〈旬刊旅行新聞4月11日号コラム〉木に目が行く―― 調度品の「本物」度合いで宿を選ぶ

2022年4月9日(土) 配信

 運動不足が続くと、休日には川沿いの細い道を数キロ歩く。ただ歩くだけではつまらない。自然と何かに目が行く。その「何か」は、現時点で自分が関心のあるものだ。

 

 最近は、木に目が行くようになった。老人である。

 

 自分が何に興味があるのか、まったく分からなくなることがある。何に対しても興味や関心が湧かない状況は、あらゆる思考や束縛から解放されて、まったくの自由で、心地よさもないではない。しかしながら、新聞記者という生業で、周囲には信じられぬほど「意識の高い」人々に囲まれるなか、さすがの私も「これではマズイ」と思うこともある。そのようなとき、大型の書店に立ち寄る。

 

 脳内は完全なるニュートラルな状態で書店に入る。一生かけても読むことができない大量の本の背表紙や、平台に積まれてある最新刊のタイトルなどを眺めているうちに、自然と手が伸びる本がある。そうすると、止まらなくなり、書店を出るころには、自分が興味を持っているものが明瞭になる。

 

 

 「木に目が行く」というのは、枝先の美しい花や葉ではなく、幹を覆う分厚い皮の質感や、全体のフォルムである。

 

 木に興味が向かう引き金になったのは、我が家に住むヘルマンリクガメの影響が大きい。

 

 彼はまったく言葉を発しないが、毎朝彼が生きていることを確認するだけで、私は勇気をもらえる。小動物の生命など、いつ絶えても不思議ではない。しかも、爬虫類は冬の間は危険だ。常に温かくしてあげているが、動きが悪い。しかし、目の前をノコノコと歩くこんもりとした甲羅を眺めていると、「何一つ不満を言わずに生きること」の幼気さを感じてしまう。

 

 木も同じだ。無言だが、しっかりと生きている。地面から養分や水分をしっかりと吸い取って、光合成の過程で二酸化炭素が固定され、酸素を発生している。街ゆく人々よりも長くこの世界に住み、毎年花を咲かせる。若いころは屋久杉などに関心がなかったが、今は樹齢1千年を超える歴史を刻んだ、その雄大な姿を見上げたいと思う。

 

 

 4月1日からプラスチック資源循環促進法が施行された。歯ブラシなどプラスチックを使ったアメニティグッズの見直しなどを行っている宿泊施設も多いだろう。プラスチック製品は安価で便利なため、「使い捨て」にはぴったりだが、愛着は湧かない。そして大量に廃棄された姿は、美しくない。

 

 

 先日、よく行く骨董屋さんにふらっと入り、大正から昭和初期に作られた大きな欅の箪笥を購入した。金額も決して安くはなかったが、「もう二度とこのような家具と巡り合うことはないだろう」という逸品だった。曲線を織り交ぜた独特のデザインで、100年前の古き良き時代の香りのするものだ。

 

 「ちょっとオシャレで、それっぽく見える」家具をそろえる大型ショップも増えてきたが、それらと比べても、やはり100年の歴史から漂うオーラは、ただ者ではない。

 

 調度品にこだわりのある旅館・ホテルも多い。沖縄・読谷村のリゾートホテル「日航アリビラ」なども、雰囲気のある調度品を置いてある。「木に目が行く」と書いたが、長く滞在するリゾートホテルに宿泊する際には、調度品の「本物」度合いで選ぶ傾向が、最近強くなってきた。

(編集長・増田 剛)

【特集No.608】北海道・札幌観光バス 貸切バスの魅力を消費者へ

2022年4月9日(土) 配信

 札幌観光バス(福村泰司社長、北海道札幌市)は1月14日、旅行新聞新社が取材活動などを通じて見聞きした観光業界の取り組みの中から、創意工夫の見られるものを独自に選び、表彰する「日本ツーリズム・オブ・ザ・イヤー2021」の優秀賞を受賞した。乗務員と事務職が1つの「チーム」となり、旅行会社の先にいる消費者に向けて、「バスガイド付き貸切バス旅行の楽しさを伝え、北海道のファンになってもらう」取り組みが評価された。佐藤圭祐常務取締役とバスガイドの丹野有希さんに詳しい話を聞いた。

