2022年11月12日(土) 配信
落着きをみせていたコロナ禍が再び、蔓延の兆しを見せ始めた。(執筆時点では)第7波の到来である。このため国も予定していた全国的な旅行支援(旅費支援)の実施再延期を決めた。一部の県では県境を越えた移動(旅行)自粛などを再び呼び掛け始めている。
観光事業者はまたまた、経営危機に直面することになりかねず、対応に苦慮している。ただ今回は、過度の自粛による経済への打撃を緩和するべく、国も緊急事態宣言の再発出には慎重である。
また、「観光(旅行)」についてもマスク着用などの普及もあり、前回のような移動規制に近い強い呼び掛けは差し控えている地域が多い。それだけに感染状況を見極めて各個人や観光団体などの判断による適切な「自粛」が求められているのではないだろうか。
思い返すとこれまで移動の自粛の呼び掛けについてはいくつかの気になる点があった。
まず、「観光など不要不急の旅行自粛」、「連休は『観光』を止めてステイホームを」をなどという呼び掛けが目立ったことだ。観光がただの遊びと誤解されているからと考えられるが「観光」は、人間の本能に根差す重要な文化経済行動であるから、このような呼び掛けには強い違和感を覚える。
密回避などまん延防止ガイドラインを守った「観光」のようにコロナ禍のもとでも実行可能な「観光」があると思う。従ってこのような「観光」全体を槍玉に挙げたような呼び掛けはむしろ逆効果を生じかねない。
次に「都道府県境を越えた移動の自粛」との呼び掛けがあった。まちがつながっている都市圏の住民は、都府県「境」を越えた移動の自粛は、実際問題としては不可能に近い。また、ウイルス側には「境」などないのだから、都府県「境」を越えた移動自粛を呼び掛けられると当惑せざるを得ない。むしろこの呼び掛けを聞くと、都府県などのナワバリ行政の弊害さえ感じるほどだ。
「移動」の自粛がウイルスの蔓延防止に必要なことは言をまたない。しかしその呼び掛けは、めいめいが移動を自粛するきっかけにつながると共に、自粛による効果が上がるものでなければならない。
コロナ禍という疫病の蔓延防止の場合、ウイルス側に上述のように境界の意識などまったくないのであるから、広域的な視野に立って県境などにこだわらず対象地域を明示して呼び掛けるべきだ。しかしこれまでの実態からみても人間の持つ移動本能や日常生活行動を長期に抑制するのは不適切であり不可能に近いと考えざるを得ない。
むしろ前述のように、コロナ禍下でも必要な移動について、蔓延防止のために守るべきガイドラインをキメ細かく専門家の知見をもとに公的機関が明示すべきと考える、同時に地域などの壁を取り払った広域的かつ、総合的な蔓延防止策の策定こそ急務なのではなかろうか。今回のコロナ禍への対応をみると地域や担当者間のナワバリの撤廃こそ、急務であることを改めて感じる。
日本商工会議所 観光専門委員会 委員