「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(202)」 コットンロード有松の新たな試み( 愛知県名古屋市)
2021年11月28日(日) 配信
有松と言えば、直ちに有松絞りが想起されよう。まさに日本を代表する染め絞りである。布の一部を縛り、圧力を掛け、染料が染み込まないようにして模様をつくる独特の染め技法のことである。
江戸時代初期、有松は松林が茂る荒野であった。しかし、1608(慶長13)年、尾張藩は東海道鳴海宿と池鯉鮒(ちりゅう)宿の間に新たに有松を開き、有松絞りを特産品として保護。東海道を往来する旅人に土産物として販売するよう奨励した。以来、街道の名産品となり有松の町の基礎が築かれた。そのようすは葛飾北斎や歌川広重らの浮世絵にもしばしば描写されるほどに有名となった。
明治以降の鉄道普及などにより、東海道の往来が大きく減ったことなどから一時、著しく衰退したが、その後、新たな意匠や製法の開発、卸売販売への業態転換などによって再興し、明治後期から昭和初期にかけて大きく繁栄した。
東海道沿いに、今なお豪壮な絞商の主屋をはじめとする数多くの伝統的な建物が残り、江戸時代を彷彿とさせる古い町並みが残っている。その町並み保存の歴史は古く、1974年に、妻籠・今井町とともに「全国町並み保存連盟」が発足、日本における町並み保存運動の発祥の地ともなった。
ゆるやかに曲がった東海道約800メートルの区間に、広い間口を持つ絞商の主屋が並び、統一感のある町並みとなっている。この町並みが2014年、「重要伝統的建造物群保存地区」に選定された。さらに、19年には「江戸時代の情緒に触れる絞りの産地~藍染が風にゆれる町有松~」として日本遺産にも認定された。日本遺産認定には、有松絞りの基礎を築いた竹田庄九郎さんを祖とする竹田嘉兵衛商店の竹田会長や、絞り問屋服部家(井筒屋)の服部会長らのご尽力があった。
そんななか、有松は本年度の観光庁「域内連携促進実証事業」に採択され、筆者もその関係で有松を訪ねた。事業テーマは「コットンロードから始まる有松絞400年の旅」である。有松の原材料の木綿は、古くから知多産の白生地が用いられた。とりわけ木綿の生産・集積地であった知多市岡田地区は、有松とは深いつながりをもっていた。また生地の晒しは伊勢や松阪で、製品の販売先は主に江戸(東京)という販路である。こうした歴史を再編集して新たな付加価値の高い製品や旅を創出しようという試みである。
事業リーダーは、有松の重伝建地区の古民家を再生してゲストハウス「MADO」を営む大島さんご夫妻である。彼のもとには異分野の若手事業者が集い、新たな仕掛けを次々と試みている。
古い町並みの保全と活用、伝統の継承と再生には大きな苦労が伴う。だからこそ、常に新たな事業創造や革新が不可欠である。有松の新たな試みを大きな期待をもって見守っていきたい。