オンラインバスツアーなど実施、ガイド付きバス旅行の楽しさ伝える

 札幌観光バスは、バスガイド付き貸切バス旅行の楽しさを伝える取り組みに力を入れている。おもな取り組みは、「オンラインバスツアーの開催」「YouTubeチャンネルの運営」「バスガイドによる音声番組(ポッドキャスト)配信」の3つ。オンラインバスツアーは2020年7月、YouTubeチャンネルはその1カ月前の20年6月、音声番組の配信は21年10月にそれぞれスタートした。

 同社は1964(昭和39)年創業の貸切バス専業事業者。「Brighten up Hokkaido~北海道を、輝かせよう~」という言葉をビジョンに掲げ、道内観光の魅力発信に注力してきた。

 しかし、2020年3月ごろから新型コロナウイルス感染症拡大の影響が出始め、一時期売上が前年比10%以下(20年5~7月)まで落ち込んだ。主力の貸切バス事業は、コロナ禍前の19年度と比べて20年度は約25%に。保有する貸切バスを約10台減らすなど事業を見直すなか、21年度は多少回復基調にあるが、変わらず苦境に立っているのが現状だ。

 そのようななかバス旅行の楽しさを伝え、この楽しさを忘れずにいてもらうため「オンライン」などを切り口に、新しい取り組みを始めている。

若年層参加の入口に、オンラインバスツアー

 オンラインバスツアーを始めたきっかけは「コロナ禍で乗務がなくなったバスガイドやバスドライバーたちの活躍の場を検討した」(佐藤常務)ことだった。同時期に香川県の琴平バスがオンラインバスツアーを始めたことを知り、自身もお客として参加。「これは面白い」と思い、ツアーで添乗をしていた山本紗希さんに連絡を取ったことから、北海道でのツアーが実現した。

 オンラインバスツアーを始めるにあたり、配信部屋や機材などの初期投資はなかった。道内の取材撮影は基本スマートフォン。北海道の雄大さを伝える空撮は、ドローン撮影が趣味というバスドライバーが全面協力する。編集や配信の方法は、インターネットなどで調べて運営している。

 「映像に合わせて話すこと自体、これまでなかったので、当初はリハーサルをかなりしました」(佐藤常務)と振り返る。回数を重ねることで基本的な一連の流れを作っていった。

 21年度オンラインバスツアーの催行回数は70~80回。商品ラインナップが少なくても、同じ旅行商品を複数の団体が利用するなどで催行し、1日2本という日もある。エージェントの場合、団体貸切というかたちで実施するケースも多い。

 参加者像を分析すると「意外とバス旅行の経験がない若い人も多い」(丹野さん)など、若年層がバスガイド付きバス旅行に触れる入口として、オンラインバスツアーが一役買っている。

【全文は、本紙1867号または4月15日(金)以降日経テレコン21でお読みいただけます。】

全旅連青年部、総会前に活動アピール ユーチューブで動画公開

2022年4月8日(金) 配信

星永重部長。「官公庁などに我われの考えを伝えながら、地方を元気にし、宿泊業を日本の基幹産業にしていきたい」と活動への協力を求めた。

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部(星永重部長)は4月6日(水)、ユーチューブで星部長が今期の活動を振り返り、方針などを伝える動画を公開した。4月13日(水)の総会を前に、第25代星体制をアピールする狙い。

 星部長は「コロナ禍で(会員の)ほとんどの施設は本来借りない多額の借入金を抱え、今後に不安を抱えている」と現状を報告した。

 また、宿泊産業はさまざまな関連業者と取り引きを行うことに触れ、「絶対に倒れる訳にいかない。コロナ禍を耐え、さらに高みに登れるように、皆様の力をお借りたい」と訴えた。

 今後については、要望活動の一環で、「Go To トラベルキャンペーン」の開始が発表されたことや、宿泊施設の改修工事費を補助する「既存観光拠点高付加価値化事業支援」が創設された成果を挙げたうえで、「官公庁などに我われの考えを伝えながら、地方を元気にし、宿泊業を日本の基幹産業にしていきたい」と力を込めた。

21年期の旅行業、7割減の7241億円 6割が最終赤字に(東京商工リサーチ調べ)

2022年4月8日(金) 配信 

2019-2021年期・旅行業1100社の業績(東京商工リサーチ調べ)

