡大ですが、今一番大切に思っているのが、地元のリピーター客です。地元のお客様は最大の味方。地元・山梨のお客様に気に入ってもらうことも、とても大事なことです。

 渡辺:山梨は小さな県だからこそ、全体を「一つの庭」と考えて、山梨のさまざまな特産物やフルーツ、甲州ワイン、食材を取り入れた料理を提供していくことが大切だと思います。3月27日には、石和温泉のある笛吹市と富士河口湖町を結ぶ若彦トンネルが開通し、まさに面として新たな観光魅力を提供していくことが大変重要になると思います。

 横森:そうですね。石和温泉は東京から1時間ちょっとという“地の利”は今後も生かしていかなければならないと思いますが、石和温泉単独の特色で生き残っていくことは難しいと思います。やはり世界的知名度を持つ富士山を、石和温泉も一つの財産と考える「グローバルな視点」を持って、河口湖や、県全体で連携し協力して、山梨の活性化につなげていきたいと思います。

 宮下:山梨百名山の八ヶ岳や、世界に誇れる南アルプスもあり、素晴らしい山に恵まれている。これをもっと売りにしていく努力が必要です。一方で、地元・甲州ワインについても、もう少し勉強が必要だと思います。夕食には幾つもワインをチョイスできるようにしたり、うんちくも語れるような、「エンターテイメント性」を高めたワインの出し方が求められているはずです。伝達力や演出力を高めていくことも、我われ旅館の今後の大きな課題だと思います。そしてお客様が何度かリピートして訪れるうちに、「将来はここに住みたい」と思っていただけるレベルにまで、それぞれの地域が磨き合うことを最終的な目標としていきたいですね。

 ――ありがとうございました。

「甘とろ豚」の蒸し料理、道後温泉旅館協同組合

「“道後蒸し”開発」

 愛媛県松山市の道後温泉旅館協同組合(大木正治理事長=道後の宿葛城社長)はこのほど、同温泉の名物料理として、県がブランド化を進める銘柄豚「甘とろ豚」を使った蒸し料理「道後蒸し」を開発した。

 道後ならではの料理を開発し、宿泊アップに結び付けようと旅館の料理長らが約1年間かけて作りあげた。湯けむりを連想させる「蒸し」で、甘とろ豚を調理する。食材の良さが引きだされ、とろけるような良質な脂身とジューシーな肉質が絶品という。  組合加盟33軒のうち18軒で4月以降、会席料理の一品としてメニューに追加する。ポン酢やしょうゆなど付けダレは各旅館で趣向を凝らす。

大型連休、5地域に分割

「ずらして春と秋に5連休、休暇分散化へ政府案提示」

 観光立国推進本部(本部長=前原誠司国土交通大臣)の休暇分散化ワーキングチーム(座長=辻元清美国交副大臣)の第2回会合が3月3日に開かれ、ゴールデンウイーク(GW)の地域別分散と、秋にも大型連休を創設し、地域別に分散して設置する政府案が出された。休暇分散化よって、旅行料金の低廉化、渋滞の解消、観光地の雇用安定化などにつなげていきたい考えだ。

 政府が示した原案は、GWの憲法記念日(5月3日)、みどりの日(同4日)、こどもの日(同5日)の祝日を記念日として残しつつ休日とせず、その代わりに日本を5つの地域ブロックに分けて、南から順に5―6月のそれぞれの週の月・火・水曜日に振り分け、5連休を創出する。

  「秋の大型連休」(5連休)の創設では、ハッピーマンデーの対象となる海の日(従来は7月20日)、敬老の日(同9月15日)、体育の日(同10月10日)を従来の記念日に戻し、こちらも休日とはしない。その代わりに10月と11月の第1週の月・火・水曜日を休日として、北から5地域がスライドして休暇とする。

 5つの地域ブロックは、A「北海道・東北・北関東」(人口2196万人)、B「南関東」(同3586万人)、C「中部・北陸信越」(同2282万人)、D「近畿」(2084万人)、E「中国・四国・九州・沖縄」(2621万人)に分割する案で、政府が参考にしたフランスでは国を3つのゾーンに、ドイツでは州別に分けて休暇分散している。

 WGの冒頭、辻元座長は「休暇を分散化することで多くの人が旅行に行きやすくしたい。都市と地方で多くの人が行き来するようになれば格差の解消につながるのではないか。産業界や教育界などとも慎重に検討しながら実現に向けて進めていきたい」と語った。その後、日本経済団体連合会、日本商工会議所、全国中小企業団体中央会の代表者が休暇分散化に賛意を表明した一方で、「十分な準備期間の確保」や、営業担当者が休日であっても担当エリアが営業している場合には対応しなければならないケース、さらには、GWがなくなることで休暇減少につながる企業もあるのでは、などの課題も出された。

仏の休暇制度参考に、観光庁が休暇シンポ開く

 観光庁は2月26日、東京国際フォーラムで休暇シンポジウム「新たな成長戦略としての休暇改革」を開き、休暇日分散化をいち早く取り入れたフランスの休暇制度などを参考に、日本型の休暇のあり方についてさまざまな角度から検証した。

 基調講演「休暇取得・分散化の意義」には、東京大学大学院経済学研究科教授の伊藤元重氏が登壇。伊藤氏は「経済活動の制約は、豊かになるほど予算よりも時間的制約が大きい。日本でも時間の価値が高まっている。余暇は成長戦略の面白い切り口」と語った。また、「働く」にという言葉は(1)レイバー(2)ワーク(3)プレイヤーの3つがあり、産業革命でレイバーからワークに変わり、今は人間にしかできないプレイヤーへと変わる過渡期にあり、「トータルな生き方を休暇と一緒に考えていくべき」と話した。

