2024年9月15日(日) 配信
猛暑の夏がようやく終わりに近づいてきた。「夏の風物詩」は時代の移ろいにつれて変化しているが、花火、七夕、朝顔、向日葵、風鈴、夏の虫、ラジオ体操、鵜飼い、盆踊り、ビアガーデンなどが思い付く。
されど、夏の風物詩の最たるものは、やはり各地の「夏祭り」であろう。思い付くままに各地の夏祭りを列挙すると、青森ねぶた祭り、秋田竿燈まつり、山形花笠まつり、徳島阿波踊り、高知よさこい祭り、京都祇園祭、博多祇園山笠、日向ひょっとこ夏祭り、鳥取しゃんしゃん祭りなどが有名であり、旅行業界においてもさまざまなカタチで地元と連携して送客に励んでいる。
夏の時期になると、台風や豪雨や害虫増加などで豊作の被害が拡大しがちになる。できるだけ被害をなくしたい気持ちから、あらゆる神々に祈願して不幸を招来する邪悪なものを追い払うため、各地で夏祭りが挙行されている。
また昔から夏のお盆の時期に祖先の霊が戻ってくるといわれており、それらの霊をもてなすために夏祭りでさまざまな行事が行われる。そういう意味で、日本の夏は祭りのエネルギーが一挙に爆発する季節でもある。
日本の夏祭りは時代の変化に伴って、祭りの在り方に変化が生じているが、それでも各地で伝統的な祭りが維持継続されているのは、祭りが地域における「結衆の原点」として機能し続けているためである。
日本では今でも伝統的な祭りを開催するために地域住民が祭り運営団体を組織し、自治体と連携協力しながら長年にわたって祭りを挙行している。ところが少子高齢化が深刻化しているために、祭りの際の「結衆」の在り方に変化が生じている。
具体的には、祭りの担い手不足と運営費用不足が深刻化している。北海道富良野市の「北海へそ祭り」では、長年継続されてきた「女神輿」が女性会員の減少で維持困難になり、6人の男性に協力を求めて市内を練り歩いた。また、会場設営費、電気代、花火代などの開催経費の高騰で複数の祭りの統合を決めたところもある。
日本の祭りは地域における「結衆の原点」であるが、祭りの維持運営は容易ではない。旅行業界は各地におけるより一層の協力連携と共に、伝統的な祭りの大切さを子供世代に伝える旅を企画してもらいたい。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。