 東京商工リサーチはこのほど、全国の旅行業の業績調査をまとめた。調査によると、国内旅行業1100社最新期決算(2021年1~12月期)の売上高合計は前期比71・2%減の7241億5400万円だった。新型コロナが流行する前から約2兆円の売上が消失し、6割以上の企業が最終赤字となったことが分かった。

 コロナ前の19年は2兆7705億9400万円の売上を計上したことから、19年比でも73・8%の減収となった。

 当期利益の合計は、20年期が66億3000万円の黒字だったのに対し、21年期は1795億2100万円の赤字となった。

 また、最終損益が判明した587社のうち、構成比65・4%の384社が最終赤字に転落した。19年期に400億円以上の黒字を計上したJTBや、10億円以上の黒字となった阪急交通社、クラブツーリズムなどの大手旅行会社も、軒並み赤字に転落。同社は、「大手企業ほど赤字幅が膨らむ傾向が強まった」と分析している。

 日本政府観光局(JNTO)の調査では、21年の訪日観光客は24万5900人で、20年の411万5828人から94・0%減少した。統計開始以来過去最多を記録した19年は3188万2049人だったため、19年比は99・2%減と激減した。

 この調査結果を受けて同社は、移動制限や外出自粛、インバウンド需要消失などがおもな原因とし、「雇調金などの支援措置があったものの、Go Toトラベル再開も未定のままであり、旅行客消失による深刻な経営環境が続いている」と懸念を示した。

 一方、観光庁は4月1日(金)から地域観光事業支援の一環である県民割支援を、地域ブロック内まで拡大することを決めた。国内観光需要の高まりが期待されるが、同社は「国内限定の施策であり、恩恵は宿泊業者や大手旅行業者が有利。旅行業者の95%を占める小・零細企業への効果は見込みにくい」と見ている。

 とくに、小規模事業者は資金力に乏しく、設備投資や海外からの国内への業態変更などの事業転換のコスト捻出が難しいとしたうえで、「事業規模や、国内外の専門事業など、それぞれの状況に合わせた細やかな支援対応が必要」とした。

 「GWが始まろうとしているなかで、各地で人出の増加が見込まれるが、海外渡航は未だ困難な状況。インバウンド需要が回復するまでは我慢の時期が続く」との見方を示している。

トラストバンクなど、新持株会社を設立 食、旅、技で新事業開始

2022年4月8日(金)配信

関係会社社長と記念撮影するAINUSホールディングスの須永珠代社長(写真中央)

 ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」を企画・運営するトラストバンク(東京都渋谷区)などは4月5日(火)、地域経済の活性化を促すため新会社の立ち上げを発表した。同社と、同社の須永珠代会長が代表社員を務める有徳(群馬県伊勢崎市)が共同出資をする持株会社「AINUS(アイナス)ホールディングス」を設立。地域に資金や資源が還流する仕組みをつくり、地域経済の自立と文化の継承・発展を目指す。

 アイナスの代表取締役はトラストバンク会長の須永珠代氏が就き、第1弾として「食」「旅」「技(伝統技術)」を軸にした3つの新規事業を始める。「食」に関しては、自然栽培農家を支援する「ネークル」(菅原信広社長)に出資し、子会社化。「旅」においては、富裕層向け宿泊施設事業を展開する「UI(ユイ)」(黒瀬啓介社長)、「技」は、全国の伝統技術を活用した日本発ラグジュアリーブランド「MIZEN(ミゼン)」(寺西俊輔社長)を新たに設立した。

3つの子会社に出資、地域経済の活性化促す

 「ネークル」は、栽培技術やノウハウの提供、農業機械・器具の貸し出しなどを行い、自然栽培農家を支援。1000万円以上を売り上げる営農者を2000人育て、200億円市場の創出を目指す。

 「ユイ」では、自治体が保有する土地や建物を富裕層向けの宿泊施設としてサービス提供。新たな観光資源の創出とともに、自治体の歳入増をはかる。第1弾として、2023年に鹿児島県・徳之島町に富裕層向けビラを建設予定。

 「ミゼン」は、伝統工芸の職人による技術を未来へ伝承することを目指すとともに、現代のライフスタイルに合わせることで新たな価値を提唱する。富裕層をターゲットに適正な金額で提供することで、職人の地位向上をはかり、地方の経済活性化にも寄与して、伝統産業や文化の維持・発展を目指す。

