ふるさとイベント大賞、最高賞の大賞は――、「しかりべつ湖コタン」

 地域活性化センターは第14回ふるさとイベント大賞の最高賞に当たる大賞(総務大臣表彰)に、凍りついた湖上に氷と雪で作った村を誕生させて楽しむ北海道鹿追町の「2009しかりべつ湖コタン」(第28回)を選んだ。ほかに優秀賞2件、奨励賞3件、選考委員特別賞1件がそれぞれ選出された。

 同賞は日本各地で行われている地域の魅力を高め、活力を生み出すイベントを表彰するもので、1996年度に地方自治法施行50周年を記念して設けられた。今回は全国から149イベントの応募があった。3月3日に東京都内で表彰式が行われた。

 「2009しかりべつ湖コタン」(然別湖コタン実行委員会・鹿追町主催)は、凍結した湖上に氷と雪だけで作った村「しかりべつ湖コタン」を開村するほか、氷上露天風呂やアイスチャペルなどを製作して遊ぶ、作る、体験するなど、参加者と自然との触れ合いの場を創出する。そしてイベントなどを通じて地域住民同士の協調や観光客との交流をはかっている。また、これまで冬期間の集客が課題となっていたが、イベントの実施に伴いホテルの通年営業が可能となるなど、地域に対する経済効果は大きいという。

 そのほかの受賞イベントは次の通り。

 【優秀賞】
KING KALAKAUA THE 〝MERRIE MONARCH〟伊香保ハワイアンフェスティバル(13回)=渋川市(群馬県渋川市)▽能登ふるさと博 灯りでつなぐ能登半島 輪島・千枚田あぜの万燈(2回)=「ほっと石川」観光キャンペーン実行委員会・輪島(石川県輪島市)

【奨励賞】
小称里=横須賀区祭典総代会(静岡県掛川市)▽ゆるキャラまつりin彦根~キグるミさみっと2009~=滋賀県彦根市▽鳩間島音楽祭(12回)=鳩間島音楽祭実行委員会=沖縄県竹富島

【選考委員特別賞】
日本海政令市にいがた 水と土の芸術祭2009(1回)=水と土の芸術祭実行委員会(新潟県新潟市)

JTBウェブ調査、99%が再度参加希望、現地発着型の旅行プラン

 JTBはこのほど、現地発着型(オプショナル)プランに関するウェブ調査を実施した。

 自然観察やスポーツ体験、伝統文化体験など、現地ならではの体験ができる「現地発着型の旅行プラン」は、ツアーのオプショナルプランとして販売されることが多く、人気を集めている。今回の調査で、国内旅行の現地発着型プランに参加したことがあると回答したのは26%。このうち、99%が再度参加したいと答え、満足度の高さが表れた。一方、参加未経験者の74%は今後「参加したい」と関心の高さが伺える結果となった。

 参加したプランを多かった順にあげると、(1)自然環境・自然動物などの観察(35%)(2)アウトドアスポーツ系の体験(21%)(3)陶芸や染め物などの伝統文化・芸能体験プラン(14%)(4)工場見学などの産業観光プラン(8%)(5)そば打ちなどの食事関連体験プラン(6%)――などとなり、参加しやすいプランへの参加率が高い傾向にある。

 参加した料金の価格帯は、「1千円以内」が6%、「1千―3千円」が25%、「3千―5千円」が30%、「5千―1万円」が28%、「1万円以上」が11%となった。

 「予算はいくらまで出せるか」では、3千円以上払うという回答が10ポイント増加しており、良いものであればある程度の金額を支払いたい、との期待も伺える。

 プランを知ったのは、「出かける前」が68%に対し「現地に着いてから」が31%。出かける前では、「旅行会社の店頭・パンフレット」が27%と最も多く、次いで「インターネット・携帯サイト」が25%で続く。現地では「プラン実施場所」が16%、「情報誌やチラシ、観光案内所」が14%。プランを申し込んだのは、「出かける前」が55%、「現地に着いてから」が44%だった。

 現地発着型プランの良いところについては、(1)その土地ならではのプランがある(33%)(2)個人では参加できないプランがある(24%)(3)知らなかった観光地を発見できる(16%)(4)思い立ってすぐ気軽に参加できる(13%)(5)比較的安価に参加できる(8%)⑥その土地の人と交流できる(4%)――などの意見があった。

