2022年2月22日(火) 配信
日本旅館協会(浜野浩二会長)は2月17日(木)、東京ビッグサイト(東京都江東区)で「旅館の持続化計画」をテーマにセミナーを開いた。宿泊業におけるSDGs(持続可能な開発目標)について基調講演のほか、同協会のアンケート調査の集計結果や、雇用と地域観光に関する宿泊施設の活動を事例紹介した。
基調講演は、宿泊業や飲食店のほか数多くの事業を手掛ける、長野県・扉温泉「明神館」社長の齊藤忠政氏が「地域と共に生きること」と題して行った。齊藤氏は、自然災害による倒木で扉温泉が孤立状態になった経験を例にして、「環境が変化すると山が一番被害に遭いやすい」と持論を展開。これからの自然環境の変化による弊害を考え、「本格的に2003年から持続可能な宿づくりをスタートした」と語り、明神館を含む扉グループでの過去20年の取り組みを振り返った。
03年からは自社農園を開始し、これまで新入社員が音頭を取って試みに挑戦していると説明。07年から美と健康をテーマにした料理を提供するため、明神館のシェフにマクロビオティックアドバイザー認定を取得させた。マクロビオティックとは、動物性・精製した小麦・砂糖・卵・乳製品を使わず、できるだけその土地で採れた旬の物を食べることで、健康を維持できると言われる食事法。信州の食材を精進料理にならないようフレンチ料理にアレンジしたメニューで提供している。
いち早く、エコロジー(自然環境保護運動)にも力を入れ、09年に国際的な宿泊施設の環境認証「グリーンキー」の日本第1号に認証された。旅館の壁に再生可能な素材を採用し、客室の一部の床に空気の浄化作用のある炭を使用するなど、さまざまな点で持続可能性を追求し、旅館を運営してきたと伝えた。
その後、旅館を世界に広めたいと考え、ホテル&レストランの世界コレクション「ルレ・エ・シャトー」に加盟し、ブランディング強化と海外への販路づくりに力を入れた。一方で地元に対しても、学生や農家、地域の農政課などと「文化」と「食」に対するさまざまな取り組みに尽力。長野県松本市にある松本城の内側・三の丸の活性化をはかる街づくり組織「松本城・三の丸倶楽部」の座長も、齊藤氏が務めている。
19年から古民家事業を開始し、古民家や松本城の殿様ゆかりの本陣をリノベーションした宿泊施設をそれぞれオープンした。齊藤氏は「古民家を活用し、持続可能な地域経営によって地域の課題を解決することで、住み続けられる地域としたい」と言及。持続可能な地域経営のため、観光産業が「住み続けられる地域」をデザインしなければならないと主張した。
□雇用に対する取り組み、アンケートや事例紹介
セミナー後半の第1部「安定した雇用」では、宿泊施設のSDGsに関するアンケート結果や、人手不足に対する4つの取り組みを発表した。
宿泊施設のSDGsについてのアンケート結果は、長野県・湯田中温泉「あぶらや燈千」社長の湯本孝之氏が紹介した。日本旅館協会が①宿泊施設の経営者②宿泊施設の従業員③宿泊施設への就業希望者④宿泊施設の利用者――の4カテゴリーを調査。SDGsの認知度から、宿泊施設に必要と思われる対応などの調査結果を公表した。
事例紹介の1つ目は、福島県・土湯温泉「山水荘」常務の渡邉利生氏が、旅館が抱える問題を生産性向上という側面から取り組んだ自館の成果を共有した。就業規則と賃金規定の見直しから業務シフト編成の再構築のほか、食事処を改修してオープンキッチンを設けたことで改善した料理提供体制などを紹介した。
2つ目は、和歌山県・和歌浦温泉「萬波」社長の坂口宗徳氏が、個性心理学で安定した組織づくりの事例を発表した。従業員や宿泊客を3分類の特性に分けることで、互いの個性が生きる組織づくりや、宿泊客増加につなげる事例を紹介した。
3つ目は、静岡県・修善寺温泉「新井旅館」社長の相原昌一郎氏が、日本旅館協会会員の労働環境改善の取り組み事例を発表。ピークを分散した業務平均化や、従業員の働きやすい環境整備などの取り組みを紹介した。
さらに4つ目は、山口県下関市の割烹旅館「寿美礼」社長の和田健資氏が、日本旅館協会と地元の下関市立大学付属リカレント教育センターが協働で開講する「旅館マネジメント専門家養成コース」について紹介した。
□地域観光を切り口に、宿泊施設らが事例発表
第2部は「地域観光」の存続を切り口に、3つの取り組みを発表した。1つ目は、北海道・ウトロ温泉「北こぶし知床ホテル&リゾート」社長の桑島大介氏と、同館で「クマ活」に取り組む村上晴花氏が登壇。ヒグマとの共存を目指す活動により、自然環境の保護とその環境が従業員の働き甲斐の創造にも結び付いた事例を紹介した。
また2つ目は、鹿児島県・指宿温泉「指宿ロイヤルホテル」社長の細川ゆり氏が、委員として取材した「グランヴィア岡山の取り組む食品ロス対策」を発表した。食材の適量発注の徹底や、下ごしらえ部門設置による仕込みの効率化、スタッフ一人ひとりが食品ロス対策の重要性を認識などの取り組みを紹介した。
3つ目の「竹アメニティ活用による脱プラスチック」について、島根県・さぎの湯温泉「さぎの湯荘」社長の田辺大輔氏が登壇。地元島根県で竹製のアメニティを製造するひろせプロダクト社長の鉄本学氏も登壇し、竹製のストローやカトラリー、歯ブラシなどを紹介した。