 なお、同日にアイナスの次期社長を募集することも発表した。次世代を担う若手経営者の発掘・育成を通じて、地方の起業家や経営者を増やし、地域経済の自立と文化の継承・発掘をはかる。

【にっぽん旬旅】~動画で各地の魅力紹介~北海道・小樽市~

2022年4月8日(金)配信

 2022年8月、市制100周年を迎える北海道小樽市はこのほど、市の観光誘致プロモーションビデオ「OUR STORIES : from OTARU」を制作し、公開した。

 フルハイビジョンの4倍の画素数を誇る4K高画質で撮影された作品で、約5分の本編「小樽編」と「北しりべし編」が2本、インタビューなどの約1分の映像が6本、計8本の映像で構成されている。

【小樽編】『青の街』(4分57秒)

國學院大學 観光まちづくり学部、学部全体初めて会す 新入生ガイダンス開く

2022年4月8日(金) 配信

新入生ガイダンスのようす。301人の学生が入学した

 國學院大學(針本正行学長)は4月6日(水)、たまプラーザキャンパス(神奈川県横浜市)で観光まちづくり学部の新入生ガイダンスを開いた。今年度に開設された同学部の全教員と新入生となった1期生の1年生が初めて、一堂に会した。

  同学部は国内外の歴史や自然などを学び、観光を軸とした持続可能な地域の実現を考えていく。301人の学生が入学した。

 西村幸夫学部長はガイダンスの冒頭、「新しい学問『観光まちづくり』を学生と一緒に磨き上げたい。方針などへの意見があれば、教員などへ言ってほしい」と呼び掛けた。

西村幸夫学部長。「新学問『観光まちづくり』を学生と磨き上げたい」と意気込みを述べた

 教員紹介では、全32人の教師が自身の専門分野や経歴、担当科目などを語った。大門創准教授らは改めて、学びの特色や楽しさなども振り返った。

 その後、1クラス15人ほどの演習ゼミ「ルーム」ごとに分かれ、学生が自己紹介を行った。

 新入生は「もともと自動車や電車の車窓から街並みを眺めるのが好で、理想のまちを考えていた。その土地に合った魅力を見つけたい」など、抱負を述べた。

【対談】大野達氏(観光庁観光地域振興部長)×篠原靖氏(跡見学園女子大学観光コミュニティ学部 准教授)

2022年4月8日(金) 配信

観光庁 観光地域振興部長 大野達氏(右)と
跡見学園女子大学 観光コミュニティ学部 准教授 篠原靖氏

新時代の観光地域づくりを探る

 2022年度がスタートし、観光庁も「稼げる看板商品の創出事業」や「第2のふるさとづくり事業」など、社会環境の変化とともに、新たな取り組みが始まった。コロナ禍で厳しい環境にある観光産業の現状と課題、「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりなど、観光庁観光地域振興部の大野達部長と、跡見学園女子大学観光コミュニティ学部観光デザイン学科の篠原靖准教授が対談し、これからの日本観光や地域活性化を探った。

【司会=本紙編集長 増田 剛】

 ――この数年コロナ禍で停滞していましたが、観光の現状と課題についてどのように見ておられますか。

 大野:観光業は大変厳しい状況におかれています。とくに2021年度は感染が拡大し、「緊急事態宣言」や「まん延防止等重点措置」などが発令されていない期間は、わずか3カ月間しかありませんでした。人流が抑制されている状況で、観光業の皆様は大変苦しい1年だったと思っています。
 政府全体の取り組みとしては、事業の継続と雇用の維持を第一に雇用調整助成金をはじめ、事業復活支援金、政府系金融機関による実質無利子・無担保融資などの支援を続けるなかで、観光庁もさまざまな支援事業を展開しています。
 需要喚起策としては、21年度はGo Toトラベル事業を実施することはできませんでしたが、新たに「県民割」の支援である地域観光事業支援を開始しました。
 この4月からは、「県民割」の支援対象について、都道府県間の同意を前提として、地域ブロックまで拡大できることとしました。

 篠原:おっしゃるように、21年度も観光産業は大きなダメージを受けました。運転資金の枯渇化などにより、観光業界も倒産や廃業の件数が増えています。
 国も事業の継続と雇用の維持を最優先課題として取り組まれているなかで、観光政策は中・長期的な視点から、宿泊施設や地域の「観光コンテンツの魅力増大」など、多面的に支援されていく方向性が見えてきました。
 長く観光に携わってきた有識者の立場として、持続可能な観光地域づくりに向けた体勢を作っていくことが大事だと思います。

