全国運輸環境協会、コロナ感染者搬送 拡大防止の経験で安全確保

2022年10月15日(土) 配信

旅行会社や貸切バス事業者などで構成する

 旅行会社や貸切バス事業者などで構成する全国運輸環境協会(竹島美香子会長、東京都新宿区)は、自治体向けに新型コロナウイルスに感染した軽症者をホテルなどの療養施設に搬送する事業を展開している。

 コロナ禍で団体旅行の需要が減少するなか、会員各社の新たな収入源を提供。さらに、万が一ツアーで感染者が乗車した際も、ほかの利用者への感染を防ぐ経験を得ることで、貸切バスの安心・安全を確保する。

 会員には、全国旅行業協会(ANTA)の会員も所属する。

 同協会は2014年に、女性バス運転士の労働環境向上のために設立。コロナ禍では、運転士や添乗員向けの感染対策の講習会を開いている。

 コロナ感染者の搬送は会員各社の運転士に加え、社員が添乗員として乗車し、感染者の自宅などを1軒ずつ訪れ、療養施設まで運んでいる。

 20年に集団感染が起きたダイヤモンドプリンセス号からの搬送した民間救急の会員がいる。

 竹島会長は「(民間救急の会員が)感染対策に関する情報共有と研修を行い、安全を確保している」とアピールする。

「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(141)感謝の想いがおもてなし行動を生み出す 細やかな気付きを生む

2022年10月15日(土) 配信

 

 クライアント企業から、地元のプロジェクトに料理人を紹介してほしいと依頼され、山形のアル・ケッチァーノのオーナー奥田政行シェフに連絡をしました。とても忙しいシェフなのですが、連絡するとすぐに快諾いただき、現地にお迎えすることができました。

 さらに「皆さんがお集まりになる機会に、少しお話もしましょう」と、講演もしていただきました。その講演のあとにシェフから「この機会をつくってもらった西川さんへ、お礼を述べることができなかったのが失敗でした。ごめんなさい」との一言が、とてもうれしく記憶に残るものとなりました。

 シェフに依頼するために山形まで伺い、何度も日程調整のための連絡をして、ようやく決まったプロジェクトでした。その言葉で、すべてが報われた想いでした。

 そうした細やかな気遣いができるシェフだからこそ、常にお客様方に喜ばれる料理を提供することができるのだと思います。

 シェフの料理を食べ始めたころ、あるパーティーに参加されることを知り、申し込みました。テレビや雑誌などでも紹介されている有名シェフが何人も参加され、1皿ずつ腕を振るうというとても魅力的なパーティーでした。

 ただ料理が作られるだけでなく、その渾身のお皿が提供される度に、その料理を作ったシェフが、料理について解説をしてくれるのも楽しみの1つでした。食事だけでも特別感があるのに、それを作ったシェフが直接話をしてくれることは、料理の味をさらに高め楽しいものでした。

 いくつかの料理を食べたあとに、奥田シェフの順番が来ました。他のシェフは自作の料理を得意げに話すなかで、奥田シェフだけは、「前後の料理がこうだから、それをつなぐためにこういった料理を作りました」と、そのパーティーの料理全体を見た1皿を作られていたのです。

 提供されたすべての料理は、間違いなく美味しいものでしたが、コース料理となるとそれぞれが主張し合っているようにも感じていたのです。シェフのそのコメントを聞いたときの感動は、忘れることができません。それがきっかけで、その後も奥田シェフのレストランに機会がある度に伺うようになったのです。

 講演のあとに私に掛けていただいた言葉からは、同時に感謝の想いを持つことの大切さを改めて感じた瞬間でもありました。

 気付かないなかで、たくさんの方々の力を借りて私たちは仕事をしています。今の結果は、そのすべての人たちの力があったからです。

 感謝する想いが、シェフのように細やかな気付きを生み、お客様に喜ばれる仕事につながるのです。

HIS、オンラインツアー25万人突破 土産販売サイトは特別価格に

2022年10月14日(金) 配信

増加の推移

 エイチ・アイ・エス(HIS)は10月11日(火)、オンラインツアーの体験者数が25万人を突破したことを発表した。これを記念し、世界のお土産通販サイト「stoory」で特別価格の商品を販売している。

