ANTA、国内観光活性化フォーラム開く 3年ぶり900人集い、10万人送客CPも決定

2022年6月7日(水) 配信

約900人が集まった会場のようす

 全国旅行業協会(ANTA、二階俊博会長)は5月31日(火)、山梨県甲府市で第16回国内観光活性化フォーラムを開いた。全国47都道府県から約900人が集合。コロナ禍からの国内観光の復活や地域観光の活性化に向けて、10万人規模の送客キャンペーンの実施を決定し、会員の結束を強めた。コロナ禍で、同フォーラムは2度延期し、3年ぶりに開催となり、二階会長は「(観光業は)ほかの業界より、とりわけ厳しいが、我われが元気を出さないと人が集まらない」と会員を鼓舞した。

二階俊博会長

 同フォーラムは感染防止対策のため、開催2日前と当日の体温を記入した健康チェックシートの提出を求め、座席は1席ずつ間隔を空けた。

 二階会長は冒頭、コロナ禍について「旅行業界が乗り越えていくために全力で取り組んでいきたい」と決意を表した。

 全国で観光による地域振興が盛んになっていることにも触れ、「ANTA会員が地域と連携することで、あらゆる産品や資源の魅力が2~3倍になる」と語った。

 開催地である山梨県については、「長崎知事を中心に観光振興に熱心に取り組んでいる。一緒に観光を通じて頑張っていこう」と一層の送客を呼び掛けた。世界情勢が不安定化しているため、「観光は平和に通じる産業だ。さらなる、平和のためにも全力を尽くしたい」と抱負を述べた。

 観光庁の高橋泰史参事官は基調講演「これからの政策について」に登壇。2016~19年の外国人観光客による観光消費額が輸出区分で、自動車に次ぐ2位だったことを振り返った。

高橋泰史参事官

 現在の状況については「日本は複数のアンケートで次に観光したい国として選ばれている」と話した。これらを踏まえ、アフターコロナで日本を支える産業への支援として、「県民割や宿泊事業者へ廃屋撤去に対する補助金などを創設した」と語った。

  記念講演に登壇した山梨県の長崎幸太郎知事は、感染者数が今年のゴールデンウイーク以降、減少傾向にあることから、「(コロナ禍は)終わりつつある。このため、秋には世界最大の武者行列『信玄公祭り』を過去最大規模で3年ぶりに行いたい」と観光振興により注力する姿勢を示した。

長崎幸太郎知事

 さらに、新たな魅力として、富士山や南アルプスなど地域で異なる水質を生かした日本酒などをアピールしていく。

 長崎知事は富士山やモモなどの観光資源も有していることを話し、「自分なりの楽しみや感動に出会える多様性を実現していく」と力を込めた。

 樋口雄一甲府市長は「昇仙峡が20年、日本遺産に認定されたほか、武田信玄公が昨年、生誕500年を迎えるなど好機を迎えた」とアピール。景勝地や産品も堪能したうえで、「魅力を伝えてほしい」と求めた。

樋口雄一甲府市長

 会場では同県内の自治体がブースを出展した。

地元自治体展示ブース

 熊本県送客キャンペーンはコロナ禍で、延べ3万6921人と10万人の目標は未達となった。最優秀会員は南国交通観光(鹿児島県鹿児島市)。優秀会員は極東航空開発(福岡県福岡市)で、準優秀会員は長崎県営バス観光(長崎県長崎市)だった。

 今年度は6月1日から23年1月末まで、山梨県への送客CPを展開。目標は10万人とした。

次回は23年3月 山形県山形市で

 次の国内観光活性化フォーラムの開催地は、23年3月に、山形県山形市を予定している。

 引き継ぎ式では関東地方支部長連絡会の村山吉三郎議長から、東北地方支部連絡会の大久光昭議長に大会旗が渡された。

大会旗が村山吉三郎議長(左)から大久光昭議長に手渡された

JALなど、観光列車「あめつち」貸切 倉敷・出雲を巡る旅へ

2022年6月6日(月)配信

観光列車「あめつち」走行シーン(イメージ)

 日本航空(JAL、赤坂祐二社長)と西日本旅客鉄道(JR西日本、長谷川一明会長)、ジャルパック(平井登社長)はこのほど、新型コロナウイルス感染症拡大により減少した移動需要の回復を目的に、「山陰色豊かな観光列車『あめつち』貸切乗車と倉敷・出雲を巡る2・3日間」を売り出した。

