2022年9月3日(土) 配信
どの都市も、中世から近世城下町への変遷、近代以降の都市再編などを通じて、都市の姿は大きく変化した。これは歴史都市と言われる多くの都市でも例外ではない。自然地形や城郭、堀、大きな寺社領地などの一部を残して、往時の姿のほとんどが失われているケースも少なくない。
しかし、私たちは京都や奈良などの古都、古い城下町などを訪ねると、必ず往時の都市の姿を想像する。いま居る地点が、かつてどのような場所であったのか、いま歩いている道はかつてどんな場所であったのか。これが分かると、歴史都市の興味はさらに深くなる。
こんな楽しみを再現したいと、再生古地図を用いて歴史都市のまち歩き観光をサポートする取り組みが始まった。
その一つ、奈良市の元興寺とその跡地に広がる「ならまち」での取り組みを見せていただいた。奈良市と奈良市観光協会が昨年から準備してきたが、本年度の観光庁「看板商品創出事業」の補助を得て実施している事業である。
元興寺(世界遺産)は、蘇我馬子が飛鳥に建立した日本最古の本格的仏教寺院・法興寺(飛鳥寺)が、710年の平城京遷都に伴って移転した寺院である。奈良時代には近隣の東大寺、興福寺と並ぶ大寺院であったが、中世以降衰退した。南北500メートル、東西250メートルと言われる広大な寺域の大部分が、今日の「ならまち」である。
今回の事業では、モバイル版「再生古地図」によるまち歩き、社寺の夜間拝観や修学旅行生向けの「クエスト型まち歩き」のプログラム開発などが狙いである。クエスト型とは、地図を片手に、テーマに沿ってまちなかを探索するのだが、既に地元の奈良女子大学付属高校の生徒による実証実験も進められている。因みに本事業にはJR西日本や日本旅行なども参画し、教育旅行を中心とした商品開発も行われる。
事業の鍵を握るのが「再生古地図」である。今回の事業では、GPS対応のイラストマップ表示アプリ(ambula map)を開発したコギト(京都)と地理情報の調査・編集などを手掛ける地理情報開発(東京)がサポートする。
近代測量が始まった明治以降の地形図と異なり、古地図は簡単には入手できない。だから現実には、それぞれの地域が所有する古地図・史料類のうち、最も状態のいい時代が対象となる。そのうえで、手書きの古地図上の距離・面積・方角を正しく再現してデジタル化し、当時の文字が判読できるようにすることが基本となる。デジタル化することによって現代の地形図・グーグルマップなどと連動させることで、活用の幅を広げることができる。
VRやARなどとともに、再生古地図によるまち歩き観光は、これからのトレンドとなろう。国内外の歴史都市でのトライアルが楽しみである。
(日本観光振興協会総合研究所顧問 丁野 朗)