人工乳房で温泉に行きたい~乳がん患者の願いを“おっぱいリレー”でつなぐ~

池山メディカルジャパン代表取締役 社団法人日本人工乳房協会理事長 池山 紀之氏
池山メディカルジャパン
代表取締役
社団法人日本人工乳房協会
理事長 池山 紀之氏

 オーダーメイドの人工乳房をつくる「池山メディカルジャパン」(池山紀之代表取締役)は10月17日から31日まで、シリコーン製の人工乳房が全国の温泉や温浴施設に浸けても大丈夫なことを確認する「おっぱいリレー」を実施した。乳がんによっておっぱいをなくしてしまった女性たちにも「温泉旅行を楽しんでもらいたい」(池山氏)との思いが全国的につながり、新たなネットワークが生まれている。池山氏は今後、「乳がん患者にやさしい宿」のリスト作りにも取り組む考えだ。

<乳がん患者に優しい宿、ネットワークをつくろう!>

 10月1日から、社名をウロメディカルジャパンから「池山メディカルジャパン」に変更しました。「ウロ」とは泌尿器という意味で、男性の前立腺肥大を直す特殊な医療機器の開発を行う会社として2003年1月に設立しましたが、現在は乳がん患者さんのために人工乳房を作ることが事業の中心となっています。

 人工乳房を作るきっかけとなったのは、私の妹が乳がんを患い、家族で温泉旅行に行ったときに彼女だけ「温泉に入ることができなかった」と知ったからです。私自身、以前は指や耳を失った人のためにシリコーン製の指や耳を作っていた経験もあり、なんとか妹のために人工乳房を作ることができないものかと必死で研究を進めました。

 そして05年に、乳がん学会で初めて私たちが作った人工乳房をお披露目しました。世界中どこを探しても、見た目も、触感も本物そっくりの人工乳房(シリコーン製)がなかったために、学会の先生方に非常に大きな注目を浴びました。想像を超える高い評価を受けたことで、大きな手ごたえを感じ、本格的に事業化することを決意しました。会社設立当初に取り組んでいた男性の尿道圧迫を解消する機器の方は医療用具のため、厚生労働省の許可が下りず、断念したところでした。

 人工乳房は06年から販売を始めて、現在6年目になりますが急成長を続けています。昨年(10年)は約500人、累計で約1200人の人工乳房を作ってきました。年々倍増しており、今年は1千人ほどの予定です。

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 人工乳房を作り始めた05年ごろ、医療業界では乳がんの専門医や、専門の看護師の資格制度が時期を同じくしてスタートし私たちの仕事は時代の流れにぴったり符合したのです。専門医や看護師の方のほとんどが私と同年代か、もう少し若い世代だったのでとても仲良くなれ、今でも医師から多くの患者さんを紹介していただいています。

 乳がんは助かる率が高いのが特徴です。年間約5万人の女性が胸の切除手術や温存手術を受けられ、8割以上の方が元気になります。そうすると、「その後の人生をどう生きるか」が大きな問題になってきます。乳がんの手術をして乳房を取り除いたり、傷つけてしまったあとに、残念ながら離婚をしてしまうケースも多いのです。そして一番多い悩みが、「温泉に行けなくなる」ということなのです。現在、50―60万人の方々が乳房を失って生活しています。今後も毎年約4万人ずつ増えていきます。そのほとんどの方々が「温泉旅行に行けない」状況に置かれているのです。

 患者さんの生の声を聞くと、患者さん自身が「傷跡を見られるのが嫌だ」という思いよりも、一緒に入った他人が自分の傷跡を見てびっくりさせてしまうのが申し訳ないと感じる方が多いのです。私の妹も、「自分は大丈夫だけど、母親が悲しむ顔を見たくない」と言うのです。また、不思議なのですが「おっぱいがあったときは、個室露天風呂がいいなと思ったけど、手術をしたあとは広い大露天風呂に入りたい」と皆が口をそろえて話すのです。