 JR西日本の観光列車「あめつち」を丸ごと貸切し、7月の連休に山陰・山陽エリアを巡る 2・3日間のツアーを用意した。応募期間は6月12日(日)まで。申し込みはジャルパックホームページ内の詳細ページから。

 初日は、羽田空港から岡山へ飛び、倉敷美観地区を観光。宿泊は世界的にもトップクラスのラドン含有量を誇る三朝温泉とする。翌日は「あめつち」に乗車し、車窓からの大山や雄大な日本海など、山陰ならではの美しい景色を堪能できる。また、「あめつち」にはJALふるさと応援隊として活躍する客室乗務員も同乗し、旅を盛り上げる。出雲大社観光の案内役も務め、JALならではの旅を楽しめる。

 3日間コースではさらに、美しい庭園を持つ足立美術館への案内や、美肌の湯として名高い玉造温泉の老舗温泉旅館での宿泊も用意している。

 出発日は7月17日(日)。羽田空港発の2日間と3日間コースのほか、現地発着プランも用意する。料金は1室2人利用の場合1人につき、2日間コース11万8000円、3日間コース13万1000円。

KNT-CTパートナーズ会、堀氏が会長を続投 旅を通して地域活性化へ

2022年6月6日(月)配信

KNT-CTパートナーズ会の堀泰則会長

 KNT-CTパートナーズ会(堀泰則会長、3547会員)は6月2日(木)、東京都港区のシェラトン都ホテル東京で通常総会を開いた。2024年度までの続投が決定した堀会長は「ウィズコロナ・アフターコロナのなかで、我われは新しい旅を模索しながら、旅の新しいニュースタイルを築いていかなければならない。『共生・共創』をテーマに掲げ、KNT-CTホールディングスとともに事業を通して共生していく。そして旅を通して地域を創生し、共創していく」と力を込めた。

 21年度のKNT-CTホールディングスは、構造改革により21年10月に新生「近畿日本ツーリスト株式会社」を発足。クラブツーリズムが月額定額制サービスのクラブツーリズムパスを含め、新しい事業展開を進めた。堀会長は「一緒に旅の安心安全をしっかりと担保し、地域共創をテーマに旅を通して地域を活性化させていくことが肝心」と考えを述べた。

KNT-CTホールディングスの米田昭正社長

 KNT-CTホールディングスの米田昭正社長は「新時代の旅行業が、地方創生になることはまず間違いない」と強調した。地域共創事業を拡大していくと伝え、クラブツーリズムでは、クラブツーリズムパス「地域大好きクラブ」などを展開。KNT-CTホールディングスでは、独自の地域に根付いた着型旅行の拡充を目指し、ナイトタイムエコノミーの活性化を進めると明かした。

近畿日本ツーリストの髙浦雅彦社長

 近畿日本ツーリストの髙浦雅彦社長は「一年を通じて、本業で十分な送客ができなったことを、今年度の目標に変えてスタートさせた」と会員に向けて報告。「22年度は本業で送客を全うするとともに、公務系の受託事業や地域開催のスポーツ事業にも経営資源を集中し、継続黒字化をはかる」と方針を伝えた。

近畿日本ツーリストコーポレートビジネスの髙川雄二社長

 近畿日本ツーリストコーポレートビジネスの髙川雄二社長は、22年度について「企業や団体へのMICE事業、中央省庁のBPO事業、スポーツ事業に力を入れていきたい」と話す。同時に、再開に向けて準備を進めている訪日事業も力を入れていく考えを示した。

クラブツーリズムの酒井博社長

 クラブツーリズムの酒井博社長は、22年度の国内旅行の売上高を「コロナ禍前の18年度の実績に戻すことが最大の目標。質もさることながら、徹底的な量の追求でパートナーズ会の役に立てれば」と考えを述べた。さらに「22年をSDGs元年と位置付け、具体的な取り組む内容とKPI(重要業績評価指標)を策定し、社会課題への解決に貢献していく」と宣言した。

 なお、23年度の通常総会は、来年5月30日(火)に東京都港区のシェラトン都ホテル東京での開催を予定していると発表した。

白糸の滝など2社が特別清算(山形県鶴岡市) 負債は2社合計で約7億7700万円(帝国データバンク調べ)