海老名香葉子さん講師に、第21回全国旅館おかみの集い(7月6日帝国ホテル)

 全国旅館おかみの集い運営委員会(畠ひで子運営委員長)はこのほど、7月6日に帝国ホテル東京(東京都千代田区)で開く第21回「全国旅館おかみの集い」の基調講演に、講師として落語家一家のおかみでエッセイストの海老名香葉子さんを招くことを決めた。

 今年の集いは、21回目という新たなスタートを迎える。従来の取り組みを基礎としつつも、開催スケジュールを2日間から1日に見直すなど、全国の女将や女性経営者たちが参加しやすい会作りを進めている。

 7月6日のプログラムは、午後12時半の開会から、基調講演、記念撮影、分科会(勉強会)、懇親パーティーの順に進行し、午後8時には終了する。

 従来は、午後9時前に初日のプログラムを終了していたが、早く切り上げることで、会場ホテル以外での宿泊はもちろん、一部の地区では日帰り参加も可能になった。

 分科会は「インターネット」「人材育成」「外客誘致」「旅館経営」――などの題材を元に今後の運営委員会で詳細を決める。4月中に全国の女将に参加案内を発送する予定。

〈海老名香葉子さんプロフィール〉
エッセイスト。1933年10月に東京本所で生まれ、52年に落語家の林家三平(初代)と結婚した。夫の死後、こん平をはじめ、30人の弟子を支え、マスコミでも活躍している。

 著書は「半分のさつまいも」や「海老のしっぽ」など多数ある。2男2女の母で、長男の林家正蔵、次男の林家いっ平はともに落語家。3月9日に上野公園で開かれた東京大空襲を語り告ぐ催し「時忘れじの集い」に出席した際、昨年乳がんを患い、手術や放射線治療を受け乗り越えたことも告白している。

大手9サイトと連携、宿泊プラン110万件を横断検索(BIGLOBE旅行)

 NECビッグローブ(飯塚久夫社長)は3月10日、旅行予約や観光情報を提供する「BIGLOBE旅行」で、9つの大手宿泊予約サイトが提供する110万件以上の宿泊プランを横断的に比較検索できるサービスを開始した。

 フォルシア(屋代浩子社長、東京都新宿区)の提供する検索プラットフォーム「Spook(スプーク)」を活用し、従来から連携してきた楽天トラベル、JTB、るるぶトラベル、赤い風船、宿ぷらざに加え、新たに、一休.com、近畿日本ツーリスト、じゃらんnet、阪急交通社の4サイトとも連携を拡大し、サービスを拡充させた。利用者は、シティホテルから温泉宿まで大手宿泊予約サイトが提供する110万件の宿泊プランを一括で比較できるため、家族旅行や女性同士の旅行など多様な用途に適したプラン検討や、宿の予約までスムーズに行える。

 年間20万件の宿泊予約を目指す。

ともに旅文化を創造、新たな関係へ定款変更(朝日旅行協力会)

 朝日旅行協力会(佐藤好億会長、500会員)は3月17日、東京・浅草ビューホテルで2010年度通常総会を開き、新・朝日旅行との強固なパートナーシップを築くために、定款を一部変更した。

 朝日旅行はJTBと朝日新聞が提携し、昨年4月から51%の株式を取得したJTBのグループ子会社になった。佐藤会長は冒頭、「不安を感じられた会員もおられると思うが500会員が残った。我われ協力会は、人生を重ねていっても惜しくない『人を大事にする旅』を企画していただける朝日旅行という特殊な会社と、より強いパートナーシップを築き、これからの日本の旅のありようについて提案し、具体的に実践に邁進していきたい」とし、「地域の中で文化性のある仕事として地域に残していこう」と語った。さらに、「我われ協力会は現地研修など通して会員の皆さんと将来の道を開く可能性を模索してきた。今後は、日本の宿を守る会、日本秘湯を守る会、日本の食文化を守る会、一般協定先のどの研修会にも横断的に出席できるよう検討していく」と述べた。

 今回、定款を主に変更したのは「目的および事業」。従来は「朝日旅行の観光事業の推進に協力する……」とあった箇所を、「朝日旅行とともに、旅文化を創造していくための温泉文化、旅館文化や食文化、地域文化の保全と継承に努め、自立と協働の精神で……」と、より両者の協力関係の強化と、共同責任をとる関係へと変えた。