 元気な乳がん患者さんと、その家族や近しい方々を含めると約200万人以上の人が温泉に行くことをあきらめています。旅館の経営者や女将さんは彼女たちの生の声を耳にすることは少ないと思います。まずは、こんな現実があることを知ってもらいたいのです。そうして、旅館がこれまで温泉に行けなかった乳がんの患者さんの希望を叶えてあげてほしい。私たちはそのお手伝いをしていければと思います。

 医師や看護師さんは、患者さんから「どこか私たちでも入れるような温泉を知りませんか?」とよく聞かれるそうです。しかし、全国の旅館のことを知っているわけではないので、今度は私が彼らから「どこの旅館に行けば、安心して温泉に入れるのか」としばしば質問されます。ですから私は乳がん患者さんを快く受け入れてくれる温泉旅館の「リスト」を作りたいと考えています。患者さんを受け入れてくれる旅館にも元気になってもらいたい。旅館さんにはぜひ手を挙げていただきたいと思います。

<10月17日から全国で「おっぱいリレー」>

 今年1月にある看護師から、「兵庫県の温泉を訪れた患者さんが『温泉に入っても大丈夫だろうか』」という相談があったと連絡をいただきました。もちろんお風呂や温泉にも入れるように作ってきたので、患者さんにも、医療関係の方々にも「安心してお風呂や温泉に入れますよ」と説明してきました。しかし、患者さんのなかには「人工乳房をつけたまま、温泉に入っても変化しないか」と不安に思う方も多いのだと気づいたのです。一方、旅館の中にも人工乳房を温泉に浸けることでお湯の色が染まったりするのではないかと思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

工房では手づくりで人工乳房が作られる
工房では手づくりで人工乳房が作られる

 そこで、全国の温泉に実際に人工乳房を浸けて大丈夫なことを確かめる「おっぱいリレー」を10月17日から31日までスタートさせました。30分ほど温泉の浴槽に浸けて、「色」や「かたち」に変化がないかを検証し、クリアした温泉には認定証を贈るというものです。全国紙をはじめ、さまざまなメディアにも大きく取り上げられ、95軒の温浴施設が参画しました。多種多様な泉質で試すことができ、多くの施設にご理解をいただくことができました。この「おっぱいリレー」で私たちの活動が温泉旅館など宿泊業界や患者さん、一般の方々まで少しずつ広く知られるようになってきました。来年はもっと多くの温泉旅館にも参画していただきたいと思っています。

 今回のリレーでは、「脱衣所についたてや、体の洗い場に仕切りがついているか」などのアンケートも実施しました。小さな心配りですが、乳がん患者さんには大きな救いになるのです。また、明るすぎる照明を少しだけ落としたりすることでも温泉に入りやすくなるのです。お着替えの場所と、体を洗う場所が目立たなければいいのです。それだけです。

 そのほかにも、「ピンクリボン運動」に協力していますよ、という小さなパンフレットがロビーやカウンターに置いてあったり、ポスターを貼っているだけで、「お宿が理解してくれている」と安心できるのです。本人でなくても、家族の方が目にしたとき、患者さんに紹介することができる。お宿さんにとっても他館と差別化できる部分ではないでしょうか。このような提案をしながら「乳がんの女性にも優しい宿」といったようなリストアップをして全国の病院に配布する活動をしていきたいと思います。

 温泉に行けるようになった患者さんから温泉に入っている写真を送ってきてくれるんです。本当にうれしかったのだと思います。そして1度行って安心できると、彼女たちは「2カ月に3回行った」というように、これまでに行けなかったぶんを取り返すように、以前よりもたくさん温泉に行かれるのです。