 ――世界的な環境意識の高まりや、IT化、働き方改革など社会構造も急速に変化しています。

 大野:DX(デジタルトランスフォーメーション)に関しては、政府も「デジタル田園都市国家構想」を掲げ、地域を元気にしていくなかで、デジタル化をしっかりと進めていくことを重要な柱に位置付けています。
 地域活性化の切り札の一つが観光であり、観光産業や地域もデジタル化を推進することで、さらなる成長や発展の可能性を秘めています。
 また、持続可能な観光は世界全体の潮流でもあります。
 観光庁が設立されたときから「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりを軸に取り組みを進めてきましたが、さらに取り組みを強化していく必要があると考えています。
 そのためには、観光客が地域の文化や生業に触れ、そこで魅力を感じていただく。一方で地域の方々も、観光客と触れ合いながら、自分たちの地域の魅力に気づいていく。それが地域の誇りにつながって、さらに観光客が増えていくという好循環を作っていきたいと考えています。
 こうした好循環を通じて、「地域がしっかりと稼げて、豊かさを実感する」ことができ、持続可能な観光につながっていくのだと思います。

 篠原:インバウンドが中断した状態で、改めて立ち止まって考えられる時間ができました。それぞれの地域は、観光立県、観光立市などで取り組んできましたが、そこに実際お金が落ちる仕組みができていなかったことに気づく機会にもなりました。
 こうした動きのなかで、観光庁も豊かさを感じられるように「稼げる観光」に取り組む地域を支援していく時期になったのだと思います。
 観光庁には大きな旗振り役になっていただきたいと期待しています。

 ――このような流れのなかで22年度観光庁予算と、21年度経済対策関係予算のポイントは。

 大野:4つの柱として、①国内交流の回復・新たな交流市場の開拓②観光産業の変革③交流拡大により豊かさを実感できる地域の実現④国際交流の回復に向けた準備・質的な変革――を掲げています。
 まずは、コロナ禍により甚大な影響を受けている観光の復興に向けて、「新たなGo Toトラベル事業」などを実施して、観光需要の喚起をはかるとともに、ワーケーションや「第2のふるさとづくり事業」などにより、新たな国内交流需要の掘り起こしを行っていくことが基本方針です。
 併せて、デジタル化などによる生産性向上、宿泊施設を核とした観光地の再生・高付加価値化など、観光産業や地域を多面的に支援していきます。さらに国際交流の回復に向けた準備を進めていきます。
 このなかで、「交流拡大により豊かさを実感できる地域の実現」では、旅館やホテルの改修や、廃屋撤去などの支援を重点的、集中的に実施することで、宿泊施設を核とした「観光地の再生や高付加価値化」に取り組んでいきます。
 さらに、「地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出」(看板商品創出事業)として、地域の幅広い関係者の連携による「稼げる看板商品」の創出を支援することとしています。

 篠原:観光庁は、補正予算を活用して20年度に「誘客多角化等のための魅力的な滞在コンテンツ造成実証事業」(誘客多角化事業)、21年度は経済対策関係予算で「地域の観光資源の磨き上げを通じた域内連携促進に向けた実証事業(域内連携事業)を通じて、コンテンツの造成や資源の磨き上げを支援してきました。
 そして、今年度の「稼げる看板商品の創出事業」へと、継続的に進化してきているように思います。
 政府が地方分散を進めるなかで、自然や食、歴史・文化・芸術、さらには地場産業(生業)、交通などに携わる方々が十分に観光と深く関わっていない部分がありました。「どのような場面で観光と関われるか」というところが、これまでも課題として挙がっていました。

 大野:「稼げる看板商品の創出事業」は、これまでの事業の蓄積や、課題も見えてきているなかで、「しっかりと稼ぐ」ことを重視し、地域ならではの観光資源を活用したコンテンツの造成から販路開拓まで一貫して「伴走」しながら支援していく点が大きな特徴です。

 篠原:これらの取り組みが有名温泉地や人気観光地だけでなく、日本中の今まで観光とは無縁であった地域にも大いにチャレンジしていただき、面で広がっていくことを願うばかりです。
 今年からは地域密着で、地方運輸局と地域の連携も大きな特徴ですね。

