2022年11月17日(木) 配信
長野県長野市には、戸隠神社と善光寺という全国的にも知名度があり、強力な神仏を祀る聖地があります。今回は、神話の「天の岩戸」伝説の舞台でもある戸隠神社奥社、九頭龍社、中社、火之御子社、宝光社を巡る、「戸隠神社五社めぐり」をご紹介します。
戸隠神社の奥地にある戸隠山は、長野市の北にある火山性山地、戸隠連峰の中央にそびえる山です。また、頭が9つある九頭龍伝説や能の「紅葉狩」の鬼女によって知られる、神秘的な空気感が深い霊山でもあります。
能の「紅葉狩」では戸隠山に隠れ住む鬼を平維茂が退治するという話。
戸隠という地名には、「天の岩戸」伝説が関わっています。天照大御神様が隠れていた天岩戸の戸を剛腕の持ち主の天手力雄命(あめのたぢからおのみこと)様が開けて、世界に光を取り戻した際に、その戸を地上に放り投げて落ちたところに山ができ、そこに戸を隠したので、戸隠山になったといわれています。
さて、以前、戸隠神社・中社近くの宿に泊まったとき、1枚の古い戸隠の観光ポスターに目が留まりました。そこには「岩戸が隠されたこの地には、隠された自分を見つける場所でもありました」という言葉が書かれていて、自分の心の良いも悪いも、さらけ出して、「奥」にあるものと対話できる、貴重な聖地ではないかと思ったのです。
「奥」という言葉は、「奥院」や「奥社」と使われていますが、「表院」「表社」とは使われません。そのときには「本院」「本社」などといわれています。その「奥」のもっとはるか彼方には、「未知なるもの」「人が足を踏み入れることができない、神秘的な聖域」「生死の世界の境目」という世界が果て無く続いているのかもしれません。戸隠神社には奥社があり、そのもっと奥に戸隠山があります。その奥には、自分の中の一番むき出しにされた本音の奥底の部分とつながっているかもしれないと思うと、この五社めぐりという戸隠古道の巡礼のなかで、自分との本音での対話が可能になるでしょう。
五社めぐりは、歩きで巡ると4時間程度。長野駅からバスに乗り、1時間程度で、宝光社に到着。スタートの宝光社は学問や技芸、安産などの神、天表春命(あめのうわはるのみこと)様がご祭神。宝光社から火之御子社まで徒歩15分で、到着。火之御子社は、ご祭神は芸能の神様である天鈿女命(あめのうずめのみこと)様、その他3柱の神様がご祭神。
火之御子社から中社までは、徒歩15分程度。中社は宿や土産物屋、蕎麦屋などが立ち並ぶ、戸隠の中心的な場所です。中社のご祭神は、天八意思兼命(あめのやごころおもいかねのみこと)様。天照大御神様が天の岩戸に隠れたときに、岩戸を開くきっかけ作った知恵の神様。
中社から奥社参道までが、徒歩40分程度。参道を歩いていくと、杉並木と真っ赤な随神門があります。随神門をくぐると、ここから一気により一層、目に見えない神仏の氣といったものを感じてきます。奥社までは片道2㌔程度で、後半の500㍍は坂道と石段になり、修験者になった気持ちが味わえる、ややハードな道のり。この長い奥社参道からは、杉の木々と戸隠全体のエネルギーが重なり合って、心の奥底とより対話ができるようになるでしょう。
ようやくたどり着くと、隣り合うようにお祀りされている、九頭龍社と奥社。九頭龍社は、雨乞いや、縁結び、虫歯にご利益のある九頭龍大神様がご祭神。そして、奥社のご祭神は、スポーツや技芸の神様である天手力雄命(あめのたぢからおのみこと)様。奥社にご参拝したら、神様からのメッセージである、おみくじを引いてみてください。たくさんの気づきや生きるヒントがいただけるでしょう。
■旅人・執筆 石井 亜由美
東洋大学国際観光学部講師、カラーセラピスト。精神性の高い観光研究部会メンバー。グリーフセラピー(悲しみのケア)や巡礼、色彩心理学などを研究。