 今年度も会員の募集型企画旅行を掲載した旅行情報紙「朝日旅行」を、朝日新聞読者に折込広告として年に10回程度、東京本社管内で約330万部、大阪支社管内で約140万部配布する。

 部会活動では、日本秘湯を守る会(194会員)のホームページからの1年間(09年3月―10年2月)の宿泊総数は、前年比1億円790万円増の2億4120万円と、順調に推移した。このほど英語版がスタートし、今後中国語、韓国語版の開設にも取り組む予定だという。

UTセンター設立、旅行業取得へ、神戸UTフォーラム

「全国協議会の設立目指す」

 神戸ユニバーサルツーリズム(UT)の成果報告会「ユニバーサルツーリズムフォーラム」(主催・NPO法人ウイズアス)が2月27日、神戸市内の神戸学院大学で行われた。

 内閣府の09年度地方元気再生事業に認定された「ユニバーサルツーリズム事業の振興と障がい当事者の一般就労機会の創出による地域活性化プロジェクト」での取り組み内容と成果を報告し、安心安全で豊かな旅を支援するUTの推進と全国各地との連携などについて議論を深めた。

 第1部では神戸学院大学、阪南大学、神戸夙川学院大学の福祉や観光を学ぶ学生がジョイントし、神戸市内10カ所に設置された「どこでも車いす」を活用した神戸観光の楽しみ方を紹介した。

 3大学の学生が7チームを編成し、北野異人館街や南京町、ハーバーランド、三宮センター街などテーマに沿ってルートマップを作成し、実際に車イスに乗って体験した観光のポイントと利用施設の入り口段差、スロープ、スタッフの対応など評価し、問題点を指摘した。

 主催者では「福祉の学生が観光を、観光の学生が福祉を学ぶ取り組みは全国でも珍しい」と話し、今後さらに発展させていく考えだ。

 第2部では事業推進の各部会報告が行われた。UT推進委員会ではウイズアスを中心に、移送、宿泊、福祉・医療の関係連絡協議会に旅行会社、神戸市、県などと「神戸UTセンター」を設立し、ワンストップサービスを提供。4月に旅行業2種取得を目指し、UT商品の販売など積極的な誘客を目指していく計画も明らかにされた。さらに全国UT推進連絡協議会の設立も目指し、全国各地の連携も強化する。

 この日は旭川、東京、神戸、松江、熊本のUTに取り組むNPO代表によるパネルディスカッションも開かれ、活動内容と抱える問題など意見を交換。日本ユニバーサルツーリズム推進ネットワーク「協力と連携の宣言」を承認した。

青森で国内活性化、フォーラム開く(ANTA)

 全国旅行業協会(ANTA)は4月8日、青森県・青森市文化会館で「第7回国内観光活性化フォーラム」を開く。基調講演や記念講演、パネルディスカッションのほか、地旅大賞の表彰式なども行う。

 フォーラムは、午後1時に開会。第1部は、1時30分から観光庁の田端浩観光地域振興部長が、「国内観光旅行の促進について」を題に基調講演を行う。その後、1時50分から「売れる着地型旅行商品(地旅)づくりに向けた課題(仮称)」をテーマに、まちづくり観光研究所所長の奥坊一広氏がコーディネーターを務めるパネルディスカッションを実施する。パネラーは、弘前観光コンベンション協会専務理事の今井二三夫氏とびわ湖・近江路観光圏協議会 長浜市産業経済部観光振興課副参事の北川賀寿男氏、飯山市観光協会主任の小泉大輔氏、㈱全旅社長の池田孝昭氏の4人。

 第2部は、3時30分から記念講演として伊奈かっぺい氏が登壇。4時40分からは青森大学学長の末永洋一氏が観光情報を紹介する。また、5時10分から(株)全旅主催の「第2回地旅大賞」を発表、表彰する。なお、フォーラム後は市内のホテル青森で6時20分から懇親・交流会を開く。

多彩な観光資源紹介「バイオマスツアー」など(岡山県真庭市)

 岡山県真庭市(井手紘一郎市長)は2月26日、東京都内で旅行会社やマスコミ関係者を招き観光素材説明会を開いた。首都圏での知名度向上が狙いで、井手市長自らトップセールス。初の試み。同市は中国山脈、大山の麓、岡山県の最北に位置し、鳥取県と隣接する。平成の市町村合併で5年前にできた。