2022年6月6日(月) 配信

 ドライブインや飲食店を経営する「白糸の滝」(山形県鶴岡市)と、関係会社の「丸甚商事」(同所)は5月18日(水)、山形地裁鶴岡支部から特別清算開始命令を受けた。帝国データバンクによると、負債は2社合計で約7億7700万円。

 白糸の滝は1977(昭和52)年10月に創業、80(昭和55)年12月に法人改組。鶴岡市(旧・朝日村)の国道112号沿いでドライブインを経営するほか、山形市内で中華レストラン、地元ゴルフ場、観光施設内でレストランや土産物店の経営も行い、99年2月期には年間売上高約10億2000万円を計上していた。

 しかし、山形自動車道の整備により、国道112号の交通量が減少し、主力のドライブインの集客が低迷。2017年12月期(02年決算期変更)の年間売上高は約2億7500万円に落ち込み、赤字経営を余儀なくされていた。このため、事業再生スキームが策定され、18年10月に新会社「白糸の滝」(山形市)を設立。19年2月1日に会社分割により新会社へ事業を譲渡し、旧会社は21年12月31日に開いた株主総会の決議により解散していた。

 丸甚商事は1966(昭和41)年創業、翌67年5月法人改組。ドライブインと食堂を経営し、01円3月期には年間売上高約8億5800万円を計上していたが、東日本大震災などの影響で17年12月期の年間売上高は約3億2000万円に減少。白糸の滝と同様の措置となった。

 負債は17年12月期末時点で白糸の滝が約4億2800万円、丸甚商事が約3億4900万円、2社合計で約7億7700万円だが、「その後変動している可能性がある」(帝国データバンク)という。

 なお、2社が経営していたドライブイン、飲食店などは新会社のもと、通常通り営業している。

「花と秋田犬と歴史」に触れる約4㌔のウォーキング 6月18日 大館市でONSEN・ガストロノミーウォーキング

2022年6月6日(月)配信

ローズガーデン(外観)

 おおだて歩き実行委員会(秋田県大館市)は6月18日(土)、「ONSEN・ガストロノミーウォーキング in 秋田犬の里おおだて」を開催する。

 5回目となる今回は、人気の「廃線コース」と「峠道コース」から「市内散策コース」に一新。「花と秋田犬と歴史」に触れる約4㌔のウォーキングを企画した。

バラソフト

 1種1本を基本としたサンプルガーデンとして約500種類のさまざまなバラが植栽されている「石田ローズガーデン」や、ローズガーデン内にある旧住宅を改装し今年4月にオープンした「石田ローズカフェ」、国の登録有形文化財「桜櫓館」、「秋田犬会館」など、さまざまな見どころを結ぶ。

 各ガストロノミーポイントでは、地元名菓や地酒、カフェスイーツ、旬の食材を使った料理など、バラエティーに富んだ大館市ならではの食を用意。ゴール後には無料入浴券を使い「大館東台温泉 東の湯」で1日の疲れを癒せる。

大館東台温泉 東の湯

 参加料金は大人・小人(小学生以上)ともに3000円、定員は100人。

「街のデッサン(254)」 ボブ・ディランは旅を続け、歌う、不条理と混迷の時に想うことは

2022年6月5日(日) 配信

若かりしボブ・ディランが歌う(1963年)

 科学技術が発達し、ITが人間の知能を超える未踏社会が到来している。それでも、宇宙とは何かを明らかにしたのはアインシュタインという超天才の頭脳であるし、生命はどう育まれてきたのか、どうして人間という種が生まれてきたのか、これもまたダーウィンの「種の起源」を起点とした叡智が明らかにしてきた。人類が直立歩行を獲得し脳ミソを増やし、他の星に在るかもしれない文明を凌駕していると想起できるのに、いま地球上の現実社会を見てみると不合理で不条理な事態に満ちている。

 他国の領土に理不尽に踏み込んで、演習にやってきたと思っていた兵士たちが何の理由も罪もない市民を砲撃しているのだ。いわれなき、大儀なき戦争が、その国の独裁者によって何の呵責もなく遂行されている。高度に組み上げられた叡智の中身はまさにスッカラカンで、良心も正義も善も、哲学も虚空である。

