2024年9月6日(金) 配信
親湯温泉(柳澤幸輝社長、長野県茅野市)は今年7月、蓼科親湯温泉で4回目となる「旅のユニバーサルデザインアドバイザー」資格の教習を受講した。車いすや白内障体験などの学びによって社員のさらなるサービスの向上を目指している。今年4月には改正障害者差別解消法が施行。「建設的な対話」や「合理的な配慮の提供」などには現場の理解は不可欠。同資格を認定するケアフィット推進機構代表理事の冨樫正義氏と、親湯温泉支配人の渡邉裕之氏が語り合った。
【聞き手=増田 剛】
□可能な「代替案」を提案する ―― 冨樫氏
□未来を見据えた社員教育を ―― 渡邉氏
――親湯温泉についてご紹介ください。
渡邉: 蓼科親湯温泉の開湯は1601年と、400年余り前で「信玄の隠し湯」として伝えられています。江戸から明治にかけては湯治場としての歴史もありましたが、宿としての創業は1926(大正15)年で、2年後に100周年を迎えます。現在の経営者は4代目となります。この蓼科親湯温泉は合資会社親湯温泉の本社であり、現在52室です。
東日本大震災が発生した翌月の2011年4月に、諏訪湖畔に「上諏訪温泉しんゆ」(39室)を開業。16年6月に、隣接する場所に全8室の「萃sui―諏訪湖」という小規模高単価の宿を新設し、現在3店舗の宿を経営しています。
――「旅のユニバーサルデザインアドバイザー」資格とは。
冨樫: 旅を手段として共生社会を創造することを目的としています。
公式テキストを使って自宅で学び、所定の会場で座学・実技教習と検定試験を1日完結で受講していただきます。旅行会社や旅館、交通系の企業など旅に関わるすべての方に学んでほしい内容を網羅しており、ケアフィット推進機構が認定をしています。
コロナ禍の2020年8月に講座がスタートしました。旅行会社を目指す学生などが就職活動に向けて資格を取得されるケースも多く、さらに今年4月には改正障害者差別解消法が施行し、合理的配慮が義務化されたことで、改めて「資格を学びたい」という問い合わせが増えてきています。
観光庁が創設した「観光施設における心のバリアフリー認定制度」の研修にもつながることもあり、さまざまな業種から現在500人以上の方が資格を取得して、それぞれの現場で活躍されています。
――「すべての人に旅の安心と楽しさを」という宿の方針はいつごろから始まったのですか。
渡邉: 7~8年前に、人口減少時代を見据え、「3世代旅行」を一つのキーワードとしてプランを作りました。しかしながら残念なことに、高齢のお客様の体が思うように動かなくて、「自分たちは留守番をしているよ」という声をいただくことも多くありました。
これに合わせて時代的にはやや早過ぎましたが、蓼科親湯温泉にユニバーサルデザイン(UD)ルームを2部屋設置したのが始まりです。今は「コンフォートスイート」などの名称で人気の客室となっています。
また、お布団やベッドからの立ち上がりが困難なお客様には「たっちアップ」という用具を備えたり、手すりやスロープを設置したり、UDへの取り組みを進めています。ハード面の整備に加え、さらにソフト面のサービス向上へ「社員の学びとなるものはないか」と探していたところ、「旅のユニバーサルデザインアドバイザー」資格に行き当たりました。
毎年1回、蓼科親湯温泉で資格取得教習を実施しており、今年7月で4回目となりました。フロントや飲食部門だけではなく、清掃や駐車場、ドライバーなどのスタッフも受講しています。
観光庁の……