2022年6月26日(日) 配信
コロナ禍で自粛させられていた観光も少しずつ復活してきたが、依然再蔓延の危険が指摘され、復活の勢いは今一の感がある。
コロナ警戒態勢下の「観光」として「密」を回避できる観光が望ましいが、それには比較的少人数ずつで観光することができる工場や工房の見学体験などを中心とする「産業観光」が、ふさわしいように思う。愛知万国博を機に「産業観光」が提唱されて20年余りが経過し、工場見学が、かなりの箇所で進められてきた。
しかし、工場見学はそれまで企業のPRないし、地域社会への説明責任などという目的から進められてきた経緯があった。
このため、無料での公開がほとんどであった。従って、見学者が増えてくると案内者(安全上工場見学はその都度、人数を限定して案内者をつける必要がある)の人件費、見学客への資料作成費などの出費が増えたことで、見学を制限したり、中止せざるを得ないなど、持続性に難点が生じるケースも増加してきた。
そこで、地域全体としては観光(見学)客から経済効果を得ている(宿泊費、会費、土産購入など)ので収益を地域でプールして、工場側にも配分できるように実行委員会などで工夫するところが出てきた。最近、三重県の自動車部品メーカーが、都市近郊に近代的大工場(設備の近代化のほか従業員の勤務環境や、その名も先進工場見学者の動線確保などにも留意)を建設した。
そして、それを機に工場への見学客をより積極的に受け入れている。しかも工場内に「人材育成部」なる組織を立ち上げた。即ち見学(観光)客を対象に、その工場の詳細はもとより、社会経済的な役割についての講習会(外国人や学生、新社会人のための特別講座も)を開くなど学習観光のニーズに応えるプログラムを用意した。そして、この講座受講料込みの工場見学料を設定して、見学者を迎えた。
将来産業人を目指そうとしている人、新鋭近代工場を見学したい人、深く地域の「光」を味わいたい人などの来場が増え、資金循環が成立した。珍しい産業学習観光として、外国からの産業観光客も増えたと聞いている。
そこでは、情報に対価を得ることによって、より価値のある情報を提供する好循環を含む資金循環(ビジネスモデル)を、実現することができた。
ビジネスモデルが構築しにくいとされた「産業観光」が、学習という付加価値を付することによって、地域にとって収益性のある観光にまで、発展し得ることを実証している。
このように、情報は対価を要するものという慣行を定着させれば、「産業観光」はさらに持続性の高い観光に発展・普及できるのではないだろうか。
コロナ禍後の観光復活をそのための動機として、さまざまな観光ビジネスモデルを開発できればと思う。
日本商工会議所 観光専門委員会 委員