2022年9月9日(金) 配信
福井県・越前町の「農家民宿 一棟貸しログハウス 冨ちゃんち」は、開業から1年が過ぎた昨年の夏、グローバルに展開するオンライン宿泊予約サイトに登録したことで稼働率が上昇し、新しい顧客を獲得している。薪ストーブやアクアリウム、ステレオ設備など、大人の憧れを凝縮させた築22年のログハウスがどのように周知されていったのか。本紙はこのほど、兼業農家でオーナーの冨田剛生氏に農家民宿での取り組みや考え方、今後の展望について聞いた。
□ホストとゲストのコミュニケーションの場、今後も出来る限りのサービスを提供したい
――運営施設の特色やアピールポイントなどをお聞かせください。
7人まで宿泊できる一棟貸しの農家民宿で、夏の時期はほとんどのお客様がバーベキュー(BBQ)セットの貸し出しを希望します。BBQは縁側で春から秋に掛けて提供しており、とくに夏は希望者が多く、午後4時半から5時までにチェックインするお客様はそのままBBQを楽しまれます。食事の提供は原則していませんが、農家民宿から歩いて行けるところにスーパーやドラッグストア、コンビニなどがあり、具材はそちらで調達してもらいます。食器はキッチンにある調理器具やお皿を使って頂けるようにしています。
冬になれば薪ストーブを貸し出しています。2階が吹き抜けになっており、薪ストーブ1つで家全体が暖かくなります。薪ストーブが初めてというお客様がほとんどで、部屋に置いている案内を見ながら利用されます。私は薪の販売もしているのですが、農家民宿の薪に関しては、いわゆる販売できない半端なものをストーブに使ってもらいます。そのため、お客様から薪の金額は頂いていません。このような出来る限りのサービスをしたいと考えています。
また、お客様との現地での接点は、チェックインとチェックアウトのとき、あとはリビングの魚に餌をやる早朝の3回だけになります。チェックアウトのときに感想を伺うのですが、そのときはどんな意見が返ってくるかドキドキしますね。私はお客様と話すのが好きですが、若い人と喋る機会も中々ないので、最近の若い人たちが皆さんしっかりしていると安心します。お客様とのコミュニケーション。この時間が今の楽しみでもあります。
売り上げのことはほとんど考えておらず、今のままで十分楽しいと感じています。家を提供するだけでこれだけのお金を頂けること自体が有難い。発火材やお皿はこちらで用意していますから、お客様は自分の食べたい物や飲みたい物を用意されるだけでいいですよと、事前に伝えます。おかげさまで今はリピーターが増えています。
――リピーターにとって、季節で体験できるものが変わるのも嬉しい。
福井県・敦賀湾の無人島「水島」には船でしか行けませんが、絶景が見られます。それを体験して欲しくて自前の船を活用し、今年7―8月は敦賀湾の海水浴とクルージング体験を計画しました。春と秋はバラが庭を彩り、夏はクルージング体験、冬は薪ストーブを楽しめ、4―11月まではBBQが味わえます。
今年の春休みはとくに忙しかったですね。今まで予約は週1件程度でしたが、春休みは平日から入りました。しかし、4月になると暇になり、5月の連休になるとお客様が増えるなど波がある。6月は落ち着き、7月になると盛り返す。8月は半分以上が埋まっている状態でした。
――農家民宿を始めたきっかけは。
きっかけは母親が認知症を患い、どうしても実家に戻り同居しなければならず、住み慣れた自宅(現在の農家民宿)を手放す判断を迫られたからです。しかし、今まで住んでいたログハウスを人に貸せない理由もありました。私の妻は庭で趣味のバラを育てていて、人に貸すということは建物だけではなく、その庭も貸し出さなければいけない。県に空き家対策を相談していくうちに、農家民宿の話を頂いたのが始まりです。
ログハウスなので通常の民宿や旅館は出来ず、料理も出せませんが、農家民宿であればそれらの問題も解消できる。振り返るとこの申し出が良かったなと思います。
――宿泊客の年齢層は。
20代から30代初めの人がほとんどです。若い人のグループ利用が多く、年配者は家族利用で、BBQをはじめ、広い庭でゆっくりと過ごされているようです。
夏は畑でスイカやトウモロコシ、ピーマン、なすびが採れるので、お客様にプレゼントしています。家庭菜園の延長みたいなものなので、採れた野菜をスーパーで販売するようなことはしていません。それならばお客様に提供し、BBQの食費を少しでも安くしてもらい、そして、また来てくれたら嬉しいなという気持ちです。
――本当に出来る限りのサービスを提供しているのですね。
商売目的で建てた建物ではなく、子供が出来たので田舎に戻り、自分の好きなように家を設計させてくれと妻に頼んで建てた家ですから。