 大野:これまでは観光庁の直轄の事業が多かったのですが、より地域に近いところにある運輸局の観光部もしっかり関与し、地域ごとの実態に応じて対応していくかたちにしたいと思っています。

 篠原:文化財の活用など文化庁との連携も必要になってきます。

 大野:文化財の魅力はインバウンドが再開してきたときに重要なファクターの1つとして、「保存だけではなく稼げる視点」で、文化財をどう活用していくかを積極的に議論し、観光資源化をはかっていきたいと思っています。

 篠原:2020年に東京オリンピックが開催できていれば訪日外国人観光客4千万人は達成できたかもしれませんが、観光消費額は目標値の6割程度という状況でした。
 数を追うよりも質を高めていくことの重要性が改めて認識されるなかで、今の時期に地域がしっかりと稼げる仕組みをつくることによって、インバウンドの再開を見据えた基礎固めの時期だと思っています。

 ――稼げる看板商品づくりに向けた具体例は。

 篠原:例えば、秋田県の大館市は十和田湖への通過点という一面もありました。「大館市が持つ観光資源のなかで何を売り出していくか」と模索した結果、「秋田犬」というコンテンツを深堀してさまざまな取り組みが始まりました。秋田犬をベースとしたミュージアムを作り、「忠犬ハチ公」のドラマの舞台でもある渋谷駅を模したカタチのミュージアムをデザインするなど活発に動き始めました。
 さらに、食では比内地鶏が有名ですが、単価が高いため、観光客が食べたくても市内にお店が少なかった。このため、訪れた観光客に消費してもらうために観光客向けのメニュー開発などを研究する民間のプロジェクトクトチームが発足し、観光とは遠かった市民も稼ぐ観光の立役者になりつつあります。
 これまで行政が動いていた部分を、地域の民間事業者たちが「比内地鶏」を看板商品にして、「観光と消費をつなぎ合わせていく工夫」によって、ほかのエリアにはない魅力として売り出しています。
 秋田名物のきりたんぽ鍋も「今だけ、ここだけ、あなただけ」と価値を高めることで、秋田でしか味わえないものに仕上げていくことが大事だと思います。
 地域にお金が落ちる仕組みにするには、販路開拓までつなげていかなければなりません。
 百貨店のバイヤーとのマッチングなど、東京をはじめ、都市部の百貨店でPRしてもらえるように、有識者会議で全国のバイヤーを対象にプレゼンするというのも、1つのアイデアです。有識者や専門家が地域と伴走し、助言しながら、販路開拓までバックアップしていくことがこれからの観光地域づくりに必要だと考えています。

 ――主体となる観光地域づくり法人(DMO)の課題について。

 篠原:ようやくDMOという名前は知られるようになってきましたが、行政主導で組織化を促してきた現実もあります。「観光で稼ぐ」という根底の部分が欠落しており、地域の伝統的な文化を踏襲している職人さんや農業、漁業従事者の皆さんなど観光とは無縁だった民間の力を活用しながら「お金を落としてもらえる」仕組みづくりの必要性を感じています。

 大野:DMOの財政的基盤が自治体の補助金に頼らざるを得ない状況で、持続可能な事業や人材の確保が難しいという課題があります。
 このため、観光庁としても、自主財源の導入に向けた関係者の合意形成などの取り組みにも支援を行っているところですが、本来的には、DMOは収益事業を行うことが目的ではなく、観光地を稼がせるための存在です。DMOがマーケティングなどの能力を高めて、「地域を稼がせることに貢献している」と理解されれば、自治体からだけでなく、地域の関係者による会費収入も増えてくることが期待されます。
 DMOのMにはマーケティングとマネジメントが含まれており、双方の役割が求められています。DMOが本来の役割を果たせるよう、外部人材の派遣や、能力向上の仕組みづくりなどの支援も行っています。

 篠原:旅行者の旅のスタイルや価値観の変化が長期化するコロナ禍で一気に加速したと実感します。さらなる旅の目的化が加速し、従来の周遊型のスタイルに限定されず、旅を通して自分の生き方を追求し新たな非日常を楽しむ旅のスタイルなど旅の定義が拡大されている傾向があります。
 その背景には、テレワークなどの社会環境の変化により、どこにいてもビジネスや社会貢献に参画できるような環境変化が作用して、日本観光がこれから大きく変わっていく道筋にもなっていくのではないでしょうか。

