「豊富な観光資源と限界集落の狭間で」
総務省は09年度の地域力創造アドバイザー事業として、全国で11市町村を認定。同省からアドバイザーを派遣し、地域活性化や人材育成を支援していくプロジェクトを展開している。認定11市町村の一つ、岡山県中西部に位置する高梁市は、備中松山城やベンガラのまち・吹屋など豊富な観光資源を有する一方で、山間地域共通の問題である限界集落問題にも直面する。アドバイザーの篠原靖氏が現地に入り、「岡山県備中高梁市元気!プロジェクト」が始動した。 (増田 剛)
「楽しいまちづくり」の仕組みを
高梁市(近藤隆則市長)の人口は約3万5千人。2004年10月の1市4町の合併によって広域となり、観光資源にも恵まれた地域。備中松山城は標高430メートルに天守があり、現存する山城のなかでは日本一の高さで国の重要文化財である。また、ベンガラの町として国の重要伝統的建造物群保存地区の「吹屋ふるさと村」、農村型リゾート地・宇治など貴重な観光資源を有している。
しかしながら、山間地域であるため、若者の流出、少子高齢化、限界集落の問題にも直面している。人口は年々減少し、5年前の合併時からすでに約2千人の減少となっている。また、08年10月時点で高齢化率は35・6%と岡山県内の15市中、最も高齢化が進み、町は活気を失っている。
このような状況で、高梁市は総務省が展開する「地域力創造アドバイザー事業」に応募し、約2倍の競争率を凌ぎ、09年度事業の全国11市町村の一つに採択された。同事業ではアドバイザー(専門家)として、東武トラベル企画仕入部副部長で、内閣府地域活性化伝道師の篠原靖氏に白羽の矢を立て、高梁市に派遣した。
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篠原氏は今年7月から高梁市に入り、市民とさまざまな会合を通じて地域再建に向けた問題点の洗い出しや、いかに活性化していくかを議論してきた。また、近藤市長直轄の「備中高梁元気!プロジェクト事業推進協議会」(座長=吉備国際大学社会学部准教授・小西伸彦氏)を設置。メンバーには、備北タクシー社長の小野和夫氏や高梁商工会議所の遠藤正弘氏、備中宇治彩りの山里リゾート施設の大場正康氏ら20人が参加している。
同協議会では(1)地域間連携部会(2)魅力づくり・プロモーション部会(3)受け入れ態勢・情報部会(4)2次交通部会――の4部会に分かれ、部会ごとに2次交通の不便さの解消や、合併で広域化した地域の連携、「備中高梁ブランド」への取り組みなど、さまざまな課題解決に向けて検討が進められている。また、同協議会は地域ごとの体力差にも配慮し、吹屋・成羽地区、宇治地区、高梁地区の3地区に分かれて座談会も開いていく。
3年プロジェクトの初年度となる09年度は、課題整理や「やる気を起こす」など意識面から取り組む。アドバイザーの篠原氏は「高梁市は今ある観光資源だけでも、日本中に打って出るだけのポテンシャルを持っている。しかし、高梁市で観光で生業を立てている人は多くない。いきなり『観光を商売に結びつける』という前に、『自分たちが住む高梁市の素晴らしいお宝を皆で楽しく磨こうという』ところから始めればいい。標識を立てるなどは、お金があればできること」と、その地域の現状に沿ったまちづくりの手順を重視する。また、地元の吉備国際大学との連携も視野にいれている。
一方、課題整理のなかで、意識づけなどお金をかけずに取り組める「先導的プロジェクト」がすでにスタートしているが、今後必要な具体的なプランとして「高梁・宇治・吹屋地区で相互に見学会を開き他地域を知ること」「観光の物語づくり」「テーマを絞った地域観光モデルコースの設定」「観光協会の一本化」なども見えてきた。市は2010年度に策定する「高梁市観光振興ビジョン」(仮題)に、これらを組み込んでいく予定。
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同プロジェクトをスタートするに当たって、来訪者の意向把握を目的に、今夏「高梁市の観光実態アンケート調査」を実施した。それによると、7割以上が県外からの訪問者で、県外客は近畿地方が4割以上と最も多い。関東地方も2割以上を占めている。また、最も多い旅行者タイプは50歳代の夫婦で、ほとんどが個人旅行。移動手段は7割以上がマイカーということがわかった。
高梁市の観光に対する評価は、来訪前の印象が71・2点に対し、来訪後の印象は78・9点と、概ね来訪者の期待に応えられている結果が出た。
一方、不満度が高かったのは、「まち中の休憩スポットづくり」「観光マップ・案内サイン整備」「高梁ならではの魅力的な土産物開発」などがあがった。高梁市内での1人当たりの観光消費額では、日帰り客が2621円(岡山県平均が6463円)、宿泊客が2万111円(同2万7894円)と低く、「魅力的な飲食店が少ない」「買いたいと思うような土産物がない」などの意見を反映した結果となった。
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10月16日には高梁市内で、備中高梁元気!プロジェクトのキックオフと位置づける「地域観光フォーラム」を開いた。
近藤市長は「高梁市に年間60万人が来訪している。訪問者アンケートでも高梁を選んだ理由に『あまり混み合わずのんびりできそう』というのがあったが、これも魅力の一つだと思う。ギラギラとした、大手資本が入る観光地化は望んでいない。歴史と伝統文化に育まれた高梁は『心に安らぎや潤いが与えられるようなまち』が、今後進むべき方向だと思う」と語った。そのうえで、近藤市長は「人づくりが一番大切で子供たちに歴史を教え、高梁川にSLや高瀬舟を甦らせるなど、夢を持ちたい。まちづくりは楽しくやらなければならない。楽しくやる仕組みをつくっていきたい」と強調する。
高梁市商工会議所の遠藤氏は「近隣の倉敷市も滞在時間が短い。総社、高梁、新見での高梁川流域連携も必要」などの意見を提案した。
本紙は今後も、高梁市のまちづくりの取り組みを追っていく予定だ。