2022年7月1日(金) 配信
旅行新聞新社(石井貞德社長)は6月2~3日の2日間、愛知県名古屋市のエクセルイン名古屋熱田(苅谷治輝社長)で、第4回旅館経営教室現地セミナー&見学会を開いた。後援はサービス産業革新推進機構(内藤耕代表理事)。1日目は「危機に強い宿泊業の経営」をテーマに、同ホテルの苅谷社長がコスト分析により外部契約の見直しや、清掃業務の改革の経緯などを説明。2日目は内藤氏の解説とともに館内見学会を実施し、生産性の高い業務プロセスを探った。
□チェック不要の業務プロセスへ
主催者あいさつで旅行新聞新社の石井社長は、「コロナ禍で旅館経営教室セミナーも延期や中止となったが、ようやく開催できた。リモートセミナーなども実施されているが、実際に現場を見ながら学び合えることの重要さを改めて感じた」と語り、苅谷社長へ謝意を述べた。
苅谷社長は父親からホテルを継承した2014年からの8年間を振り返りながら、PL(損益計算書)だけでなく、BS(貸借対照表)を毎月確認することの重要性を語った。
「銀行など金融機関は『会社にどれだけ体力があるか』を、BSの自己資本(純資産)で判断する。PLの売上高や利益、費用をしっかりと見て、積み上げた利益を自己資本として増やすことで、コロナ禍のような危機で資金的な相談もしやすくなる」とした。
さらに毎月の実現金の動きとして、「経常利益+減価償却費が借入返済額(ローン)の3倍あれば税金で3分の1を持っていかれても安心」と述べ、一定の目安を設定していると話した。
苅谷社長は財務分析の中で、売上とコストの両方あるが、「コスト面は比較的経営者が手を入れやすい」として、販管費を費用項目別に「固定費」と「変動費」に分け、調整しやすさを〇△×で整理した。
修繕費などは「自社で修繕するものを増やす」など改革していった。この過程で、口頭や内線電話によるアナログなやり取りでは、頻繁に伝達ミスが発生した。在庫不足やクレームの増加に加え、過去の修繕履歴が参照できないため修繕コストが増大した。この問題を解決しようと、宿泊施設の設備・備品管理アプリ「HoteKan」を開発し、「生産性向上に大きく前進した」と報告すると、受講者からも高い関心が寄せられた。
契約していた外部業者の契約は厳しく見直すことで、大幅なコスト削減に努めた。外注費として計上していた客室・共用清掃についても、自ら清掃会社を設立するなどして30%の削減を実現した。
内藤氏は苅谷社長の講演を受け、「個別の削減について参考になる部分がとても大きい」と高く評価。そのうえで「全体のオペレーションの中でコスト削減していくことが大事。固定費である光熱費も結局、ムダをなくしていく人やオペレーションにひもづく」と強調した。
「例えば、作り置きや冷凍食品を減らし、出来立て料理を出すことによって、冷蔵・冷凍庫が不要になる。冷凍庫がなくなれば食材を解凍するために水を流し続けることがなくなる。このように考えていくと、現場で料理の品質向上への取り組みが水道光熱費を削減していくことにつながっていく」と説明。「本質を見定めた改革をしていかないと結果的に小手先だけになってしまい、今回のようなコロナ禍やエネルギーコストの上昇など外的な要因に振り回されてしまう」と述べた。
さらに「現場を見るなかで、清掃と食器洗浄にとても関心を持っている。この中でチェックをしなくていい業務プロセスをいかに作るかで、大きなコスト削減につなげることができる。清掃と食器洗浄はどんなにがんばっても売上を作らない部分。しかし、ここを改善して安定させれば売上を作る表にスタッフを注力できるようになっていく。経営者はもっと現場に入っていくべき」と語った。
2日目は、客室や清掃詰所などを見学。可能な限り清掃負担を軽減するために、床にゴミ箱やスリッパを置かない工夫や、できるだけ清掃道具を少なくするにはどうすればいいかなど内藤氏とともに探った。
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受講者のコメントを一部紹介する。
「新しい視点で旅館について考えることができた。同じ悩みを他の旅館も抱えていることが分かった。オペレーションの改善やホスピタリティの見直しに生かしたい」(いぶすき秀水園・湯通堂洋副総支配人)
「業務プロセスの重要性を認識した。シフトと業務内容を改善していきたい」(栄楽館・菅野豊晴専務)
「清掃について悩んでおり、具体的なところまで学べたのが収穫。清掃の一部外注、内製化や清掃道具・備品倉庫のチェックを始めたい」(湯元舘・上田文雄取締役)
「経費を項目別に〇△×で再チェックし、業務内容を再度棚卸しする必要性を感じた。パントリー内の整理整頓などにも自ら取り組んでいく」(松島一の坊・畠山光夫ゼネラルマネージャー)