 09年は勝山町並み保存地区が都市景観大賞「美しいまちなみ大賞(国土交通大臣賞)」に、バイオマス(生物資源)事業を見学する「バイオマスツアー真庭」が新エネ大賞の普及啓発活動部門金賞(経済産業大臣賞)に選ばれるなど注目が集まるが知名度は低い。

 井手市長は「真庭市の観光を一言でいうと多彩」と表現。北から南へ、蒜山高原、湯原温泉、神庭(かんば)の滝、勝山町並み保存地区、旧遷喬尋常小学校、醍醐桜など多くの観光スポットを紹介した。醍醐桜は見晴らしのよい高台にある推定樹齢1千年の一本桜。五分咲きのころから午後9時までライトアップされ、夜桜も楽しめる。見ごろが近づくと、付近の道の混雑は必至という。

 また、井手市長は「市の8割が山林で木材はふんだんにある。バイオマスタウンとして新しい産業作りにも取り組んでいる」と紹介。例えば木材ペレットを活用したエコ発電や、木材をナノレベルまで超微粉砕し、バイオディーゼル燃料を製造する取り組み、コンクリートに木紛を入れ、鉄と同じ強度を持つバイオプラスチックの製造などをあげた。

 これらの取り組みを産業観光として見せる「バイオマスツアー真庭」には、全国から年間2千人以上が参加し人気ツアーになっているという。

会期は来年1月10月まで「であい博」の魅力発信、都内で旅行会社に説明会(高知県)

 土佐・龍馬であい博推進協議会(会長・尾崎正直高知県知事)と高知県観光コンベンション協会(岡内啓明会長)は3月1日、東京都内のホテルで旅行会社を招き、1月16日に開幕した「土佐・龍馬であい博」の説明会を開いた。

 あいさつに立った協議会の宮村耕資運営委員長は「NHKの大河ドラマ『龍馬伝』の放映を受けて坂本龍馬と岩崎弥太郎の故郷高知で、土佐・龍馬であい博が約1年間の会期で開幕した。視聴率も好調で、都内の書店でも龍馬関係コーナーが人気と聞く。ドラマを見た人の関心が旅行という行動に出る時期が近づいた」と述べた。であい博は「メイン会場となる高知市のほかに安芸、土佐清水、梼原の3市町をサテライト会場にしている」とし、県内全域に観光客を誘導する博覧会の魅力を理解して、高知県への送客をと要請した。

 であい博の会期は来年1月10日まで。JR高知駅前のメイン会場「高知・龍馬ろまん社中」では、ドラマ関連の企画展示や学び成長していく龍馬の姿をパネルや資料、シアターで紹介。併設する情報発信館「とさてらす」は、映像で高知の観光地紹介のほか高知自慢の特産品販売コーナー、観光案内所などがある。

 サテライト会場の安芸市は三菱グループの創始者となり世界に冠たる企業を築いた岩崎弥太郎の立志伝を、龍馬との関わりとともに紹介する「安芸・岩崎弥太郎こころざし社中」、土佐清水は龍馬が世界に目を向けるきっかけとなったジョン・万次郎にスポットを当てた「土佐清水・ジョン万次郎くろしお社中」、梼原町は龍馬が脱藩した街道として龍馬と立ち上がった同地の若き志士たちを関連資料やパネルなどで紹介する「ゆすはら・維新の道社中」を行っている。

 入場料はメイン会場が大人500円、小中学生250円。団体は15人以上で同400円、同200円。サテライト会場は同200円、同100円。団体は同160円、同80円。なお、メイン会場とサテライト会場のすべてが回れる通行手形は、大人700円、小中学生350円。

 問い合わせ=同博推進協議会 電話088(823)9043。

山梨特集 特別企画「NEXT山梨~次のステージを担う旅館経営者の座談会」

「時代に挑戦する個性的な宿の魅力」  山梨特集の特別企画「NEXT山梨~次のステージを担う旅館経営者の座談会」に、県内で個性的な宿づくりをしている「風のテラスKUKUNA」(富士河口湖温泉郷)の宮下明壽代表取締役社長、「若草の宿 丸栄」(富士河口湖温泉郷)の渡辺洋専務取締役、「銘石の宿 かげつ」(石和温泉)の横森光平代表取締役社長の3氏に登場していただいた。新たな旅館像を探りながら、山梨全体の活性化策も聞いた。

