2022年8月6日(土) 配信
参議院選挙で応援演説を行っていた安倍晋三元首相が暗殺された。政治テロではなく、宗教団体に絡む不可解な暗殺であり、栄光の政治家人生を歩んだ安倍元首相にとっては残念な最後であった。
自民党は参院選で単独で改選過半数の議席を確保して大勝した。しかも与党やその他の改憲勢力は非改選と合わせて国会発議に必要な総議員の3分の2を確保。安倍氏が最もこだわり続けた政治課題は改憲問題だったので、自民党内では安倍氏の遺志を尊重して改憲論議に踏み込むべしという意見がでている。
岸田首相は安倍元首相という微妙な関係の先輩が亡くなり、向こう3年間に亘って国政選挙が無いため、いわゆる「黄金の3年間」を享受して思い通りの政治を遂行できるという予測がなされている。一方、日本は数多くの内憂外患を抱えているので、現実にはむしろ「呻吟の3年間」になるだろうと予測する識者もいる。呻吟とは「苦しみうめく」という意味である。
外患では日本を含む西側諸国はロシアに経済制裁を課しているが、その結果として日本ではエネルギーや穀物輸入危機が生じ、国民は諸物価高騰で苦しんでいる。日本外交は従米一本槍であるが、今後は中国やロシアとの関係改善に苦労を重ねることになる。
内憂ではさまざまな課題を抱えているが、とくにこの30年間の内に先進国で最下位層に落ち込んだ日本人の給料をいかに引き上げるかが重要だ。OECD(経済協力開発機構)のデータでは、1990年に日本人の平均年収は406万円、米国517万円、韓国240万円だった。2020年には日本は424万円、米国763万円、韓国462万円。ほかの先進諸国では順調に年収が増加したが、日本は30年前と同水準だ。
岸田首相は「新しい資本主義」というスローガンを掲げて政権を発足させ、当初は分配に力点を置いていたが、やがて分配のためには成長が必要と軌道修正を行い、ダッチロールを繰り返している。そのうえに岸田首相は財務省との連携を重んじており、消費税増税もあり得る。また岸田政権は旅行・観光産業を重んじていないので、業界の苦境の継続が予想されている。要するに国民や旅行・観光産業にとっては苦しみうめく「呻吟の3年間」になりそうだ。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。