次世代の宿泊施設の一方向性 ― “アフリカ的”の日本的な解釈へ
現在の旅館が最も重視しているのが「接客、おもてなし」とすれば、次のパラダイムは「意識的に接客しない『空間の価値』ではないか」と、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏は語った。これは7月9、10日に東京都内で開かれた「科学的旅館・ホテル経営フォーラム」の一コマである。
内藤氏は「お客が感じているのに、旅館がまだ気づいていない新しい価値が出てきている」と指摘する。「宿の元々の価値は寝る場所を提供する『施設』。これに、『料理』が加わり料亭的なオペレーションが入ってくる。最近は『接客、おもてなし』が注目されているが、最先端を走る幾つかの旅館では、『空間の価値』を重要視し、『目尻では見ているけど、お客様に声を掛けられるまで何もしない』という姿勢が増えてきている」として、大洗の里海邸金波楼本邸や、日田市のホテル風早、能登半島の“いたらない、つくせない宿”を謳う「湯宿さか本」などの例を挙げた。
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一方で、「接客、おもてなし」の力のすごさを感じたフォーラムだった。内藤氏も「ニーズが多様化するなかで、お客様に『お聞きする』ことでムダがなくなる。接客、おもてなしの力を軽んじないほうがいい」と強調した。
ビジネスホテル「ホテルナンカイ倉敷」は立地条件に恵まれないなかで、多くのリピーターやファンを獲得している。表面的には違いが見えなくとも、細部へのこだわりが顧客の心を掴む一つの例である。宿泊客は水島コンビナートで定期修理をする長期出張者が多いなかで、「お客様がテーブルで取りづらい調味料があれば、さっとお手元に近づけて差し上げます」という田中正子支配人の言葉に涙が出そうになるのである。数々の店で食事をし、宿にも泊まったが、取りづらい調味料を手元に近づけてくれた店はほんのわずかだ。これはホテルナンカイ倉敷の末端のおもてなしであるが、同時に全体を表している。旅行新聞新社が発刊した「いい旅館にしよう!」の中にもさまざまなエピソードが語られている。
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台風の影響でフォーラムに急きょ参加できなくなった鹿児島県・南きりしま温泉の天空の森の主人、田島健夫氏は「天空の森は人間性を回復する場所。人間も自然の中の一つであり、建物も自然と調和している。欧州の人からは“アフリカ的”だと言われたりします」と語っていたのが強く印象に残っていた。天空の森も「空間の価値」を重要視する極北であろう。
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そこで、再び、“アフリカ的”という言葉が頭に鳴り響く。私はアフリカに行ったことがないので、あくまでも想像の域を出ないが、私なりの解釈をすると、“アフリカ的”という表現は、「大地との密接な関係」のことではないかと考える。快適性を追求する都市生活者は、ますます大地の「土」から離れゆく。しかし、極限まで離れ過ぎると、「もっと大地に近づきたい」という動物としての本能が疼いてくる。
近い将来、都市生活者は休息を求めるとき、高層ビルから一段、さらにもう一段、降りていき、大地と抱き合う、密接な関係が築けるリゾート空間を今以上に渇望するだろう。“アフリカ的”というキーワードが、今後日本的に解釈され、これまでになかった交配によって、新たな価値観を創出するのではないか。
(編集長・増田 剛)