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 乳がん患者さんは、人工乳房を作ることに加え、もう一つ、手術で乳房を直す方法もあります。形成外科の医師がおなかの肉を取って乳房にあてるという手術です。今までは医師の勘と眼見当で乳房を作っていたので不自然なかたちになることが多かったのですが、私たちは患者さんの胸の型を先に取って医師に手術をしてもらうので、違和感のない、自然なかたちに仕上がるのです。乳頭部分は、私たちがシリコーンに着色して作ります。厚生労働省からの補助金によって事業は軌道に乗り、10月からこのシステムが本格的に始動し日本中、世界中に広がっていくと思います。手術には保険も適用され、費用は30万円ほどです。ただ、外科的な手術のため、患者さんにとっては心理的な負担にもなるので、高齢者などは人工乳房を選ばれる方が多いかもしれません。そのほか、乳房にあらかじめ型を取ったシリコーンを入れることも可能ですが、全額自己負担となるので片方で100―150万円ほどの高額となってしまいます。しかしながら医療技術が進歩すれば、乳がん患者さんもまた以前のように温泉に行けるようになるのです。

 さらに、最近では海外からの要請も増えています。韓国では当社の関連会社「ウロメディカル・コリア」が人工乳房を作って、温泉旅行までパックにした医療ツアーを企画し募集を始めました。中国からも当社に人工乳房を作ってほしいという患者さんが多く訪れており、今後は台湾、中国でもこのようなツアーの可能性も考えられます。

 これから乳がんの手術をされる方から相談を受けることもありますが、「命を取るのか、おっぱいを取るのか」という選択に迫られたとき、手術を踏み切れない患者さんも多い。そのときに、「こんな人工乳房もあって、温泉にも入れるんですよ」と人工乳房を見せてあげると、安心されて手術に踏み切れる事例が幾つもありました。できるだけ早く検診を受けて、早期発見によって手術をすれば命は助かりますし、傷も小さくて済みます。万一、おっぱいを取ることになっても、人工乳房や手術で再建することもできるので、安心して検診を受けてほしいです。

<人工乳房の技術者に資格を、10年に日本人工乳房協会設立>

 一般社団法人日本人工乳房協会では、人工乳房の普及に向けて職人(技術者)を養成しています。以前は私の会社で養成していましたが、その多くが独立をしています。現在は資格制度がないのですが、将来的には国が認定する資格にしたいと思っています。「義手」「義足」については資格があるのですが、機能回復を最大の目的としているので、リアルな足は作りません。でも「本当にそれでいいのだろうか」と私は思ってしまうのです。本来ならば、医療でやるべきだと私は思うのですが、今の日本ではそこまで達していません。しかし、将来的には必ずそこまで行くと思います。そのためには、作る人の資格が必要になります。それで社団法人を作ろうということになり、2010年2月に設立しました。社団法人として人材を育成し、世の中に人工乳房やピンクリボン活動を普及していくことが目的です。現在は、私が理事長を務めています。将来的には、国の検定や、学校法人設立まで視野に入れています。すでに「学校のカリキュラムに入れてもいい」という話もいただいています。今回の「おっぱいリレー」も日本人工乳房協会が行っています。

観光で東北を元気に、仙台で産学連携セミナー

 日本観光振興機構は12月9日、宮城県仙台市のホテルメトロポリタン仙台で「産学連携オープンセミナー」を開く。「観光で東北を元気に」を全体テーマに、観光で東北の復興を目指す。国土交通省と観光庁、東北観光推進機構の後援。

 講演は、東日本旅客鉄道(JR東日本)の常務取締役鉄道事業本部副本部長、鉄道事業本部営業部長の原口宰氏が「ツーリズム産業から日本を元気に!JR東日本の観光流動創造」をテーマに登壇する。

 また、パネルディスカッションは「東北復興に向けて観光が果たす役割とは」をテーマに、尚絅学院大学学長の佐々木公明氏がコーディネーターを務める。パネリストはみやぎおかみ会会長の磯田悠子氏と平泉観光協会会長の小野寺邦夫氏、JR東日本取締役仙台支社長の里見雅行氏、宮城大学教授の三橋勇氏。

