2022年9月14日(水) 配信
滋賀県には比叡山延暦寺、琵琶湖に浮かぶ竹生島の宝巌寺、今回取り上げる石山寺など、日本有数の美風景ともいうべき、自然と融合している寺院が多く、心の洗濯や目の保養に訪れたくなります。
また、「近江八景」という8つの名勝があります。「石山の秋月」「比良の暮雪」「粟津の晴嵐」「堅田の落雁」「唐崎の夜雨」「矢橋の帰帆」「瀬田の夕照」「三井の晩鐘」です。石山寺の境内には、「月見亭」があり、そこから見る月はとても心潤される美しさがあるそうです。
大津市にある石山寺は、1年を通じて季節の花々が絶えない「花の寺」としても知られています。桜の季節も素晴らしいですが、私は紅葉の彩りに満ちあふれているときが、極上の石山寺を味わえると感じました。艶やかで燃えるような赤やしっとりとした鈍い黄色や緑で、私たちを魅了してくれます。
紅葉の石山寺は、山門をくぐると浄土のような別世界が広がり、異次元空間に迷い込んだような夢心地になれるでしょう。どの季節に訪れても、梅や桜、ツツジ、牡丹などの花の寺ですから、心身ともに幸福感を与えてくれると思います。
その石山寺は、琵琶湖の南側近くにあり、東寺真言宗の大本山の寺院であり、山号は石光山、ご本尊は如意輪観音様、そして西国三十三ヶ所第13番札所でもあります。交通アクセスはJR京都駅からJR石山駅まで新快速で約13分であり、そこからバスで10分程度。
紫式部像(石山寺)
石山寺は平安時代から女流作家たちが、競うように石山詣をしていました。「源氏物語」の紫式部、「蜻蛉日記」の藤原道綱の母、「枕草子」の清少納言、「更級日記」の菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)、「和泉式部日記」の和泉式部などです。
紫式部は石山寺に参籠しているとき、8月15日の満月が琵琶湖に映えて、「源氏物語」のアイデアが浮かび、須磨・明石の巻を書いたといわれています。
都を離れて、女流作家たちは、この別世界のような美に満ちた石山寺を詣でることにより、インスピレーションを養うことができたのかもしれません。
話は変わりますが、開運スポット的にも、石山寺はとても氣の良い場所といわれていて、とくに境内中心部にある巨大な岩山の「珪灰石(けいかいせき)」です。人生を楽しむためのすべての運を活性化するパワーがあるとのこと。
その珪灰石の近くにある「蓮如堂」も、ぜひとも訪れてみてください。真言密教寺院に、浄土真宗の蓮如上人ゆかりのお堂なのですが、その蓮如上人と生母の哀しいお話が秘められているといいます。
蓮如堂(石山寺)
女性に大変人気のある蓮如上人は、法然・親鸞の念仏の教えを広く多くの人たちに伝えたといわれています。情的で人の心の中に、自然と上手に溶け込める力があったのでしょう。
さて、蓮如上人の母は正妻ではなかったため、幼い蓮如上人を残して、別れなければならなかったそうです。生き別れという苦しみを蓮如上人は、幼くして経験したのです。しかし、幼いときのこの哀しい経験こそ、その後の念仏の教えを多くの大衆の人たちの心に深く響かせるキッカケになったのかと思います。
蓮如堂には、蓮如上人の遺品として、6歳のときの御影と鹿子の小袖があります。そういったところから、蓮如上人の母は石山の人であり、蓮如上人の父が石山寺に詣でたときに出逢って、蓮如上人が生まれたともいわれています。また、蓮如上人の母は、石山観音の化身だったという話も残されているとのこと。蓮如上人の想いにも触れられる場所なのです。
石山寺のご本尊の如意輪観音様の大きく寛大な愛情に包まれながら、美しい風景で一息し、悩み多き現在の場所から離れて、聖なるひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。
■ 旅人・執筆 石井 亜由美
東洋大学国際観光学部講師、カラーセラピスト。精神性の高い観光研究部会メンバー。グリーフセラピー(悲しみのケア)や巡礼、色彩心理学などを研究。