No.344 里海邸 大洗金波楼本邸 - 「本当にくつろげる宿」を求めて

里海邸 大洗金波楼本邸
「本当にくつろげる宿」を求めて

 高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客様の強い支持を得て集客している旅館がある。なぜ支持されるのか、その理由を探っていく「いい旅館にしよう!」プロジェクトのシリーズ第13弾は、茨城県・大洗町で「あたらしいふるさと」をコンセプトに、保養を目的とした宿「里海邸 大洗金波楼本邸」の主人・石井盛志氏が登場。工学博士で、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏との対談で、「本当にくつろげる宿」について語り合った。

【増田 剛】

〈「いい旅館にしよう!」プロジェクトシリーズ(12)〉
 里海邸 大洗金波楼本邸

≪徐々に稼働高める工夫 ― 内藤氏≫
≪保養と癒しの別荘宿に ― 石井氏≫

■内藤:里海邸はもともと保養所からのスタートですよね。

■石井:里海邸の前身の金波楼ができたのは、1888(明治21)年のころです。明治の文明開化後期に海水浴ブームが起きて、茨城にも海水浴場を作ろうという動きがありました。当時の海水浴場は「潮湯治」というもので、体に良い刺激を与えるために波の荒いところを選定して、医師もビーチにいて予防医学的な活動を行ったのです。文献によると、当時は「海水浴客」ではなく、「患者さん」という呼び方をしていたみたいですね。それが次第に現代のようなレジャーに変わっていきました。

 

※ 詳細は本紙1507号または7月5日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

進まぬ温泉地の長期滞在 ― 文化の薫りと憩いの空間

 温泉地における長期滞在が進んでいない。逆に日帰り化が加速している。滞在時間が短いというのは、温泉地自体や各旅館に、旅行者が「連泊しよう」という気分を湧き起こさせない何らかの障壁があるのではないか。夕方遅く到着して朝早く去っていく周遊型団体観光客を除けば、個人客はもっと温泉地に長期滞在してもいいはずだ。そもそも「温泉」にはゆったりと長期滞在客を受け入れる素地を充分に備え持っているのだから。

 しかしながら、旅館も長期滞在客の扱いを持て余している。その象徴的なものは料理だ。一般的な大型旅館では、量が多く、見た目は豪華という、画一的な料理が提供される。そもそも長期滞在の客を前提にして作られていないし、「長期滞在されると、3日目には出す料理に困る」という悩みをよく耳にする。しかし、宿の都合をお客に押しつけるスタイルはもはや支持されない。1泊客とは別に、連泊客には体に負担にならない、ヘルシーで心のこもったメニューの研究や開発など、柔軟な対応が求められる。

 温泉地では、旅行者がくつろげる空間をたくさん作ってあげることも重要である。シンボル的な共同湯の周りや、土産物店が並ぶ温泉街、川べりなど静かな自然空間には、雰囲気の良いベンチを設置し、自分の好きな憩いの空間を作ってあげることが大切だ。四阿やベンチはいくらあっても多すぎることはない。そのうちに景観への美意識も高まり、地元の青年部などがゴミを清掃したり、寂びた看板などを撤去していくだろう。

 そして、温泉地には、小さな図書館があればいい。大規模な必要はない。長期滞在に取り組む大分県の長湯温泉には旅行作家・野口冬人氏が蒐集した山岳書を収めた「小さな図書館」が林の中にひっそりと在り、長湯温泉全体の文化度を高めている。洋の東西を問わず、温泉地は文化人に愛されてきた。文化の薫りのしない温泉地は、人を惹きつける力が弱い。私も「ここはいい旅館だな」と感じる宿には趣のある図書室や、本棚がさりげなくある。宿主のセンスが感じられる知的な空間を備えている。1面に登場した里海邸の石井盛志氏が築く「保養の宿」にも、そのような空間があり共感した。里海邸のようにリピーターが頻繁に訪れるというのも、一つの長期滞在のあり方だろう。

(編集長・増田 剛) 

今年度300会員目指す、今秋にも日本観光施設協会へ(日本ドライブイン協会)

西山健司会長

 日本ドライブイン協会(西山健司会長、230会員)は6月4日、京都府京都市のリーガロイヤルホテル京都で2013年度通常総会を開いた。今秋にも一般社団法人日本観光施設協会への移行を目指しており、新組織のスタートと合わせて、今年度は会員増強に取り組む。目標会員数を300会員に設定した。