 私はかつて口ずさんでいた歌をいま再び何気なく歌っている。私が若かった時代にも戦争が行われていた。地球上の多くの人類、民族が平和を心の真底から願っていた時代だ。

 その歌とは、ボブ・ディランの「風に吹かれて」である。ボブ・ディランは別にゴリゴリの反戦家ではなかった。その時代に生きる人間として息苦しかったのだろうと思う。フォーク歌手としてスタートし、カントリー・ソングやロックに影響されながら、ごく普通の人間としての信条を歌い続けてきた。だから流行歌手でもない。

 私には、ボブ・ディランが「吟遊歌人」に思える。そうでなければノーベル賞など貰えなかっただろう。無論、貰う必要もなかったはずだ。日常的に歌詞を発想し、曲を創り、何歳になっても歌い続けることができればよかったのだ。齢がいっても旅(コンサート)を止めずにネヴァー・エンディング・ツアーと呼んでいるのはそのためである。

 しかし、世の中には理解不能な輩がいる。自国の経済が破綻しようと、長い歴史の中で築かれてきた文学や音楽、バレーなどの貴重な文化芸術財を崩壊させようと、国民の矜持を何百年先まで回復させることができなくても、戦争を仕掛け終えることのない輩である。

 ボブ・ディランは今でも旅をしながら歌っている。「戦争が無くなるまで、どれほど砲弾が飛び交えばよいのだろうか、その答えは風に吹かれている」と。そして、全世界の人々がいまやボブ・ディランの想いに同じく、風になって戦争を止めにいかなければならないと念じているのではあるまいか。

コラムニスト紹介

望月 照彦 氏

エッセイスト 望月 照彦 氏

若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。

 

「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(137)お客様の動きの変化を捉えるおもてなし 視野を広く目配せを

2022年6月5日(日) 配信

 

 いつも多くの人が席待ちする、人気の店に行ったときです。フロアスタッフが忙しく働くようすを眺めていると、私の順番が来て店内に案内されました。

 感動体験をしたのは食事のあとのことです。薬を飲もうとポケットから取り出したとき、スタッフの1人が近寄り、スッと氷の入っていない水を差し出してくれたのです。

 オーダーを取って料理を運び、お茶のおかわりを勧めるなどの数々の忙しい業務のなかで、薬を飲もうとした私の動きをしっかり見て、対応してくれたのです。思わず振り返って見たスタッフの笑顔は、最幸のおもてなしでした。

 これまでは、食事中の追加オーダーも、スタッフを呼ぶために手を振ったり、声を張り上げたりするのが当たり前でした。

 多くのお客様がいる中で、大きな声を上げるのを、ためらわれるお店もあります。「まぁいいか」と、オーダーをあきらめた経験は、一度や二度ではありません。美味しい食事でも、それは非常に残念なことです。

 私がよく行くレストランに初めて行ったとき、飲み物を頼もうとメニューから顔を上げた途端に、遠くにいたスタッフがその動きに気付いて、さっと手を上げて来てくれました。

 「すぐに伺います」というサインですが、それまでのお店との違いに、うれしさを感じた瞬間でした。

 あとから聞いた話によると、その店ではフロア全体に目配せをして、お客様の動きに何か変化があると、何を望まれているのかを読み取ることに長けているスタッフを置いているということでした。

 食事中に席を立つお客様は、お手洗いや電話を掛ける目的で立ったのだと想像して、その場所を案内するために、近付いて声を掛けているということでした。

 さらに、2人連れのお客様であれば、席に残ったお客様の側に行って話し掛けるのです。少しの時間でも楽しくお過ごしいただくため、という心遣いによるものです。

 ふつうお店では、フロアを見渡すスタッフを特別に配置するのは難しいですが、スタッフ一人ひとりがお客様の動きを注視すれば、同じようなおもてなしができるようになるのではないのでしょうか。

 早く、丁寧に接客することやテーブルでの食事の説明といったことだけをスタッフに求めて、スタッフもその実行にだけ一生懸命になっていたら、本当のおもてなし行動が生まれることはないでしょう。

 食事の美味しさとは、心地よい時間を過ごすことで感じるものです。お客様をしっかりと観察すれば、まだまだおもてなしによる美味しい食事の提供は実現できるのです。

 