「一生自分も楽しんで続けられる旅館――宮下氏」

 ――宿の特徴をお話いただけますか。「風のテラスKUKUNA」は個性的な宿として知られています。

 宮下:会社の母体である河口湖第一ホテルは、創業50周年を迎えた2005年に約1年間休業して全館リニューアルを行いました。そのときに、祖父母の代から50年も営業してきた河口湖第一ホテルという屋号を、思い切って「風のテラスKUKUNA」に変えました。激変する旅行業界の動向や消費者志向の変化に乗って、「新たな気持ちで再出発したい」との思いが強かったのです。屋号を変えると心も一新し、生まれ変わった気持ちになりました。「KUKUNA」は、ハワイの古い言葉で「日の光」という意味です。

 富士五湖エリアはもともと美しい湖に面し、富士山をはじめ名山が望める高原リゾートのイメージが強くあったので、河口湖の大自然に囲まれた光と風と、水をイメージした「リゾート感」や「開放感」のある宿を演出していきたいという思いがありました。同じ河口湖畔の「若草の宿 丸栄」さんもそうですが、周辺には純和風の旅館がたくさんありますので、「似通った旅館をつくっても河口湖畔全体の底上げにはならない」「多種多様なタイプの宿泊施設があることによって、河口湖という温泉地・リゾート地の幅が広がる」と考えました。たまたま私は海外(ハワイ)での生活も長かったので、過去の経験値も生かした方が自分の得意な分野が伸ばせると考え、ハワイをイメージした施設をつくりました。しかし、リニューアルから3年半が過ぎ、少しずつですが私たちが目指す河口湖らしい独自のリゾート感、つまり「KUKUNAらしさ」が従業員にも、お客様にもイメージされるようになってきました。

 3年半前にリニューアルした大きな目的は、団体主流でやってきたスタイルを個人型に移行するためでした。当時は団体と個人の比率は8対2でしたが、今はそれが逆転しました。宿のネーミングで若年層中心とイメージされやすいのですが、高齢層のお客様も多いのが特徴です。3年半前に改装したときには9割が和室でしたが、高齢者の割合が多くベッド希望が増えてきたため、現在は全体の半分をベッドの部屋にするための改修工事を行っており、車イスも2台から5台に増やしました。この2010年夏に、新KUKUNAがリフレッシュオープンします。

  私たちはとくに客層を特定せず、「KUKUNA」スタイルを支持していただけるすべてのお客様に泊まってほしいと思っています。

 ――接客が高評価を受けている「若草の宿 丸栄」の特徴は。

 渡辺:私は4代目なのですが、歴史を辿ると、呉服業を営んでいた曽祖父が、1955年に木造の小さな旅館を創業したのが始まりです。屋号の「丸栄」は初代栄吉の名にちなみ、「宿の繁栄とご来館くださったお客様の人生が丸く栄えたものになりますように」という願いが込められています。「若草の宿」は、「いつの日にも伸びゆく宿でありたい」との思いから、私が専務に就任したときに命名しました。

 富士山麓という自然が豊かな場所にあり、富士五湖で一番にぎわいのある河口湖畔にありながら、喧騒を離れた一軒宿のような佇まいが特徴となっています。お客様には宿の前にある遊歩道の散策など、常に自然を身近に感じていただける環境にあります。宿では日本の風情を基調とした雰囲気を味わっていただきたいと思います。

 昨今では畳の部屋がある家庭が減ってきています。だからこそ旅館の和室は、今や日本人でありながらエキゾチックな「非日常」と「落ち着き」の両方を感じていただける空間と捉え、当館では和の雰囲気をとても大切にしています。客室には窓から見える風景に合った言葉を書に表し、軸にして飾り、自然との調和をさりげなく演出しています。お客様に意味を尋ねられても、従業員がすぐに答えられるよう教育も行っています。目まぐるしく変化する時代のニーズに沿った宿の姿を日々模索しながらも、一方で「日本の旅館にこだわりたい」という強い思いがあります。

「“進取性”に富んだ企業家でありたい――横森氏」

 ――先進的な取り組みをされている「銘石の宿 かげつ」の特徴は。

 横森:かげつは、祖父が創業してまもなく50年を迎えます。当初は甲府で旅館を営んでいましたが、石和で温泉が湧き出てから2年目の年に別館をつくり、小さな宿からスタートしました。現在、6千坪の敷地に36部屋と、非常にゆったりとした造りになっています。