 参加対象は観光産業に関心の高い大学生や専門学生、観光産業に従事する団体・企業の社員、報道関係者。定員は150人。受講料は無料。

 申し込み・詳細はホームページから。

URL=(http://www.nihon-kankou.or.jp/home/committees/report/event/20111209.html)。

10月中にほぼ復旧へ、台風12号の影響を報告

近畿6府県情報交換会

 近畿6府県首都圏観光連絡協議会は10月5日、東京都千代田区の都道府県会館で旅行会社や報道関係者を集め、「第53回近畿6府県観光情報交換会」を開き、冒頭で和歌山県と奈良県が、台風12号の影響や復旧状況について説明した。10月中には主要の国道や鉄道などがほぼ復旧するという。

 和歌山県観光連盟わかやま喜集館の藤森弘之館長は「紀伊半島の南部が大きい被害を受け、交通や観光がダメージを受けた。直後は交通網がマヒしていたが、現在は回復しつつある」とし、観光関連の現状を報告した。

 交通面は、名古屋方面からの海岸沿いの鉄道は紀伊勝浦―新宮間が12月中の復旧見込みのため、現在はJRが代替バスを運行中。このほか、国道は概ね復旧している。観光地に関しては、熊野古道は歩行可能。高野山や熊野三山、白浜温泉、本宮温泉郷、那智勝浦、龍神温泉なども観光に問題はない。直近の情報については毎日、連盟のホームページで更新しているという。

 また、奈良県東京事務所の中野律也主査によると、奈良県側から和歌山県・熊野本宮大社方面に南下する国道168号線は10月5日時点で普及の見込みが立たっていないが、和歌山県側からは北上が可能。十津川村の観光地は十津川温泉などが休業しているが、温泉地温泉は通常営業しているという。「南部全体に多くのキャンセルが出ているが、十津川以外は観光ができる。復旧には多くの人が観光に来ていただくことが重要なので、ご協力をお願いしたい」と呼び掛けた。

 この後は、従来通り6府県それぞれが、秋冬の観光情報やイベントなどを紹介した。

回復傾向も25%減、9月の訪日外客数

 日本政府観光局(JNTO、松山良一理事長)が発表した2011年9月の訪日外客数推計値は、前年同月比24・9%減の53万9千人。東日本大震災の発生後4月を底に、減少幅は徐々に縮小している。

 各市場の動向をみると、韓国は同36・9減の12万2400人。9月には福島県以外への渡航自粛勧告が全面解除され、報道も徐々に沈静化し、減少幅は縮小傾向にある。

 3―8月まで前年同月比4割台の減少が続いた中国は、同18・0%減の11万2600人と1割台の減少まで回復。新聞や雑誌、主要検索サイト上で日本の特集記事が掲載され、日本各地のようすや放射能測定器で各地の放射性物質の値を計った動画などを中国版ツイッター「微博」で発信された。また、9月1日に中国人個人観光査証の発給要件が緩和され、さらに訪日旅行需要が喚起された。

 台湾は、9月までに福島県以外からの退避や渡航自粛の勧告が全面解除され、同17・5%減の8万4800人となった。北海道・大阪・福岡・沖縄への旅行は8割から前年並みにまで回復。

 香港は2万8500人と、同15・6%減にまで回復。被災地から離れた沖縄へのツアーは好調で、訪日旅行需要の回復にプラスに作用。7月から再開された東北へのツアーにより、日本の安全性などに関する口コミ情報が発信され、訪日への安心感醸成につながっている。

 ビジットジャパン緊急事業で広告掲載や訪日旅行に関するテレビ番組が複数放送されたタイは同7・2%増の1万3700人、インドは同9・4%増の5900人と震災後初めてプラスに転じた。