 同社は2020年4月から、オンラインツアーを開始。サービスの認知が広まった21年以降の毎月利用者数は、約1万人で推移している。ウィズコロナ時代の現在は、従来の旅行の代替のほか、オンライン体験ツアーだからこそ実現可能なコースや旅先の下見などとしても利用されているという。

 今年7月には、35カ国を巡る特別企画「24時間ライブ中継」を開催し、421人が参加した。「世界とつながる、平和への旅」をテーマにウユニ塩湖のサンセットやスイスの雪原、モンゴルの大草原、青と白の絶景サントリーニ島などを24時間でつないだ。

 stooryではイタリア「ローカー」のウェハース、ハワイ「マウナロア」のマカデミアナッツなど25種30点以上3万円相当の商品が詰まった「世界の輸入菓子セット」を2万5000円(送料込)で発売する。さらに、アメリカ・ハワイのお土産「ミニバイツクッキーセット」は2500円(手数料、送料別)で用意した。

心のバリアフリー、研修・紹介動画を公開 新たに40観光施設を認定(観光庁)

2022年10月14日(金) 配信

観光庁は「観光施設における心のバリアフリー認定制度」で新たに40施設を認定した

 観光庁は10月14日(金)、「観光施設における心のバリアフリー認定制度」において、新たに40施設を認定し、計375施設となった。これに加え、宿泊施設や飲食店、観光案内所の各認定施設の取り組み事例を紹介する動画や、聴覚障害のある人に対する心のバリアフリー研修動画をユーチューブで公開した。

 同制度は、ハード面の整備に加え、筆談対応などソフト面のバリアフリー対応や情報発信に積極的に取り組む姿勢のある観光施設を認定する。認定を受けた施設は観光庁の定める認定マークが交付される。

 このほど追加認定した40施設のうち、宿泊施設は、銘石の宿かげつ(山梨県)、ゼログラヴィティ清水ヴィラ(鹿児島県)、料理旅館 平成(福井県)、大観荘せなみの湯(新潟県)、竜王ラドン温泉ホテル 湯―とぴあ(山梨県)──の5施設。

 飲食店はパン・ダニエル(山梨県)の1施設。

 観光案内所は、道央・東北・北陸・関越・上信・常磐・館山・東関東──などの自動車道に置かれたパーキングエリアやサービスエリア内のインフォメーションセンターから34施設となった。

 心のバリアフリーへの理解を深めるため、飲食店向けに聴覚障害のある人へのこころのバリアフリーとして、新たに2本の研修動画や取り組みの紹介動画をユーチューブにアップした。

 研修動画は、グルメリポーターの彦摩呂氏を起用し、外食での「聴覚障害」の疑似体験を通してバリアフリー対応について学ぶ内容。

 取り組み紹介動画では、認定を受けた観光案内所・宿泊施設・飲食店それぞれの具体的なバリアフリー対応を紹介した。

「観光革命」地球規模の構造的変化(251) 人手不足と人財育成

2022年10月14日(金) 配信

 

 10月に入ってからコロナ禍が下火になると共に、国や自治体による旅行・観光支援策が本格化してきた。国は「Go Toトラベル」に代わる観光需要喚起策として「全国旅行支援」を10月11日からスタートさせた。国の補助を受ける都道府県は国の要綱に沿いながら地域の事情に応じて実施をはかる。

 また国は10月11日から、1日5万人とする入国制限を撤廃し、従来のツアー客に加えて、個人旅行の受け入れも解禁する。円安はインバウンドにプラスに働くので、外国人観光客の増加が期待されている。長引く苦境で喘いできた旅行・観光産業にとって、ようやく一条の光が射し込んできた。

 とはいえ、旅行・観光産業の人手不足は深刻な状況にある。とくに宿泊業は労働集約型の産業であり、人手不足は致命的結果をうみだしかねない。観光需要喚起策も大切であるが、人手不足支援策も不可欠である。