 石和温泉には地形的な大きな特色がなかったので、かげつは創業以来庭とお風呂に特化した宿づくりをしてきました。バブルの頃までは経営的にも順調でしたが、私が3代目として22歳で会社に戻ってきた時期は景気が低迷し、宿も厳しい経営環境にありました。そのときから、財務や人事、営業、銀行との交渉といった会社経営者としての権限が、すべて私に委譲されていました。

 そのような状況で、まず財務の見直しなど経営の建て直しから入ったので、当初は宿の特色などは考える余裕がありませんでした。私は旅館の主というよりも、経営者の視点で「無駄を無くしていこう」ということを優先させてきました。最初はお金をかけられなかったので、掃除や清掃を徹底しました。身の回りの整理整頓をやっていくうちに、仕事がスムーズになっていきました。驚いたのは、事務所にあったものの7割ほどがいらないものでした。

 3代目である私は、祖父が作り、父が大きくした会社をしっかりと守りながらも、「新しいかたちにして世に出していく」ことが宿命と考え、さまざまな改善を行っている最中です。

 ――かげつでは、「従業員の働きやすさ」など、労務管理などにも従来型の旅館にはない新しい取り組みをされています。

 横森:私が一番大きく変えたことは、「旅館はこうあるべきだ」といった固定観念です。製造業やサービス業など多種多様な業種の経営者などにお話を聞き、そこからヒントを得ながら、従来型の旅館業のあり方という固定観念を捨てて、さまざまなことに取り組んできました。

 労務管理に関しては、まず「働きたい」と思われる会社を目指しました。社員の気持ちになって、労働時間の短縮や、ローテーション化といった「働きやすい環境づくり」に今も日々取り組んでいます。ローテーションは前もって1カ月先まで基本的なものをつくっておくなどシステム化しています。そして、週に1日くらいは、午前中のみで午後から休みというような、勤務スケジュールも取り入れており、社員は休日以外にも自由な時間が増えることで、宿でのモチベーションアップにつながる取り組みも行っています。

 やはり、かげつで働く社員や取引業者さんに、誇りを持っていただけるような経営をしていくことが目標であり、そして、その先には地域貢献などにも取り組むことによって、地域の皆さんが応援してくれるような宿を目指したいと考えています。

 宮下:これからの旅館は地元の若い人たちに「あの旅館で働きたい」と思われ、雇用していくことが非常に大きなポイントになっていくと思います。KUKUNAのすべての根底にある考えは、「ES」(従業員満足)です。「CS」(顧客満足)を高めるにはさまざまな手法があると思うのですが、やはり「従業員の満足度を上げる」ことが一番基本にあると思います。それによって旅館業界の価値観や、地位の向上にもつながると考えています。

 私はその中で大きく3つのことを実行しています。

 1つは、会社としてしっかりとした基本理念を常に示しながら、社員が一丸となってテーマを考えます。私はハワイのリッツカールトン・カパルアで働いていたときに、「クレド」というものに強いインパクトを受け、その経験からKUKUNAを立ち上げたときに参考にしました。育ちも感性も違う従業員が、一語一語考えて提出したテーマをカードにして身に付ける。これに基づいて経営者も従業員も心を一つにしていくことを大切にしています。2つ目は、社員全員に7段階の決済権を与えていることです。これは仕事のやりがいは“社員全員の経営者意識”がとても大切だという考え方に基づいています。3つ目は、地元のスタッフを極力採用すること。インバウンドの拡大などグローバル化するなかで、旅行者は訪れた地域の人との触れ合いの中で、ローカルな話が聞きたいものです。富士山の麓で生まれ育った地元の人は、マニュアルどおりの受け答え以上の楽しい話ができると信じています。8割を地元のスタッフでそろえるのが目標です。

「人情あふれる行き届いた日本の宿に――渡辺氏」

 ――「若草の宿 丸栄」ではどのような人材教育をされていますか。

 渡辺:「人(お客様)が人(従業員)に癒される宿」をサービスのコンセプトにしています。

 旅館というサービス業では、身だしなみや所作、言葉遣いの美しさ、笑顔の清々しさなどの基本が自然にできるのが当たり前だと考えています。しかしながら、その当たり前のことができるように育てるまでには、大変なトレーニングが必要です。感性の問題や、生まれ育った環境もあります。そして、次の段階では、自ら考えて動ける人を何人育てていけるかが勝負だと思います。