 そのほかでは、依然として欧米を中心に2―4割の減少が継続。しかし、ともに4割以上の減少だったフランス、ドイツでは10ポイント以上の回復をみせ、それぞれ26・8%減、32・4%減まで持ち直してきた。

 なお、出国日本人数は、前年同月比6・7%増の164万5千人で、3カ月連続の増加となった。 

被災地の修旅を招待、補助金で10校、交流も

  愛媛県は全国で初の試みとして、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島県の高校の修学旅行の費用を一部支援し招待する事業をスタートさせた。10月29日から来年3月まで10校1250人を受け入れる。

 震災直後の4月8日に「えひめ愛顔(えがお)の助け合い基金」が設立。県が2千万円を拠出し、企業や団体など民間から約1億9200万円の寄付金が集まり、合計で2億円を超えた。有識者らで構成される基金運営委員会の提言のもと、被災者などのニーズに即した支援、愛媛らしい“思いやりあふれる”支援に活用しようと検討した結果、メイン事業として1億1250万円を「被災地学校修学旅行支援事業」に投入することが決まった。

 愛媛県に宿泊する場合、1人1泊7万円、2泊以上の場合、上限9万円を助成する。これにより、宿泊費や往復の交通費のほとんどをカバーすることができる。

 愛媛県東京事務所・観光物産振興課の幸原健太郎課長は「多くの学校で修学旅行を諦めていた。福島県の南相馬市や浪江町、双葉町などの学校では、原発事故で各地にバラバラになっており、『クラスメートが修学旅行で顔を合わせることができる』と喜んでもらっている」と語る。

 プログラムとしては、地元の高校との交流をすべての学校に組み込んだ。「地元の高校生にとっても、人を支えることの尊さを学ぶ貴重な機会となることを期待している」と幸原課長は話す。そのほか、みかん狩りや砥部焼きなどの体験学習も予定している。

 10月29日には、岩手県の大槌高校が第1陣として到着し、中村時広知事も歓迎セレモニーに出席する予定という。

観光庁は26億4600万円、震災後の国内復興を軸に

 このほど閣議決定された2011年度の第3次補正予算によると、観光庁関係は合計で26億4600万円。震災後の国内全般の復興を軸に、国内観光活性化緊急対策に6億5千万円、外客誘致緊急対策に13億8900万円、広域連携観光復興対策(東北観光博)に5億5千万円、地域再生のための観光業支援に5700万円を投じる。

 10月21日に開いた専門紙との会見で、観光庁の溝畑宏長官は震災後の国内観光について「ゴールデンウイークと夏休みは我われが思った以上に回復したが、被災された東北や北関東に加え、インバウンドの影響を受けた国内の各地は、現状認識としてまだ厳しい状況にある」と述べ、今回の補正の主旨を語った。

 国内観光活性化緊急対策事業のうち、環境整備には1億5千万円。休暇取得と外出・旅行促進に向けて企業に働きかけをする「ポジティブ・オフ運動」を実施する。このほか、機運醸成は2億円、需要創出は3億円。需要創出はモニターツアー事業を実施する。詳細は未定としつつも、「着地型に取り組んでいる地域や台風の被害を受けた地域などを重点的に行いたい」と意向を述べた。

 外客誘致緊急対策事業は10月から再開した15市場へのプロモーションをより本格化するため、5大市場(韓国・中国・台湾・米国・香港)に集中して展開する。プロモーション、旅行会社・メディア招請事業は5億6100万円、国際会議等のキャンセル防止事業は2800万円を計上。要望の高い言語バリアフリー事業などの受入環境整備事業は8億円をあて、全国26拠点で実施する。

 広域連携観光復興対策事業は、東北観光の復興のため、東北地方全体を博覧会場に見立てた「東北観光博」を実施する。溝畑長官は「東北観光は地域によって格差が出ている。また、冬は東北にとって厳しい時期になるので、効果的な集客を実現したい。今回の補正と、現在要望中の来年度予算が通れば丸1年間取り組みが実現できる」とし、「東北に行こうと言い続けることが大切だ」と力を込めた。