コラムニスト紹介

西川丈次氏

西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。

 

 

 

観光庁、感染や省エネ対策補助 物価高騰で事業者支援

2022年6月4日(土) 配信

対象は旅行業や宿泊業、DMOなど

 観光庁は6月3日(金)から、環境に配慮した持続可能な周遊観光促進事業の補助金交付の申請を受け付けている。観光事業者の感染や省エネ対策を支援し、コロナ禍や原油価格の上昇による物価高騰などの危機を乗り越えることができる強靱な観光の実現をはかる。国の予算の予備費から約90億円を計上した。

 同事業は4つのメニューを用意した。このうち、感染対策・環境対策に配慮した旅行の促進では、旅行業者を対象に環境に配慮したEV自動車などの交通の活用や、貸切バスの増台などニューノーマルへの対応をサポートする。補助率は2分の1で、上限は2000万円。

 宿泊施設・観光施設等における感染対策・省エネ対策の促進では、宿泊施設・観光施設などを対象に、省エネ型空調の導入など感染対策や省エネ対策を支援する。補助率は2分の1、1000万円を上限として補助する。

 地域が連携して実施する誘客・周遊を促すための仕掛けづくりの対象者は、地方公共団体と民間事業者。感染対策をはかりつつ、地域の関係者が連携して行う祭りやイベントなどの誘客を促す取り組みのほか、サイクルポートの導入など、環境に配慮したカタチで周遊を促す取組を支援する。補助率は2分の1。上限は300万円とした。

 地域の魅力発信の強化や周遊の促進に向けた研修は、地方公共団体とDMO、観光協会、民間事業者に向けて行う。地域の魅力発信の強化や周遊の促進のため、通訳案内士を講師とした研修の実施を支援する。補助率は定額。

「観光革命」地球規模の構造的変化(247) フラワーソンを楽しもう

2022年6月4日(土) 配信

 45年前にある禅僧の講話を新聞で知って、人生を考え直す機会があった。禅僧は「人知れず野辺に咲く、名も知らぬ1輪の花に心を奪われる時、人間は生きているのです」と講じた。当時32歳の私は道端の花を踏みにじることはあっても、花に心を奪われることがなかった。要するに私は「生きていない」ことを知ってショックを受けた。それ以来、野辺に咲く花にも目が向くようになった。

 今年6月に北海道で「フラワーソン」と呼ばれるイベントが開催される。フラワーソンは「フラワー・ウォッチング・マラソン」の略語。世界各地で「バードソン」というイベントが盛んに行われている。バードソンは「バード・ウォッチング・マラソン」の略で、一定時間内に何種類の野生の鳥を確認できるかを競い、確認した鳥の種類数に応じて寄附を行い、野鳥保護に役立てるイベントだ。

 フラワーソンはバードソンにヒントを得て、北海道で1997年から始められた日本発祥のイベント。北海道大学名誉教授の辻井達一氏の提唱で、北海道新聞野生生物基金設立5周年を記念してスタートし、その後も北海道新聞社が主催している。

 同イベントは5年毎に6月中旬の2日間を設定。全道各地で数多くの人々が参加して「どんな花が咲いているか」をグループ単位で調べるイベント。毎回フラワーソンの調査結果を詳細にまとめることによって、環境変化の実態を把握し、野生植物の保護や環境保護に貢献している。

 6回目の今回は6月18日(土)、19日(日)に開催され、北海道全域を約950地区に分けて、開花している植物を調査し記録していく。前回(17年)は約3千人が参加し、確認開花種数は1122種に及ぶ。フラワーソンは全道で一斉に実施され、子供を含めて誰でも参加が可能で、身近な自然に親しみ、環境変化を知ることによって環境保護に貢献する工夫がなされている点が高く評価されている。

 北海道はさまざまな花々を愛でる「フラワーツーリズム」に最も適した地域の1つだ。フラワーソンを通して北海道の野生植物の実態を調査・記録し、保護に係ることはフラワーツーリズムの振興につながっている。旅行業界もフラワーソンに参加・支援することによって、フラワーツーリズムのさらなる発展に寄与してもらいたい。

 

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

 

 

