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「観光人文学への遡航(18)」 ホスピタリティを人文学から捉える試み

2021年12月12日
編集部

2021年12月12日(日) 配信

 
 色々あった2021年も終わりを告げつつあるが、中でも東京オリパラのぐだぐだは、日本の劣化を象徴した出来事だった。思えば、東京開催が決定してからすぐエンブレムの盗作問題が持ち上がり、当初からぐだぐだ状態でスタートしていた。

 
 さらに遡って、誘致の段階では、滝川クリステル氏の「お・も・て・な・し」が話題となったが、この演説で「おもてなし」が過大評価をされすぎてしまったように感じる。日本のおもてなしは世界最高だと根拠のない自信を持ってしまい、果たして本当におもてなしが最高のホスピタリティなのかということを検証もせずに神話のように信じ切ってしまっている。

 
 以前このコラムで、カントのホスピタリティ論に触れた。カントのホスピタリティは「心からのおもてなし」「感動のサービス」「博愛精神」といった情緒的な概念ではなく、お互いが友好的な関係を構築する前提として認められるべき権利として捉えられている。

 
 ちなみに、ホスピタリティの語源は、ラテン語のhospesであり、この語から派生した語には、hospitalやhostだけでなく、hostile(敵)という語も出てきていることからも、来訪者との関係性の構築という概念が当初のホスピタリティの持つ意味であった。

 
 カントのホスピタリティ論は、情緒的なおもてなし論を超えて、対人間の関係性の構築であることを私たちに知らせてくれている。この関係性の構築という点からホスピタリティを紐解いていくと、私たち日本人が世界一と信じて疑っていない「おもてなし」が、案外表面的であるということがわかってくる。

 
 22年からは、人文学の分野からホスピタリティを紐解いていく。これを私の次のライフワークにしていくと決めた。というのが、このコロナ禍で多くの観光従事者がこの世界を去った。去った人々は、機会があれば戻りたいと思っている人もいるし、もう戻りたくないと思っている人もいる。戻りたくないと思っている人はホスピタリティ疲れを訴えている。

 
 学界では、肉体労働、頭脳労働に加えて感情労働という第3の労働形態として、感情をすり減らして稼いでいるという見方をしている学説がある。ただ、本当に観光従事者はみな感情をすり減らしているのだろうか。最前線を知らない学者ほどこの学説を支持する。しかし、最前線では、まったくすり減らすことなく、この仕事を天職としてまっとうしている人も多く存在する。

 
 観光産業が人の感情をすり減らすようでは、コロナ禍が収束しても人は戻ってこない。すり減らさない生き方とはどういうものかを人文学の見地から検証する。コロナ禍が収まり、多くの笑顔であふれる観光地が復活するためにも、観光従事者の心のありようを今のうちに考えておきたい。

 

コラムニスト紹介 

島川 崇 氏

神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏

1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。日本国際観光学会会長。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。

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「「観光人文学への遡航(18)」 ホスピタリティを人文学から捉える試み」への2件のフィードバック

  1. この度も「お説ごもっとも」でございました。以前NHKのBSでライン川の船旅に参加している日本の中年夫婦を見ました。ヨーロッパ人の他人を受け入れるゆったりした観光風情に比べて、現地の観光客と目も合わせられないセコセコとした態度の違いにがっかりしました。ホスピタリティの歴史が違います。日本の地政学的な成り立ちに由来する国民性かとは思うのですが、いつになったら海外の方とフランクなお付き合いが出来るのでしょうか。

  2. 私もおもてなしということばは好きになれません。何やら反対給付を期待するにおいがするからです。これは実は今回のコラムにある感情労働という、感情をすり減らして稼いでいるという学説にも関係してきます。つまり先ほどの「反対給付を期待して」ではないですが、どこか自分の感情を殺してその分客におもねる接客態度があるからではないでしょうか。それでは疲れますよね。ヒルトンのクレドにあるように、客と接遇側は基本的に対等な地位でないと品位のある接遇は出来ないと思います。サービスと対価は釣り合っており、どちらが上とかではないのです。
    ただ日本人は三つ指ついておもてなすのが最高だと思っていますから、むずかしいところです。

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