2024年7月7日(日) 配信
今回の旅先は、京都市東山区にある臨済宗建仁寺派の大本山の寺院である、建仁寺とその塔頭寺院である禅居庵です。京情緒にあふれる祇園にたたずむ建仁寺は、とても清々しく、静謐な空気感に包まれた庭園やアートなど、魅力的な見どころも多数あり、時が経つのを忘れてしまうほど、居心地が抜群です。
建仁寺は鎌倉幕府の寺域寄進により、1202年に開かれ、800年以上の歴史を持つ、京都最古と伝わっている禅寺。開山した栄西禅師は、中国で仏教を学んだ優秀なエリート僧侶。「禅」と「お茶」を日本に持ち運び、普及することに努めました。
さて、話は変わりますが、禅には「きめ細やかな日常の過ごし方が、心のあり方を決める」という考え方があります。まず、やるべきことはお掃除であり、信心はその後でよいというのです。「一掃除、二信心」という禅語もあります。信心とは、信仰して祈ることを指しますので、仏教よりもお掃除を優先すべきということになります。
しかし、禅宗においては、生活そのものが仏教の一部とされ、仏様にお祈りすることと、身の回りをキレイにしておくことは、同じくらい重要なことだそうです。仏道では「お掃除は、心を磨く修行」とされています。
寺院に行くと清浄な境地になれるのは、このお掃除の力も大きいのではないでしょうか。建仁寺の本坊で受付を済ましますと、入ってすぐにあるのが国宝の「風神雷神図屏風」。こちらは複製なので、写真撮影が可能。原本は、京都国立博物館に寄託されています。俵屋宗達の晩年の最高傑作といわれています。
建仁寺には、数々の庭園の凛とした美しさにも魅了されます。写真にあるのは、「〇△□乃庭」です。単純な3つの図形は、宇宙の根源的形態を表し、禅宗の4大思想(地水火風)を象徴したもので、地(□)は手前の井戸、水(〇)は庭の中心の苔、火(△)は奥の白砂を表しているとのこと。アートのようなこの庭は、2006年に作庭家の北山安夫氏が作庭しました。
そのほかにも、建仁寺は壮大な美術館のように、先にご紹介しました「風神雷神図屏風」や重要文化財「障壁画雲竜図」をはじめ、「竹林七賢図」や「山水図」など、間近で鑑賞できます。法堂には、ご本尊の釈迦如来坐像が安置され、天井には02年に創建800年を記念し、小泉淳氏作「双龍図」が描かれました。2頭の「阿吽」の龍が絡み合うように描かれた天井画は、畳108枚の大きさで迫力に満ちた存在感を放っています。水を司る神様である龍を描くことで、火災から建物を守るという意味も込められているそうです。
建仁寺塔頭の禅居庵は、「摩利支天堂」とも呼ばれています。この摩利支天堂は、日本三大摩利支天の1つ。摩利支天とは陽炎が神格化した、仏教の守護神・古代インドの女神マーリーチのこと。摩利支天は陽炎のように、とらえようのない実体で、進路を邪魔されずに光の速さで突き進むとされています。前田利家、毛利元就、楠木正成など、ときの武将なども摩利支天を信仰していました。
ここぞというときに開運させて、その人本来の能力を発揮してくれるそうで、多くの受験生やスポーツ選手たちも参拝されているようです。
境内には、狛猪をはじめとして数多くの猪の像や彫刻があります。なぜ、猪が多いかといえば、猪が摩利支天のお使いとされているからです。摩利支天像も7匹の猪の上に乗り、亥年生まれの人の守護神として信仰されています。亥年生まれの人は、とくに「亥の日」にお参りするといいとのこと。
アクセスは、祇園四条駅から、徒歩5分程度。
■旅人・執筆 石井 亜由美
カラーセラピスト&心の旅研究家。和歌山大学、東洋大学国際観光学部講師を歴任。グリーフセラピー(悲しみのケア)や巡礼、色彩心理学などを研究。