 西山会長は「今年度は、内閣府直属の一般社団法人日本観光施設協会としての発足を目指している。事業の拡大をはかりながら社会貢献にも取り組んでいきたい。そのためには、多くの仲間が必要。会員増強への協力をお願いしたい」と語った。また、会員数が12年4月1日時点で90会員だったのが230会員に増加したことを受け、年会費を従来の店舗の売上高別の4ランクの会費から一律1万2千円に改定した。今年度は会員拡大運動に加え、高齢者・身体弱者に適応した施設改善としてバリアフリー化や、AEDの設置推進に取り組む。防災訓練も実施する。

 役員選任では、新組織移行を見据えた体制を整えた。

 主な役員は次の各氏。

 【顧問】鈴木克彦(ザ・フィッシュ)【代表理事会長】西山健司(西の屋グループ)【業務執行理事副会長】中村健治(喜撰茶屋)▽市川忠幸(水戸ドライブイン水戸インター店)【業務執行専務理事】中野吉貫(ナカノヤグループ)【業務執行常務理事】井上喜昭(万寿庵)▽佐藤正男(ゴールドハウス目黒)

取引の改善に努力を、「勇気ある行動」呼び掛け(OTOA)

三役と事務局(中央が大畑会長)

 日本海外ツアーオペレーター協会(OTOA、大畑貴彦会長、142会員)は6月5日、東京都内で2013年度通常総会を開いた。そのなかで、大畑会長は、4月下旬に公正取引委員会が下請法違反で大手旅行会社に勧告を出した件に触れ、旅行会社との取引の改善に向けて、地道に努力を続けることを強調した。

 同件は、公正取引委員会が4月26日、日本旅行に対し、下請法違反で社名を公表して再発防止を勧告したもの。公正取引委員会によると、同社は海外旅行で宿泊施設や交通機関、食事などの手配を委託している下請事業者18社に対し、11年2月―12年8月までに計約3千万円を負担させていた。なお、同社は昨年11月に減額した金額を返還しているという。

 大畑会長は「会社名を公表しての旅行会社への勧告は業界初で、前代未聞のことだが、この件に関する業界からの反応はほとんどない」と厳しく言及。「社名こそ公表されていないが、何度か行政指導を受けたケースもある。これは氷山の一角に過ぎないことは我われが一番よく知っている」と語り、旅行会社から理不尽な要求があった場合は、公正取引委員会や中小企業庁に相談するなど、「勇気ある行動を」と会員に呼び掛けた。

 総会では、一般社団法人移行1年目の今年度の事業として、新たに訪日旅行事業の取り組みを開始することを確認。すでに、6月1日にインバウンド委員会を設置しており、訪日事業を行っている会員や意向のある会員のニーズを把握することから取り組みを開始する。昨年の勉強会で要望の多かったインバウンド保険の開発は、OTOAサービス保険参画損保会社と検討を始めており、先行して進めていく。

 また、任期満了にともなう役員改選では大畑会長を再任した。副会長は立身政廣氏と荒金孝光氏。専務理事は引き続き速水邦勝氏が務める。なお、6月1日付で事務局次長の岩崎宏幸氏が事務局長に就任したことも合わせて報告した。

使用料は6%に設定、宿泊施設に新システム説明(ジャルパック)

説明後は個別相談も実施

 ジャルパックは5月31日、東京・お台場のホテル日航東京で、10月から販売を開始する新しいダイナミックパッケージ(DP)と仕入れシステムについて、宿泊施設向けの説明会を開いた。そのなかで、同社の仕入れシステム「ジャルパックeエントリーシステム」の使用料は販売額の6%と発表。他社サイトと比べて最低値の使用料を設定し、施設にコスト削減メリットをアピールした。

 同日午後の説明会は都内の宿泊施設を中心に55施設が参加。集まった施設を前に、同社の平塚和利執行役員は、同社DPが2012年度は前年比120%と伸びていることや、同社国内旅行シェアの38―40%を占めていることなどを報告。13年度も同130%と好調なスタートを切っており、「重要な商品と位置付けている」と語った。

 そのため、これまでのじゃらんなどと連携して販売しているものに加え、日本航空(JAL)を利用するJALマイレージバンク会員に向けたDP「JALダイナミックパッケージ」を展開することで、さらなる拡大を目指していく。

 今回発表した新システムはDPのほか、JALホームページで展開する宿泊のみの予約サイト「JALイージーホテル」にも適用。新システムは自社仕入れのため、宿泊施設との契約は一新する。システムの初期導入費用は無料で、各サイトコントローラと接続する。また、使用料が半額になる導入キャンペーンを展開。9月15日までに、DPとイージーホテルのプランを各20以上登録すると、システム使用料が3%になる。さらに、追加マイルプランを5プラン以上登録すると使用料は2%になる。キャンペーンの対象期間は販売開始から13年12月31日の予約受付分で、14年5月6日チェックイン分まで。