 北海道の宿泊業最大手・野口観光グループはコロナ禍前の2018年4月、職業訓練校として「野口観光ホテルプロフェッショナル学院」を開校した。

 当初はホテリエ養成の総合ホテル学科のみで発足し、19年に総合調理学科を追加設置。企業内職業訓練校なので、学院生は野口観光の正社員として採用され、高卒並みの給料をもらうと共に、入学金・授業料無償、寮完備(3食付)で働きながら学べ、各種資格を取得できる。学院は野口観光運営の「新苫小牧プリンスホテル和~なごみ~」に併設され、2年間の座学と実習を通じてホテルプロフェッショナルを養成する。

 すでに約120人が卒業しており、野口観光が各地で展開するホテルなどで仕事に従事している。学院長で野口観光会長の野口秀夫氏は「卒業生が他社に移っても宿泊業全体の底上げになる」と述べている。私も学院卒業生が働いているホテルに宿泊したことがあるが、若いスタッフが生き生きと真摯にさまざまな「おもてなし」に励んでいる初々しい姿に接して、心が洗われる思いを感じた。

 旅行・観光産業の根幹は「おもてなし」であり、従業者が心のこもったおもてなしを心掛けておれば、客は自ずとリピートしたくなる。おもてなしの心を大切にして「育てるホテル」をモットーに若手人財の育成に尽力している野口観光のチャレンジを応援したい。

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

 

 

持続可能性という新しい価値を探る DMO雪国観光圏や帝国ホテルの先進事例

2022年10月13日(木) 配信

パネルディスカッションのようす。(左から)井口智裕氏、平石理奈氏、北村剛史氏

 日本能率協会はこのほど、宿泊業界向けオンラインセミナー「これからのホスピタリティとは『持続可能性』という新しい価値」を開いた。業界がサステナビリティに取り組む必要性などを探った。

 はじめに、いせんの社長とDMO雪国観光圏(新潟県・湯沢町)の代表理事を務める井口智裕氏が、経営するryugon(同南魚沼市)と同DMOのそれぞれが取り組む持続可能性について説明した。

井口智裕氏

 同DMOは湯沢町や長野県・栄村、群馬県・みなかみ町など3県の7市町村への誘客を行う組織。8000年前から続く雪国で育まれた知恵「雪国文化」を紹介している。町それぞれが町内の魅力をアピールするなか、広域で活動することでさまざまな人に関わってもらい、地域を活性化したい考えだ。

 具体的には、「ryugon」は雪国文化をテーマにリニューアルした。このほか、雪国観光圏では、地元の食材を使用している宿や料理店を雪国A級グルメとして紹介している。

 そうしたなか、「日本の温泉旅館の魅力が海外に伝わりづらいことが課題だった」(井口氏)ことから、欧米で広まっているというゴミや化石燃料の削減目標を数値化するなど、環境に配慮した高付加価値型の宿泊施設「エコロッジ」を推進していることを外国人にアピールしていると語った。

 続いて、帝国ホテルSDGs推進担当課長の平石理奈氏が「サステナビリティの推進活動」をテーマに登壇した。

平石理奈氏

 同ホテルでは2001年に、環境委員会を発足。20年にはサステナビリティ推進委員会を立ち上げた。

 01年には、乾燥機を設置。生ゴミから作った肥料で育てた野菜をレストランで利用している。こうした取り組みで、1年間における生ゴミの排出総量のうち、70%をリサイクルしている。

 また、20年には感染対策も兼ねてバイキングをオーダー方式に変更し、従業員食堂では食事会場で提供しない野菜の端材を使うことで、ゴミの量を前年から約8割減らすことができたという。

 脱プラについては、プラスチックの素材を竹や木製などに切り替え、約92%プラスチック量を減らした。

 省エネ対策として、上高地帝国ホテルでは、発電時に二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーに由来する電力「CO2フリー電気」を使用している。50年には二酸化炭素の排出を実質ゼロとすることを目指している。