 私が大学時代に演劇を専攻していたこともあって、お客様が宿にチェックイン(開演)してからチェックアウト(カーテンコール)までの間に、従業員(役者)はマニュアル(台本)をベースに、お客様を満足させるサービス(アドリブ)ができる、臨機応変の対応能力を育てていくことを目標にしています。

 毎年4月の新人研修では、入社日から1週間は全員で清掃の仕事をやります。それによって館内の倉庫やパントリーなどのバックヤードの仕組みを覚えることができます。次の1週間はフロント係ならばそれ以外の部署で、お皿洗いや布団敷きなどあらゆる仕事を経験させます。2週間の基礎研修を終えると、次は客室係の研修です。これは、部屋割をする際も、仕事配分が理解でき、いざというときにはあらゆる部署のスタッフが応援できる体制をつくるためです。その後、5月中ごろから、それぞれの部署に入っていきます。この仲居研修のなかで、正座の状態での前後左右の動きやお盆を持ってから立つ、座ってから置くといった所作、立居振る舞いを徹底的に仕込む教育訓練を行っています。

 宮下:「丸栄」さんのような純日本旅館では、お客様がそのようなサービスを求めてきますので、社員教育も徹底されていると思います。一方、KUKUNAでは、「いかにお客様に気を使わない旅館をつくるか」がベースにあり正反対のスタイルを考えております。ただ、お客様が求めてきたときには、120%の応対をするように指示しています。

 KUKUNAでは、従業員の満足を最も大切にし、次に大切にするのが協力業者さん、その結果がお客様の満足につながればと考えます。経営幹部には「お客様に感謝されるために、まず社員の満足を考えなさい」と言っています。この順番だけは間違えないように徹底しています。しかし、この考え方には中小零細の旅館経営に一つ足りないことが気づきました。それは多くの旅館は家業であり、企業である欧米のホテルとは決定的に違う部分があります。

 我われが最初に考えなければならないのは、自分の家族を一番大切にすることです。社長と女将、先代と若旦那が違うことを言っていたのでは社員は困惑してしまう。これが旅館の家業の難しさでもあります。私自身できるだけ家族全員で食事をするように、いつも心掛けています。

 ――宿の個性化について。

 宮下:宿の個性というのは、生まれて育った環境やさまざまな人たちと出会う中で、自分の内から出てくるもので、本当に自分がやりたいことが宿の個性化につながっていくのだと思います。

 私もKUKUNAを立ち上げるときに、「周りの和風旅館のように安全に基本ベースを合わせようか?」と悩みました。だけど個性とは、自分自身なのです。これだったら一生自分も楽しんで続けられるというのがKUKUNAなのです。周りからは「個性豊かだね」などといわれますが、自分自身が飽きずに、自分らしくやっていることが結果としてオンリーワンになってゆくのだと思います。自分自身というキャラクターは、世界に1人だから……。

 渡辺:宿の個性とは、言い換えれば、経営者の「魂」ですね。自分の嫌なことは続けられない。好きな道を究めることも苦しいですが、好きな仕事だからこそ耐えられる喜びもあります。

 丸栄では、夕食後のひとときに行う紙芝居があります。今では、年間100日ほど上演する私の紙芝居を定期的に見てくださるための会もできました。父親が団体旅行華やかなりし頃、宿としての特色を出そうと、さまざまな舞台を演出していましたが、毎回芸人さんを頼んでいるとお金がかかるので、自分で音楽の好きな仲間を集めて楽団でボーカルや、ギターを弾いたりしていました。祖母も踊りの名取でした。しかし、宴会で古典の舞踊を舞っても酔ったお客様には喜ばれないことに気が付き、演歌の名曲に合わせて踊っていました。私も小さな頃から舞台で歌い、演じてきました。その経験がベースにあるため、芸能を通じてふるさとを感じてもらいたいという気持ちが強くあります。ですから、高級な宿を目指しているわけではなく、馴染みのお客様同士がロビーで擦れ違うときに声を掛け合うような人情あふれる宿を理想としています。同時に、清潔な施設でサービスも行き届いて、美味しい料理も楽しめる日本の宿を目指しています。