当初は丸太のログハウスを考えており、それを手掛ける設計士が鳥取県にいると知り、相談に行ったこともありました。そうしていくうちに、丸太は部屋が狭く見えて埃が多く、角材の方が良いと教えてもらい、福井県でその建築をやっているところを探してそこに全部任せて建てました。
そして、今から2年程前に農家民宿を始めました。恥ずかしい話ですが初めはまったくお客様が入りませんでした。ホームページも作りましたが効果が無く、当時は不安に襲われました。農家民宿の宣伝方法がまったくわからなかったのです。
□リピーター増加につながる転換期迎える
――そして昨年夏、転換期を迎えた訳ですね。
きっかけは昨年8月、宿泊予約サイトのAirbnb(エアビーアンドビー)さんからの「掲載させてもらえないですか」というお電話でした。私はほとんど素人ですのでどのような会社か知らず、ホームページを見たらしっかりしているところだなと思い、「いいですよ」と軽い気持ちで返事をしました。
以前、他のOTA(オンライン旅行会社)に掲載した際は全然反響がなく、ほとんど宿泊につながりませんでした。最初はほかのOTAと同様、あまり期待していなかったのです。
ですが、ひと月で宿情報がAirbnbのサイト上に公開され、まもなくお客様が入り始めました。登録時の初期設定も簡単で、運用に関しても難しく感じることはなかったです。
それから本当にビックリするくらいお客様が増加しました。Airbnbさんに頭が上がらないというくらい予想外の出来事に驚くばかりでした。本当に嬉しく、お客様をなるべく選ばず、出来る限りのサービスで対応したいという気持ちが高まりました。最初の電話が私にとって本当に転機でしたね。今まで自分がどんなに努力しても、私の農家民宿を周知できなかったのですから。
――他の旅行予約サイトと異なるメリットなどはいかがでしょうか。
大きなメリットは、他のOTAでは通常ひと月後の月末払いのところ、直ぐに入金されるという点です。それと掲載手数料がお得なほか、お客様の支払金額と私どもの受取金額をしっかりと提示してくれるのが非常に有難いです。お客様がいくらで宿泊されているのかを知ることでオーナー側も安心でき、金額相応のことをしなければならないという気持ちが生まれます。
それとオンラインのクレジッドカードでの決済システム利用により、領収書が要らないのも有難い。当日支払いはお客様が急にいなくなったらと、やはりお金をもらうまで不安が生まれてしまう。そういう面では、領収書が一切要らないことは精神的にものすごく楽に感じます。
――実際に宿泊されたお客様はどうでしたか。
お客様は本当にゴミや缶を分別して帰られるので、いつも感心します。
越前海岸が近いため旅館や民宿が周囲にたくさんあるのですが、その人たちに聞くと宿泊後、畳が傷んでしまったり、缶の飲みっぱなしがそのままだったりと、酷いお客様も結構いると聞いていました。覚悟はしていたのですが、涙が出るのではと思うくらい綺麗にして帰られます。
今年が2回目の宿泊というお客様も増えてきていますね。昨年の冬に宿泊された人たちが、今年の夏も宿泊に来ましたと声を掛けて頂きました。
この前は3連泊された家族連れのお客様がいまして、どこに行かれるのかを聞いたら予定がないと言うのです。話を聞くと、コロナ禍で実家に帰れないため、このような宿を借りて家族でゆっくりと過ごされているそうです。そんな需要があるのかと印象的でした。
――Airbnbのお客様から高い評価を頂いていますね。
非常に有難いことですが、正直私がやっていることは普通の農家民宿のおじちゃん、おばちゃんの対応と変わらないと思います。来て頂いたお客様が喜ばれればそれで良いなという感覚です。
また、建物を貸すというカタチが基本で、目立ったサービスは提供していません。チェックアウトは午前10時としていますが、次の予約が入っていなければお昼過ぎまで居ても構わないなど、柔軟に対応する方針です。
それに1人当たりの金額も安いと思いますが、妻と相談し、値段を高くしてお客様が減るなら現状で良いのではないかと決めました。私たち2人が片手間でやっている状況なうえ、食事を出していないので、キャンセルされても減るのは売り上げだけです。それならば、お客様に来てもらう回数が多い方が良いということです。
家族連れは子供の大きな声を気にせず過ごせ、グループでは薪ストーブの火を2人でおこしてすごく良かったという意見がありました。冬は雪が降っても肌着で居られる程暖かく過ごせると喜んで頂き、楽しませて頂きましたという声を頂きました。それだけでも嬉しいなと思います。
――ありがとうございました。
□「Airbnb(エアビーアンドビー)」概要
□「農家民宿 一棟貸しログハウス 冨ちゃんち」概要