 そのうえで、平石氏はこれからのホテルに求められることについて、「滞在が環境や社会課題の解決につながること」と語った。

 一方、ラグジュアリーとサステナビリティは相反するとして、お客の理解を得るためのSDGsセミナーを開催していることを紹介。「利用客の声を聞きながら、よりサステナビリティを推進していきたい」と話した。

 最後にパネルディスカッションを開き、井口氏と平石氏が登壇。モデレーターは宿の品質認証プログラム「サクラクオリティ」を運営する観光品質認証協会統括理事の北村剛史氏が務めた。

 SDGsに取り組んだ成果について問われた井口氏は「ごみの排出量の目標を数値化することで、スタッフの削減に対する意識が向上した」と述べた。

 また今後は、「小さい旅館単館でSDGsを推進しても、お客様には『経費削減のため』と思われることもある。地域という大きい単位で声を挙げ、お客に理解してもらいたい」と話した。

 平石氏は約1700人の従業員が一丸となってSDGsに取り組めている理由を訊ねられ、企業理念で公益性の追求を掲げていることを挙げた。

 社内で徹底するために、決裁書では「新しく実施する取り組みについて、SDGsの目標のうち、達成できる項目を記載する欄を設けた」と語った。

宿泊施設向けの予約・販売管理システムで障害 約5100施設に影響

2022年10月13日(木) 配信

10月11日(火)から全国旅行支援が開始された

 全国旅行支援が10月11日(火)に実施したことに伴い、同日、新規の宿泊予約や既存の予約に同支援を適用する「あとから割引」を受けるための変更などが殺到した。短時間に大量の予約を受信したことによるトラフィック急増の影響で、国内の約5100宿泊施設が利用する予約・販売管理システム「TL—リンカーン」で、予約通知処理の滞留などの障害が発生した。

 同システムを提供するシーナッツ(山田英樹社長、東京都港区)は12日(水)夜、「予約通知の受信と残室・料金の調整機能が正常に利用できない状態だ。(同システムを利用する)宿泊施設では、複数の販売先に対して手動で予約確認・販売管理を行っていただかなければならない状況が続いている」と発表した。

 宿泊施設では、じゃらんnetや楽天トラベルなどのOTA(オンライン旅行会社)、JTBなどの旅行予約サイトで、予約が完了してもその通知が施設側に届かず、チェックイン時に予約状況を個別に確認する作業が発生し、通常より手続きに時間が掛かる事態が発生している。

 シーナッツは、システムの一部機能を制限することで、宿泊施設への予約通知の受信機能を最優先に段階的な復旧を目指すが、最終的な解消時期は未定としている。

ジャルパック、本格的なAT商品 北海道認定ガイドと巡る

2022年10月13日(木)配信

タンチョウ(Photo by Makoto Ando)

 ジャルパック(平井登社長)は10月12日(火)、北海道知事認定アウトドアマスターガイド兼カメラマンの安藤誠氏監修による、冬のひがし北海道でのタンチョウ観察をテーマにした3泊4日の東京発ツアーを売り出した。

 同ツアーはアドベンチャートラベル(AT)の定義である「自然」「アクティビティ」「文化体験」のすべてを満たす。そのうえ、AT業界最大級の団体「ATTA」が掲げる5つの要素も含む、本格的なAT商品の第1弾となっている。

 国立公園の特別保護区や天然記念物エリアで手付かずの自然の雄大さや平穏の真骨頂を楽しめ、カメラ持参の人には安藤氏が写真撮影をアドバイスするという。タンチョウ観察のベストシーズンに、個人や通常のツアーでは行くことのできないスポットを案内する。

北海道知事認定アウトドアマスターガイドの安藤誠氏

 宿泊先は、安藤氏が経営する鶴居村の「ウィルダネスロッジ・ヒッコリーウィンド」。鶴居村特産チーズや地域の人がつくったジャガイモをふんだんに使ったグラタンなど、地元食材を中心とした食事を提供する。このほか、鶴居村や釧路市の人との交流や、地元食材の買い物の場を用意。服や靴、双眼鏡などの4日間のレンタル代付き。