 さらに、「地域再生のための観光業支援事業」は被災3県(岩手・宮城・福島)と風評被害が認められる北関東(群馬・栃木・茨城)で、観光業が中心となる地区の再生を目的に、観光地域づくりのための専門家などを派遣する。 

野田首相に観光復興要請、東北の女将12人が直談判

東北女将12人が野田首相を囲んで
東北女将12人が野田首相を囲んで

 東北6県の旅館女将12人は10月21日、首相官邸を訪れ、野田佳彦首相に元気な東北をアピールするとともに、東日本大震災以降入込みが落ち込んだ観光客の回復に向け、国の支援をお願いした。また、東北観光推進機構からは推進本部長の齋藤幹治氏、副本部長の三浦丈志氏らも女将と同行した。

 メンバーを代表して福島県穴原温泉の畠ひで子吉川屋女将は「旅行の自粛ムード、風評被害で福島県はもとより、東北全体の観光客が戻っていない。ぜひ、東北の観光復興へ全力をあげていただきたい」と要請した。

畠女将が代表して訴える
畠女将が代表して訴える

 これを受けて野田首相は「東北で国際会議などを積極的に開催したい」と語った。

 同日、国土交通大臣政務官の津島恭一氏、室井邦彦氏のほか、観光庁の溝畑宏長官も訪問し、東北の観光支援を訴えた。

 今回参加した女将は次の12人。(敬称略)

 【青森県】石澤照代(花禅の庄/黒石市)▽中山瑶和子(青森国際ホテル/青森市)【岩手県】大澤幸子(ホテル対滝閣/湯本温泉)▽平栗カヨ子(松川荘/松川温泉)【秋田県】佐藤京子(妙乃湯/乳頭温泉)▽池田佳子(黒湯温泉/乳頭温泉)【宮城県】磯田悠子(ホテル松島大観荘/松島町)▽高橋知子(篝火の湯緑水亭/秋保温泉)【山形県】佐藤洋詩恵(日本の宿 古窯/かみのやま温泉)▽佐藤まり(桜桃の花 湯坊 いちらく/天童温泉)【福島県】畠ひで子(匠のこころ吉川屋・穴原温泉)▽片桐栄子(ホテル華の湯/磐梯熱海温泉)

溝畑観光庁長官に東北観光の現状を報告
溝畑観光庁長官に東北観光の現状を報告

No.294 何が仕事や就活に生きる? - 大学で観光を学んだ若手

大学で観光を学んだ若手
何が仕事や就活に生きる?

 民間企業が求めている人材像と、高等教育で教える学問としての「観光」のズレが指摘されて久しい。観光系大学を卒業し、業界に就職する割合は2割程度という数字も発表されているが、裏を返せば2割の人が業界で活躍していることになる。そこで、大学で観光やまちづくりを学び旅行会社や宿泊施設などで働く20―30代にスポットをあて、大学での学びの何が現在の仕事や、就職活動に生きたか聞いた。

【飯塚 小牧、沖永 篤郎】

 

 

<在学中に資格の取得を 業界の課題や裏事情ほしい>

   ―日本旅行・土谷 政樹さん

 

<海外インターンで奮起 何か1つやり遂げる経験を>

   ―ホテルオークラ東京・長屋 美穂さん

 

<まちづくり見学で感動 人間としての感受性向上を>

   ―ピース・佐藤 擁さん

 

※ 詳細は本紙1440号または日経テレコン21でお読みいただけます。

「手段」か「目的」か ― 「血の通った」一途さを(11/1付)