 続いて在日フランス大使館参事官のジュール・イルマン氏が「フランスの休暇制度」について説明。「フランスでは3つのゾーン別に時期をずらした学校休暇を実施しており、6150万人の休暇を分散することで渋滞や事故、旅行代も少なくて済む。観光産業にもよく、ウイン―ウインの休暇制度だと思う」と語った。また、「フランスは仕事と大切な私生活の時間をバランス良く生活しており、海外移住の専門誌の調査で、5年連続世界で1番住みやすい国となった」と話した。

 パネルディスカッションでは、伊藤氏がコーディネーターを務め、4氏がパネリストとして参加した。

 杉並区教育委員会教育長の井出隆安氏は「今は学校の教室にもエアコンが入っており、夏休みの6週間連続休暇を分散させることも可能。沖縄から北海道まで季節も違うため、夏休み前線のように少しずつずらしていくことも有効」と述べた。

 NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事の安藤哲也氏は「日本で育児休暇が取れないのは職場のムードが大きい。男性の育児休暇は“義務化”が必要」と提案した。そして、「日本人はそろそろ極端な“勤勉の美徳”をやめよう」とし、「人生を楽しむことが第一で、ワーク・ライフ・バランスではなく、ライフ・ワーク・バランスと呼ぶべき」と強調した。

 労働政策研究・研修機構主任研究員の小倉一哉氏は、「男の働き過ぎが社会を悪くしている。職場では“お互い様”の意識を持つべき。『休暇は労働者の義務』というフランスの考え方を日本的にアレンジすることも必要」と語った。

 東京大学大学院医学系研究科准教授の島津明人氏は「今後、企業にとって従業員のモチベーションの向上が重要課題となる。こまめに休暇でエネルギーをチャージできるシステムがあればいいと思う」と、それぞれの立場から意見を交わした。

JNTO1月推計値、訪日客2ケタ増に、韓国は約8割プラス

 日本政府観光局(JNTO)がまとめた2010年1月の訪日外客数(推計値)は、前年同月比10・3%増の64万500人と3カ月連続の増加となった。インバウンド最大マーケットの韓国が大幅に好転し、全体で2ケタのプラスとなった。1月としては、08年の71万1350人に次いで2番目。

 方面別では、韓国が同78・8%増の23万2千人と大幅な伸びを見せた。「Visit Japan Year2010」キャンペーンで日本への往復航空券などが当たる懸賞の実施や、新正月の連休効果に加え、昨年韓国で日本の観光名所(秋田市、田沢湖、乳頭温泉、男鹿半島など)を舞台にしたテレビドラマ「アイリス」が放映された影響で、個人旅行や団体ツアーが多数撮影地や周辺観光地を訪れたこともプラスに作用した。

 中国は同16・4%減の9万2200人、台湾は同7・3%減の8万9900人、香港は同34・5%減の3万500人と減少したのは、いずれも旧正月の該当月の移動(昨年は1月、今年は2月)が旅行需要に大きな影響を及ぼした。  主要12市場では、韓国、タイ、米国、ドイツ、フランスが前年プラスで推移した。

 一方、出国日本人数は同8・9%増の127万7千人と6カ月連続の増加となった。円の高止まりによる海外旅行需要の高まりが追い風となった。

指宿温泉旅館組合 休暇村新築・移転で「白紙から話し合いを」

 指宿温泉旅館事業協同組合(野田譲二代表理事)は鹿児島県指宿市で2月23日、休暇村指宿本館の新築・移転について、休暇村協会側代表者と話し合いの場を設けた。

 同旅館組合は「今、新築の国民休暇村を指宿に建設するのは、完全に官による民営圧迫」(野田代表理事)と白紙の状態からの話し合いを求めていく考えだ。

 指宿休暇村の新築・移転は、現在営業していない既存の別館を解体後、その跡地にRC造り5階建て、客室数50室、定員約200人の宿泊施設を建設するもの。4月から着工し、来年4月のオープンを計画している。事業費は17―18億円。45年前から、指宿市から格安のコストで土地を借りて運営している現在の土地を返還し、移転地では環境省の土地を賃貸借する予定。

 野田代表理事は「この50年で指宿には宿泊施設が多く建設され、来客数が減少傾向にあるなか、むしろ供給過多の状況。さまざまな面で優遇処置のある、なかば公的機関の国民休暇村協会が新築の宿泊施設を作るのは小さくなったパイをより有利な条件で民間から奪うもの」と話す。

 これまでの経緯は、1月12日に、休暇村指宿の西村俊之支配人から現地宿泊施設関係者に工事計画を説明。その後、指宿の宿泊業界関係者で、「休暇村指宿の新築に反対する要望書」を作成し、民主党鹿児島県連の川内博史支部長宛に提出するなど、対応した。民主党の打越あかし議員にも要望書を提出。予算案が通る月末に、指宿市長の元で、休暇村協会側と指宿の宿泊業界関係者との話し合いの場を設けると約束を取りつけた。

 23日の話し合いの場には休暇村協会側から中島都志明常務理事らが出席。工事計画の事前説明がなかったことについて陳謝し、「これからは、旅館組合に入るなど、地域に貢献していきたい」と回答を受けたが、指宿の宿泊業界関係者は、あくまで白紙状態からの話し合いを求めていく考え。

 野田代表理事は「リニューアルであるならば問題ないが、新築工事は公益制度法人改革で一般財団法人に移行する前の駆け込み策にも受け取れる。本当に指宿の観光振興を考えるならば、休暇村跡地をマリンスポーツが楽しめるヨットハーバーなどを整備するなど、代替案はある」と話す。