「観光革命」地球規模の構造的変化(241) COP26と観光の未来
2021年12月6日(月) 配信
英国のグラスゴーで開催されていたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が11月13日に閉会した。国連気候変動枠組条約は1992年に採択された国際条約で、現在の条約締約国は197カ国・地域。条約の目的は大気中の温室効果ガス濃度の安定。95年にドイツで第1回のCOPが開催され、ほぼ毎年1回開催されている。
今回のCOP26では石炭火力発電の段階的廃止が主要テーマで、議長国の英国は「化石燃料への補助金や石炭の段階的廃止の加速」を締約国に求める合意文書の草案を公表し、議論がまとまりかけていたが、採択直前にインドや中国などが「脱石炭」をめぐって反発し、最終的に「段階的な廃止(Phase out)」から「段階的な削減(Phase down)」へと表現が弱められた。
COPは197カ国・地域が参加する大規模な国際会議であり、各国・地域の思惑が異なるために「脱石炭」のように世界的合意の形成は容易ではない。例えば、日本政府は「石炭からの脱却」、「化石燃料事業への公的融資の廃止」、「40年までに新車の排ガスをゼロにする」などの個別取り決めには署名していない。とはいえCOP26では「気温上昇を1・5度までに抑制する」や「世界の温室効果ガス排出を30年までに45%削減し、50年までにゼロにする必要のあること」などが合意されている。
現在、世界的に「グリーンリカバリー」が共通の目標になりつつある。直訳すると「緑の復興」であるが、コロナ禍からの復興に当たって「地球温暖化の防止」や「生物多様性の保全」などを推進することでより良い未来を目指す動きである。EUは既に「欧州グリーンディール政策」を公表して脱炭素化やグリーン経済の実現などを目指している。米国のバイデン大統領は200兆円を諸々のグリーンリカバリーに公共投資して35年までに電力の脱炭素化を目指そうとしている。北欧諸国やカナダなどはまさに「グリーンリカバリー先進国」として実績を上げている。
世界的な気候変動の今後の行方は、旅行・観光産業にとって存立基盤を危うくしかねない最重要課題である。世界の動きを注視しながら、業界として効果的なグリーンリカバリーとの向き合い方を検討する必要がある。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。