2022年7月15日(金) 配信
2008(平成20)年4月、文化財保護担当から観光担当へと思いがけず異動となった。「保護ばかりでなく活用を前提に考え仕事せよ」とのお達しがあってのことである。新たに命じられたのは、この年休止となった小坂鉄道の観光活用方策の立案であった。
秋田県北東端に位置し十和田湖を有する小坂町は、小坂鉱山が残した近代化遺産を観光資源として保存活用している町である。
小坂鉱山は明治末期に鉱産額日本一の銅山へと発展。鉱山町としてにぎわう小坂と、奥羽線大館駅を結ぶ物流と交通の要として、1909(明治42)年5月に開業したのが小坂鉄道であった。しかし、100周年を迎えた09年4月に廃止となる。新たな金属リサイクル製錬施設の完成で、主要貨物である濃硫酸の製造を終了したことがその理由であった。
一方で1994年の旅客廃止直後に、小坂鉄道の応援を目的に結成された「鉄道の日イベント実行委員会」の鉄道愛好家たちは、鉄道休止後も復活の日を夢見て活動を継続していた。私もその1人だったが、仲間との共同で旧小坂駅舎や軌道敷、保存車両の観光活用方策について企画を練り上げた。
その計画に基づき所有者や関係者と協議を重ね、ついには秋田県や国の支援を受けられることが決まる。日本鉄道保存協会の米山淳一氏にはアドバイザーに就任いただき、指導を仰ぐこともできた。
2014年6月1日、「〝レール遊びの複合施設〟小坂鉄道レールパーク」がグランドオープンの日を迎える。翌年には寝台客車を動態保存した簡易宿泊施設「ブルートレインあけぼの」も開業した。ディーゼル機関車運転体験など体験事業の企画・運営を担うのは、イベント実行委員会のメンバーに新たな仲間を加えて結成した「小坂鉄道保存会」だ。制服姿もりりしく〝魅せ鉄〟による車内放送も得意としている。
レールパークは、保存会によるオモテナシ、国登録文化財の駅舎、動態保存車両や鉄道システムを活用した体験事業によって人気を集めてきた。ところが新型コロナの感染拡大によって、体験事業や宿泊営業は休止され、保存会は活動自粛を余儀なくされたのである。 その間、保存鉄道の宿命である老朽化した車両の不具合や枕木の腐蝕が見られるようになって、その対策も急務となっている。
そして今、アフターコロナに向けた新たな取り組みも必要となった。大館までの軌道はほぼ全線で残され、「小坂鉄道・大館レールバイク」など廃線を活用した観光スポットも充実してきた。大館市との連携で、小坂鉄道の遺産を守り、その魅力をどのように発信するのか、町や保存会の力量が問われている。