 大野:昨年10月に立ち上げた「第2のふるさとづくりプロジェクト」は、国内観光の新たな需要掘り起こしを目指し、有識者会議を設置して議論を深めております。今後、モデル地域を対象とした事業を実施し、課題を整理し、必要な施策を検討する予定です。
 コロナによって「密を避ける」「自然に触れたい」という動きが顕著になってきました。若い世代の中でも、とくに都市部の方々は「地方にふるさとを持ちたい」といった傾向も見られます。篠原先生がおっしゃるように、テレワークや働き方改革が進むなかで、「何度も地域に通う旅、帰る旅」が定着するように、背中を押しながら応援していきたいと思っています。
 こうした新しい需要を掘り下げていくことで、地域の活性化、ひいては関係人口、定住人口の増加につながることを期待しています。

 篠原:さまざま考え方や生き方を自由に選択していけるような環境づくりが広がることによって、「一極集中」から「地方分散」に向けて、「第2のふるさとづくり」は豊かさを感じる個人の多様化という観点からも、社会環境の変化に非常に適応しているのではないかと思います。

 大野:「住んでよし、訪れてよしの観光地づくり」は我われの目指すところではありますが、「稼げる地域をどう作っていくか」を含めて、多面的に観光産業や地域を支援していきたいと思っています。ぜひ皆様と一緒にそのような観光地づくりを目指していければと思っています。

 ――ありがとうございました。

時速80キロの高速ジェット船で東京の海さんぽ 就航20周年を迎えること記念(東海汽船)

2022年4月7日(木) 配信

セブンアイランド結

 東海汽船(山﨑潤一社長、東京都港区)は4月1日(金)、「東京湾ぐるっと周遊クルーズ」~時速80キロの高速ジェット船で東京の海さんぽ~を運航した。

 高速ジェット船就航20周年を迎えることを記念した企画。参加者は、時速80㌔のスピードでレインボーブリッジやアクアブリッジ、ゲートブリッジをくぐるほか、普段見ることのない羽田空港沖、海ほたる沖、京葉シーバース沖、東京ディズニーリゾート沖など、東京湾の見どころを巡る船旅を楽しんだ。また船内では、MCが各所の案内や東京湾を運航する船の紹介などを行った。

 同社は今回のクルーズを5月7日(土)に再度実施する予定。併せて、伊豆大島などでの記念ツアーなどの計画も進めている。

さるびあ丸(右)

 また同日、午後の便が寄港した後、新しいマスコットキャラクター「東海汽船 はこぶね課」をお披露目した。人気キャラクターのリラックマやすみっコぐらしでお馴染みのサンエックがデザインした同キャラクターは、東海汽船の所有船舶6隻がモチーフになっている。

クラツー、島根県地域と連携 歴史文化や自然資源を軸に

2022年4月7日(木)配信

(左から2番目)中海・宍道湖・大山圏域観光局の矢野正紀代表理事、(同3番目)クラブツーリズムの酒井博社長

 クラブツーリズム(酒井博社長、東京都新宿区)はこのほど、中海・宍道湖・大山圏域観光局(島根県松江市)と「観光分野における連携協定」を結んだ。中海・宍道湖・大山圏域観光局を構成する、安来市、米子市、松江市、出雲市、境港市の5市と連携。相互の人的や物的、知的資源を有効に活用した協働の活動を推進していき、地域の活性化をはかり、持続的な発展につなげる。

 今回の協定で、同地域の歴史文化資源や周辺の豊かな自然資源を軸に、新たな自然体験コンテンツの企画から、国内自然観光地としての認知度向上をはかる。さらに、インバウンド観光にも選ばれるように、同観光局とともに、地域の資源を生かした観光振興に取り組んでいく方針だ。

 連携内容には、地域資源を生かした観光振興や、観光消費の拡大による観光関連事業者支援、観光関連産業の人材育成、持続可能な観光地域づくりに関する事項を掲げた。このほか、観光分野における両者の連携協力に関し必要と認められる事項を盛り込んだ。

 22年度からは政府の地域活性化起業人制度で、クラブツーリズムのスタッフを中海・宍道湖・大山圏域観光局に派遣するなど、人的な資源活用を進めるとした。