【精神性の高い旅~巡礼・あなただけの心の旅〈道〉100選】-その14-斎場御嶽と久高島(沖縄県)神的なものを感じる場所 琉球王国の聖地を訪ねる

2022年6月4日(土) 配信

 ちょうど1年前の2021年5月から、精神性の高い場所を求めて旅を始めた。たまたま、源頼朝の二所詣に以前から関心があり、頼朝の歩いた道をたどっていたが、今年1月からNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」がスタートし、三谷幸喜氏の筆によって登場人物が生き生きと描かれていることから、いつの間にかドラマと連動した旅をしていた。

 

 しかし、この連載はドラマの舞台をたどる旅ではない。あくまでも現代人が失いかけている精神性を取り戻す旅を目指していたはずだ。連載も1年が経過し、ここでまた初心に立ち戻って、精神性を追求していきたいと気持ちを新たにした。

 

 今回は、精神性の高い旅の頂点と言っても過言ではない斎場御嶽(せいふぁーうたき)を感じるために、沖縄へ飛んだ。

 御嶽とは、琉球王国の聖地である。御嶽は琉球の神が存在する場所であり、地域の祭祀においては中心となる施設である。沖縄本島を中心に今も各地に存在し、地域を守護する聖域として時代を超えて信仰されている。琉球神道では神に仕えるのは女性とされるため、琉球王国時代すべての御嶽は完全に男子禁制だった。現在でも一定区域までしか男性の進入を認めていない御嶽もある。

 

 そのような御嶽のなかでも、最高位に存する斎場御嶽は、琉球の最高神女である聞得大君(きこえおおきみ)の就任式「大新下り(おおあらおり)」が執り行われ、国の吉凶を占う儀式も行われた。ちなみに斎場とは最上という意味である。

 

 琉球の神話では、日の大神(天にある最高神)が開闢の神アマミキヨに命じて島作りをさせたとされている。アマミキヨはこの命を受け、久高島や沖縄本島などを作った。

斎場御嶽の信仰の拠点「三庫理」

 斎場御嶽の領域中にはイビと呼ばれる霊域が6カ所存在する。その中でも、三庫理(サングーイ)は2つの巨大な岩が絶妙なバランスで支え合っている見た目にも特徴的な場所である。この三角形の岩の隙間を抜けると、左手に神なる島である久高島が望める場所に至るのだが、現在はこの巨岩の間を通り抜けることは許されていない。

 

 近年、三庫理付近から勾玉が発見されたことから、この斎場御嶽が琉球王朝における重要な信仰の拠点であったことが明らかにされてきた。

 

 三庫理こそが、斎場御嶽のシンボル的存在であり、圧倒的な存在感で来訪者に語り掛けてくるのだが、そのほかの6カ所のイビも、それぞれ神的なものを感じる場所である。

 

 イビの1つであるシキヨダユルアマガヌビーとアマダユルアシカヌビーは、それぞれ上から伸びてきた鍾乳石からしたたる水を受ける壺である。その水は天から流れてくる霊水「御水(うびぃ)」と呼ばれ、2つの壺にたまった水量で聞得大君は吉兆を占ったり、儀式に使用したりした。

久高島の聖地フボー御嶽に至る道。これより先は行けません

 斎場御嶽からほど近い安座真港からフェリーで20分のところに久高島がある。この島こそ、開闢神アマミキヨが最初に降り立った地である。周囲8㌔の細長い島で、最高標高も17㍍と低い。久高島は現在でも異界ニライカナイにつながる聖地とされている。琉球王朝時代から「イザイホー」と呼ばれる男子禁制の秘祭が12年ごとに行われていたが、後継者不在のため1978年からは行われていない。

 

 男子禁制にも関わらず、「芸術は爆発だ」で有名な岡本太郎がこのイザイホーに潜入して、映像を現在に残している。

 

 その貴重な映像が8月21日まで日本橋高島屋の高島屋史料館TOKYOにて「まれびとと祝祭」として展示されている。まれびととは来訪神のことであり、異界から来訪し、現世を祓ってまたもとの世界に帰っていく、それに新型コロナウイルスを重ね合わせることもできるのではないだろうか。恐るべし、岡本太郎。

 

旅人・執筆 島川 崇
神奈川大学国際日本学部国際文化交流学科教授。2019年「精神性の高い観光研究部会」創設メンバーの1人。