 出発日は、12月12日(月)、25日(日)、2023年1月8日(日)、13日(金)、3月3日(金)、8日(水)。旅行代金は27万円。募集人員は60人(1出発日当たり最大10人まで)。

 抽選応募制で応募期間は、12月12日(月)、25日(日)出発分が11月13日(日)の午後6:00まで、1月8日(日)、13日(金)、3月3日(金)、8日(水)出発分は12月4日(日)の午後6:00まで。抽選応募期間終了後、応募フォームでキャンセル待ちのリクエストを受け付ける。空きが出た場合、再抽選のうえ電話にて順次連絡を予定する。

【精神性の高い旅~巡礼・あなただけの心の旅〈道〉100選】-その18-渋川八幡宮(群馬県渋川市) 我欲を祓ったその奥へ 大祓詞を静かに写詞する

2022年10月13日(木) 配信

 この連載を始めるときに、「精神性の高い旅」とは何かということを突き詰めて考えた。概念としては、パワースポットに近いのかと思って、パワースポットにまつわるさまざまな記述を紐解いてみたが、何か違和感を覚えていた。

 

 パワースポットは見えない力を追求しているように感じるのに、出てくるのは荘厳な建築物や、巨木といったモノばかり。雑誌Hanakoの寺社特集の直近4冊でパワースポットとして紹介されていたところを列挙していくと、樹木24%、石・岩19%、仏像・動物の像14%、本殿・本堂・門などの建造物も14%と、すべて「モノ」であり、見えないものがパワースポットとして紹介されている項目はなかった。精神性を求めているように見えて、現実はすべて目の前にあり、見える印象的なものを求めて旅をしているに過ぎないように感じた。

 

 そんななか、見えないものを感じることができる場所がある。群馬県渋川市にある渋川八幡宮である。

 ここは、渋川駅から約3㌔、ちょうど伊香保温泉に向かう県道33号線沿いに鎮座している。社伝によると、鎌倉時代中期の御家人渋川義顕が創建したとされる。鎌倉の鶴岡八幡宮を勧請したとのことである。

 

 御祭神は応神天皇、比売神、神功皇后で、子宝祈願や安産祈願、子育てなどに御利益があるといわれている。

 

 境内は鬱蒼とした木々に囲まれている。本殿は江戸時代初期に建立され、県の重要文化財にも指定されている。正面の彫刻も迫力がある。

渋川八幡宮の本殿(写真提供=小笠原陽子氏)

 本殿の前には、大きな石が鎮座しており、これが蛙の形に見えることから、「勝かえる」「若かえる」と呼ばれ、ここで多くの人が願掛けをしている。さらに、本殿左横に白いだるまが鎮座しており、ここでも多くの人が願掛けをしている。

 

 このような渋川八幡宮だが、魅力はこれだけではない。ここの宮司である小野善一郎さんその人こそがこの渋川八幡宮の最大の魅力といっても過言ではない。小野さんは、神道の教えが現在の我が国に浸透していないことを憂い、全国で神道をわかりやすく理解するための講演活動をして回っている。そのため、小野さんに会うためにわざわざ遠くからこの渋川の地を目指す参拝者が引きも切らない。

参詣者に「大祓詞」を写詞する機会を提供(写真提供=小笠原陽子氏)

 小野さんが力を入れているのが、「写詞」である。よく寺院では般若心経の写経を実施しているところが多くあるが、神社で祝詞を写し取ることは、ほかでは見たことがない。そこで、小野さんは、祝詞の中でも、毎年6月と12月の晦日に大祓が行われる際、神前で読み上げられる祝詞である「大祓詞」を選び、参詣者に写詞をする機会を提供している。1300年もの長きにわたって唱えられてきているこの大祓詞を改めて一字一字丁寧に写し取っていくことで、自分と向き合うことができるのである。

 

