2022年3月27日(日) 配信
地域には、かつての輝いた時代の歴史を象徴する数多くの優れた建物がある。北前船でにぎわった福井県小浜市もその1つである。
3月初旬、その象徴ともいうべき県指定文化財「旧古河屋別邸」護松園を訪ねた。護松園は、江戸時代に北前船船主として活躍した古河屋が小浜藩主らを迎え入れるために建てた迎賓館である。1815(文化12)年の建築で築200年以上経つが、建物の風格や細部に拘った造りは、派手さこそないが、誠に趣のある建物である。
その建物がリノベーションされ、若狭塗箸のギャラリーやカフェなどを備えた憩いの場「GOSHOEN」として昨年5月にオープンした。所有者の老舗箸メーカー「マツ勘」が、畳間の一部を板張りにして箸のギャラリーに改装、台所はカウンター形式のカフェに。書院二間にはモダンなソファを配置し、庭を眺めながらコーヒーが味わえる。さらには、コワーキングスペースや郷土の歴史・デザイン関係の書籍などを集めたギャラリー、蔵を活用したミュージアムや庭の整備なども進んでいる。
小浜市は、2011(平成23)年に歴史文化基本構想を策定し、昨年7月には小浜市文化財保存活用地域計画が文化庁から認定された。この地域計画の副題である「おばまだからできること。」というタイトルには、小浜の歴史文化とともに、小浜西組(重要伝統的建造物群保存地区)など、長年にわたってまちづくりに関わってきた市民の思いが表現されている。
今回の訪問は、この地域計画の実行母体となる「文化財保存活用支援団体」の創設と活動のあり方がテーマであった。地域の文化財は、行政などが管理するもののほか、社寺や個人所有の建物などが数多くある。
これらの文化財の保存活用は、行政だけでなく、所有者である民間の活動が不可欠である。支援団体に求められる取り組みは、文化財の活用を前提としたブランド価値の向上や、新たな生業・事業の創出などの活用とともに、その担い手・人材の育成や文化財保全の仕組みづくりなどが求められる。
今日の文化政策は、観光と文化を対立的に捉えるのではなく、良好な関係を築きながら、相乗的な効果を生み出していく、いわば「共生」の考え方が重視されるようになってきた。さらには、文化資源を適切な投資によって社会的価値や便益を極大化するという新たな視点も加わっている。
その考え方を具体化し支えるのが、地域の保存活用支援団体である。小浜では、地域DMOの㈱まちづくり小浜などが核となり、古民家再生による町家ステイや文化財を活用した多様なイベントなども展開されている。
文化財の保存と活用は、これからの観光まちづくりの肝となろう。この分野でも小浜の取り組みは先行モデルとして誠に注目される。
(日本観光振興協会総合研究所顧問 丁野 朗)