 東京の表通りを歩くと、ファーストフードや、牛丼チェーン、居酒屋チェーン店が看板を連ねている。ある程度の商圏を持つ目抜き通りは全国どこでも同じようなチェーン店が並んでいるのではないだろうか。チェーン化できるということは、多くの庶民の胃袋やお財布を満足させている“通知表”なのだろう。過酷な競争の中で利益を出す経営手腕やコストを徹底的に削減する情熱に敬服してしまう。ほとんどのチェーン店は格安で、味だって悪くない。「本当にこれで経営できるの?」と心配になるほどだ。それでも利益を出し続け成長を続けている。外食サービス産業も「やり方によっては儲かるのだ」ということを証明している。

 一方、長年おじいさんやおばあさんがやっている店がある。決して看板が煌びやかではなく、建物も前世紀的である。おそらく、飲食店を始めるようになってから「全国チェーン展開をしよう」などと夢にも思ってこなかったような外観。店内はおじいさんが厨房で、おばあさんが接客をしているような食堂である。宣伝もしないので、来たお客さんを笑顔で迎えるだけだ。愚鈍に感じることもある。だが、チェーン店が並ぶ大通りを歩くたびに、何かひっかかるものがある。半分素人のような店員でも調理できる料理。もし、その料理の状態がおかしい場合でも、ちゃんと確認できるだろうか。客に出す料理に対して全責任を負うことができるだろうか。少し前に焼き肉チェーン店で食中毒を出して社会的な問題となったが、急成長と引き換えに何かを犠牲にしなければ、莫大な利益が出ないように感じるのは気のせいだろうか。

 「食堂のおじいさん」と比べて経営的なセンスがケタ外れに優れているがために、自社のチェーン展開の拡大が最大の命題となり、ライバル店が10円下げれば、こちらが20円下げる。あっちの店が2店出店すれば、こっちは4店出店する……と血眼になってしまわないか。

 お客にごはんを作ることは、「手段」なのか、「目的」なのか。同じ食べ物屋なら、経営センスが抜群な男や女が出す料理よりも、千年一日のごとく、金儲けなど考えたこともない、一途なおじいさんやおばあさん、にいちゃんが作った「血の通った」料理を迷わずに選ぶ。理由は、お金と仕事の優先順位の違いだ。

(編集長・増田 剛) 

ミシュランガイド関西版、新たに奈良の25軒が星獲得

奈良の星獲得25軒
奈良の星獲得25軒

 日本ミシュランタイヤ(ベルナール・デルマス社長)は10月18日、レストランや宿泊施設の格付け本「ミシュランガイド京都・大阪・神戸・奈良2012」の内容を発表した。「関西版」の出版は今回で3回目で、新たに対象都市となった奈良県から最高評価の三つ星が1軒、二つ星が2軒、一つ星が21軒選ばれた。

 今回掲載される385軒のうち、レストランは296軒、ホテルは48軒、旅館は41軒。新たに3軒のレストランが三つ星を獲得し、奈良エリアから日本料理の「和 やまむら」(奈良市)、大阪エリアから日本料理の「弧柳」(大阪市)とフュージョン料理の「Fujiya1935」(大阪市)が昨年の二つ星から三つ星に昇格した。

 関西全体の三つ星獲得店は京都7軒、大阪5軒、神戸2軒、奈良1軒で、世界の三つ星レストラン101軒のうち15軒が関西のレストランとなった。

 二つ星はレストラン59軒と京都の旅館「要庵西富家」「美山荘」が選ばれた。一つ星はレストラン222軒と、京都の旅館「柊家」、有馬温泉の旅館「欽山」の2軒が選ばれた。

 また新カテゴリーに韓国料理が加わり、韓国料理店「ほうば」(大阪市)が一つ星を獲得した。

 奈良県新公会堂で開かれた出版記念会見でベルナール・デルマス社長は「1300年余りの歴史がある古都・奈良は、京都、大阪、神戸と同じように素晴らしい食の街。まさに『奈良に旨いものあり』です」と述べ、会場は拍手に包まれた。

 ガイドは10月21日発売で日本語と英語版を発行。価格は2520円。