 小野さんは言う。人間は本来穢れのない澄んだ清らかなこころがあるはずなのに、毎日暮らしていくなかで、悪口、嫉妬、傲慢などで覆われてしまう。そのような罪、穢れを祓って捨て去り、本来の人間のあるべきこころに戻ることこそが神道の目指すところであり、そこに導くのが大祓詞なのである。すなわち、神社にお参りするのは、なにも荘厳な神殿に跪くためでも、巨木や巨岩に圧倒されるためでもない。自分のこころと向き合って、我欲を祓ったその奥にあるものを体認することにある。ということは、本当のパワースポットは、私たち一人ひとりの自我の先にあるものなんだということが理解できる。 

 

 静かに写詞をすることで、自分の中に最高のパワースポットがあったということを実感できる場所、それが渋川八幡宮である。

 

 

旅人・執筆 島川 崇
神奈川大学国際日本学部国際文化交流学科教授。2019年「精神性の高い観光研究部会」創設メンバーの1人。

「提言!これからの日本観光」 鉄道開業150年

2022年10月13日(木) 配信

 今年は1872(明治5)年日本の鉄道が開業してから150年の記念すべき年に当たる。

 鉄道の開業は近代国家への脱皮を目指す当時の日本にとって国の社会経済発展を推進する重要な第1歩となった。鉄道開業に備えて国の欧米政治経済視察団の派遣をはじめ、多くの人々が欧米の鉄道研究、施工、運行技術習得に渡航した。とくに鉄道先進国であるイギリス人専門家などから、設計、施工、運営全般に渡り指導支援を受けたと聞く。

 開業時、鉄道の機関車、客車はすべてイギリスから輸入された。機関士もほとんどイギリス人が当たったという。明治生まれの人は当時「駅」のことを日常ステーション、ないしステン所と呼んでいた。またきっぷの様式をはじめ営業諸制度などもイギリスの影響を強く受けた。

 レールの左右幅が1067㍉の狭軌であったのも当時の日本の国力からみて、イギリスの海外領土の鉄道規格を導入したからといわれている。(欧米は広軌―標準軌1435㍉。日本では新幹線と貨車運行のなかった都市圏の民鉄・地下鉄などは広軌)

 開業後日本の鉄道は外国の鉄道技術経営方式を巧みに受容消化し、これに日本独自の鉄道技術、経営方式を開発付加しながら発展した。そして、人口密度が高く面積狭小で複雑な地形の国土に適合した、いわば日本式の鉄道システムを官民が連携して短期間につくりあげたのである。開業僅か30年後に国内に1万㌔余りの鉄道網を完成。それも国営と民営がほぼ同規模であったことはまさに国を挙げて近代鉄道の建設に取り組んだ成果であった。

 明治末年までに鉄道国有法により大都市圏の一部を除く幹線とその関連路線が国有化され、日本の鉄道は国営中心の時代を向かえ、国力増進の原動力として、一段と大きい役割を果たした。

 しかし戦後の経済変動期には経営に制約の多い国営のため経済情勢への対応に遅れをとった。そのため経済成長への過程で航空、自動車などの発達のなかでその使命を円滑に果たすべく鉄道事業は遂次、民営化され、国鉄もJRに分社近代企業として再出発するに至る。この間、世界最速の時速300㌔を指向する新幹線の開発に成功し、動力近代化も実現。車両にも新技術を結集、近代的高速鉄道システムに脱皮することができた。

 一方発展途上国の高速鉄道建設に協力を求められるケースも目立つ。新幹線の成功で日本も鉄道先進国として認知され、鉄道による国際協力の輪に加わることができた。

 そして、新幹線の技術と運営システムをかつての鉄道先進国アメリカなどへの輸出を検討するまでになった。JR東海でも工事中の「超電導リニア」も含め、近代鉄道技術を輸出し、世界の次世代高速鉄道建設に貢献すべく、社内に海外高速鉄道プロジェクトC&C事業室が発足するに至った。このような鉄道国際化の動きのなかで、開業150周年を迎えたことは誠に感慨深いものがある。

 

須田 寛

 

日本商工会議所 観光専門委員会 委員

 
須田 寬 氏