初の90万人台突破、アジアは軒並み2ケタ増(JNTO4月訪日外客数)

 日本政府観光局(JNTO、松山良一理事長)が発表した4月の訪日外客数推計値は、前年同月比18・1%増の92万3千人となった。単月として初の90万人台に乗り、過去最高を記録した。

 1―4月の訪日外客数累計は前年同期比18・0%増の317万8100人。観光庁の井手憲文長官は5月22日の会見で、「2012年の訪日外客数837万人に18%分を足しても980万人台にしかならず、13年目標の1千万人には足りない。さらに増やし維持し続けなければならず、楽観視はできない」と語った。

 桜シーズンの訪日旅行需要の拡大に加え、円高の是正による割安感の浸透、航空座席供給量の拡大、成長著しい東南アジアの需要増で大きく伸長。市場別では、中国を除くアジアを中心に2ケタ台の伸びを見せ、台湾、タイ、ベトナム、フランス、ロシアが単月として過去最高を記録したほか、韓国、香港、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、豪州が4月として過去最高を記録した。

 市場別にみると、韓国は前年同月比33・7%増の20万4200人。円高の是正を追い風に、若い世代を中心に割安な商品への需要が広がり、4月として過去最高を記録した。

 中国は、日中関係の冷え込みの影響が続き同33・0%減の10万200人となり、井手長官も「不振が続いている」とコメントした。

 単月として過去最高を更新した台湾は、同42・5%増の19万7900人。正月変動があった本年1月を除き、12年7月以降、毎月過去最高を更新中だ。春の旅行シーズンの需要が拡大し、個人旅行の需要増にともない、個人旅行向け商品の取り扱いを始める旅行会社も増えているという。

 香港は、同24・3%増の5万5千人と、4月としての過去最高を更新。海外旅行をしやすい休日の日並びの良さが好影響となった。

 そのほかでは、タイが同46・9%増の6万200人と、12年4月以降、13カ月連続で毎月の過去最高を更新中。ベトナムも同85・6%増の1万2100人と、単月として過去最高を記録した。放射能の影響不安の強かったフランス、ドイツもそれぞれ同30・5%増、18・5%%増と好調だった。

 なお、出国日本人数は同12・3%減の123万7千人と、3カ月連続で前年同月を下回った。

サービス産業の高付加価値、三重県と鳥羽商工会議所が勉強会

(左から)小川氏、平田氏、楠氏、内藤氏

 三重県と鳥羽商工会議所が主催する「サービス産業の高付加価値化勉強会」が5月29日、鳥羽商工会議所会館かもめホールで開かれた。

 事例紹介として、神奈川県・箱根塔の沢「一の湯」社長の小川晴也氏、福島県・東山温泉「向瀧」社長の平田裕一氏、石川県・和倉温泉「加賀屋サービスアカデミー」の楠峰子氏が講演した。その後、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏が統括講演を行った。

 小川氏は、一生懸命働いても利益が上がらない現実に直面した際、マネジメントの重要性に気づき、「人時生産性」を指標に生産性の向上に取り組んだ経験を語った。

 平田氏は、利益重視の姿勢ではなく、「お客様の満足度重視を徹底して追求することがいずれ利益を生む」という考え方を示した。

 楠氏は「加賀屋ではお客様に要望される前に、こちらから声を掛ける『半歩先を見た行動』を心掛けている」と紹介した。

 内藤氏は「スタッフは社長や上司に褒められるより、お客様に褒められるほうがうれしい。つまり、お客様の満足度を上げることが、従業員満足を上げる」とし、「スタッフが『お客様に何かをしてあげる』という、接客にエネルギーと時間を集中できるように、バックヤードの作業については、きっちりとマニュアル化し、指揮・命令・管理・監督で解決しなくてはならない」と述べた。

相互交流400万人へ、日台観光サミット開く

三重宣言に合意

 日本観光振興協会などが事務局を務める日台観光推進協議会(西田厚聰会長)は5月31日、三重県・合歓の郷ホテル&リゾートで、台湾側主催団体の台日観光推進協議会(賴瑟珍会長)と「2013日台観光サミットin三重」を開いた。両者は2016年までに、日本と台湾の相互交流人口400万人を目指すことなどを盛り込んだ「日台観光サミット三重宣言」に合意した。

 サミットには観光庁の井手憲文長官はじめ、日台から計212人が参加。双方が観光プロモーションの現状報告を行った。意見交換では共通テーマでの地域間交流の推進やスポーツ、文化、歴史などによる相互交流の推進などを話し合った。

 また、サミットを開始した2008年当初から、相互交流人口300万人を目標に据え、毎年サミットを開催してきたが、2012年は相互交流が過去最高の299万人を記録(台湾観光局発表)。300万人の実現が視野に入ったことから、今後はさらなる発展に向け、相互交流人口400万人を目指すこととした。