 今の時代は、おじいちゃん、おばあちゃんから孫まで家族全員が一つのものを楽しむことが少なくなっていますが、紙芝居や童謡だったら一緒に物語を楽しめたり、手拍子を合わせたりできるので、旅館という舞台で世代を超えて楽しめる場を提供したいと思っています。次なる夢としては、詩の朗読など「表現をしたい」と思うお客様に、表現できる機会と場を提供し、お客様同士がコミュニティーを広げていけるような宿づくりを考えています。

 ――かげつはいち早く発光ダイオード(LED)照明を導入し、大幅なコスト削減を実現しています。

 横森:LED照明を導入したのもそうですが、情報を早く掴み、取り入れる進取性のメリットは、アドバンテージを取れるところにあります。LED照明の導入で年間約1千万円の光熱費の削減が可能で、初期投資も3年で返還できる見込みです。

 私は「企業家でありたい」という考え方で、これからもかげつの経営の枠だけに納まらず、もっと広い視野を持って色々な事業に挑戦したいと思っています。  企業としてかげつを成功させることを第1ステップとして、次の第2ステップでは、旅館とはまったく別のフィールドかもしれませんが、思い切ったチャレンジをしていきたいと考えています。幹部に別会社の社長を任せるようなビジョンも持っています。常にステップアップを考えながら、旅館だけの情報ではなく、全方面へアンテナを張り巡らし、取り入れていきたいと考えています。そして、成功した事例を、今度は旅館業界全体に広めていけるようなポジションにいたいと思います。

  宮下:KUKUNA改修工事の施設面で私が一番力を入れたのがバックヤードの充実です。今回のリニューアルで見事に実現できたのですが、お客様の廊下と同じくらい、バックヤードの廊下があります。玄関から9階のお風呂までお客様に一度も会わずにどこにでも行けるようにしています。だから、時折廊下でお客様に「スタッフの方が、あまりいないですね?」といわれます。バックヤードから表舞台に出る箇所は30カ所ほどありますが、そこには「笑顔で」などの言葉を書いていました。表舞台の笑顔を四六時中続けるのは不可能なので、バックヤードは従業員が少し気を抜く空間として、旅館にはとても大事だと思います。今後、改装を考えている旅館に参考になればと思います。

 ――山梨観光の活性化に向けての取り組みは。

 宮下:グローバルな視点から見たときに、抜群の知名度がある富士山と絡めることが重要ですが、何よりも「山梨」というブランド力が必要だと思います。京都や沖縄、北海道には行ってみたいと思っても、現状の山梨には「行ってみたい」と思わせるドキドキ感が少し足りないような気がします。

 山梨県は「観光立県」に向けて、県からのさまざまなバックアップによる追い風も吹いており、河口湖や石和も含めて、県内全体でレベルアップし、ブランド化していかなければならないと思います。これからの狙いは、FITとWEBの集客拡大ですが、今一番大切に思っているのが、地元のリピーター客です。地元のお客様は最大の味方。地元・山梨のお客様に気に入ってもらうことも、とても大事なことです。

 渡辺:山梨は小さな県だからこそ、全体を「一つの庭」と考えて、山梨のさまざまな特産物やフルーツ、甲州ワイン、食材を取り入れた料理を提供していくことが大切だと思います。3月27日には、石和温泉のある笛吹市と富士河口湖町を結ぶ若彦トンネルが開通し、まさに面として新たな観光魅力を提供していくことが大変重要になると思います。

 横森:そうですね。石和温泉は東京から1時間ちょっとという“地の利”は今後も生かしていかなければならないと思いますが、石和温泉単独の特色で生き残っていくことは難しいと思います。やはり世界的知名度を持つ富士山を、石和温泉も一つの財産と考える「グローバルな視点」を持って、河口湖や、県全体で連携し協力して、山梨の活性化につなげていきたいと思います。

 宮下:山梨百名山の八ヶ岳や、世界に誇れる南アルプスもあり、素晴らしい山に恵まれている。これをもっと売りにしていく努力が必要です。一方で、地元・甲州ワインについても、もう少し勉強が必要だと思います。夕食には幾つもワインをチョイスできるようにしたり、うんちくも語れるような、「エンターテイメント性」を高めたワインの出し方が求められているはずです。伝達力や演出力を高めていくことも、我われ旅館の今後の大きな課題だと思います。そしてお客様が何度かリピートして訪れるうちに、「将来はここに住みたい」と思っていただけるレベルにまで、それぞれの地域が磨き合うことを最終的な目標としていきたいですね。

 ――ありがとうございました。