 来年のサミットは台湾の屏東市で開く予定。

第1期で23社認証、ツアーオペ品質認証制度(JATA)

 日本旅行業協会(JATA)はこのほど、訪日旅行事業に携わるツアーオペレーターの品質を認証する「ツアーオペレーター品質認証制度」の第1期申請で、23社を認証したと発表した。認証会社には認証登録証が交付され、認証マークの使用が可能になる。

 6月5日の会見で国内・訪日旅行推進部の興津泰則部長は、「品質向上によって訪日旅行を拡大することが最大の目的」と改めて、同制度の意義を説明。「認証をして終わりではダメ。質の向上に向けて支援していく。いかに制度を広めて、周知していくかが最大のミッションだ」と語った。

 認証の条件には旅行業登録や、プライバシーマーク(Pマーク)取得済などがあるが、それについては「インバウンド専業の会社は国内で認知度がないので、Pマークなどの資格を持っていることで一定の判断ができる」と考えを述べた。

 今回の認証会社の内訳は、JATAの第1種旅行会社が主だが、インバウンド専業会社も5社あり、会員以外の会社も含まれている。今後はこうした会員外の専業会社からも申請が増える可能性があり、審査委員会では会社の信頼性の検証を必要とする声もあるという。

 一方、今回の認証ではPマークを取得していない会社も含まれているが、1年以内の取得を前提に認証。万が一、取得できない場合は認証も取消となる。

 なお、第2期の申請受け付けは7月1―31日まで。

     ◇

 第1期認証会社は次の通り(登録順)。

 日本旅行▽阪急交通社▽名鉄観光サービス▽ジャパングレーライン▽ANAセールス▽JTB▽東日観光▽トップツアー▽JTBグローバルマーケティング&トラベル▽近畿日本ツーリスト▽中青旅日本▽トラベルイノベーションジャパン▽JTB西日本▽JTB九州▽JTB沖縄▽ジャパンホリデーサービス▽びゅうトラベルサービス▽JTB首都圏▽JTB中部▽トライアングル▽南海国際旅行▽エイチ・アイ・エス▽JTB関東 

東南アジアのビザ緩和決定、首相、訪日2千万人へ言及

 政府は6月11日、安倍晋三首相をトップとする「観光立国推進閣僚会議」の第2回会議で、東南アジア向けの訪日観光ビザの発給要件を大幅に緩和することを決めた。今夏までに実施する。

 現在、期限内に何度でも入国できる「数次ビザ」を認めているタイとマレーシアを「ビザ免除」に、現在「1次ビザ」のベトナムとフィリピンを「数次ビザ」に、それぞれ1段階要件を緩和。さらに、現在「数次ビザ」のインドネシアは滞在可能日数を延長する。これらは第2回観光立国推進閣僚会議で決定したアクション・プログラムに盛り込まれたもので、一定の要件を満たした外国人の長期滞在を可能にする制度の導入についても触れている。

 安倍首相は会議を踏まえ「夏までに東南アジア諸国からの観光ビザを一気に緩和することを決めた。史上初の訪日外客数1千万人を達成し、さらに2千万人を目指すため、このアクション・プログラムを直ちに実行していく」と力を込めた。

 アクション・プログラムは(1)日本ブランドの作り上げと発信(2)ビザ要件の緩和などによる訪日旅行の促進(3)外国人旅行者の受入改善(4)MICEの誘致や投資の促進――の4項目で構成。「日本ブランドの作り上げと発信」では、オールジャパン体制での連携強化などをうたい、新たに「国際広報強化連絡会議」を官邸で開き、各府省庁の広報機会やコンテンツなどを共有し、政府一体となり訪日の魅力を海外に発信していく。

 「ビザ要件の緩和などによる訪日旅行の促進」では、ビザ要件緩和のほか、3月にまとめられた観光産業政策検討会提言でも掲げられた、外国人旅行者にホテル・旅館の設備やサービスの有無などを情報提供する仕組みの導入についても盛り込まれ、今年度内に具体的方針を決め、情報提供を促進していく。また、クルーズ船の寄港促進やオープンスカイの戦略的な推進なども掲げる。

 「外国人旅行者の受入改善」のなかでは、訪日外国人旅行者に宿泊施設や食事、交通機関などの手配を行うツアーオペレーターの認証制度の導入と定着を強調。また、ムスリム旅行者への対応についても盛り込まれた。インバウンドで急成長を遂げる東南アジア市場にはムスリムも多く、その受入には食事や礼拝など宗教上の配慮が必要となる。受入環境の整備へモデル事業も実施していくという。