「街のデッサン(249)」 「人生ありがとうアワード」構想、国民皆旅行立国と動態経済の創造
2022年1月2日(日) 配信
昨年の夏、私事になるが大病を体験した。築地の国立がんセンターで主治医に「このままですと余命半年」とご宣託を受け、胃のほとんどを切除したのだ。初めての経験、当初は仰天した。しかしすぐに考えを変えた。2週間ほどの入院予定、これは人生のご褒美、リゾート地への休養旅と考え初体験を楽しもうと考えたのだ。
築地の立派なホスピタル(病院)はまさに高級ホテル。思い切ってホテルのスイートに見紛う13階の海に面した個室を押さえると、読み込みたかった本20冊と新調パジャマを携え凱旋した。7月末で東京五輪の最中、東京湾岸には競技施設が集中し熱き競技が行われているが、13階は静寂に満ちた別世界。7月28日、8時間にわたる執刀は名医のお陰で成功裡に終わり、その後は13階ロビーの美しい港の風景を楽しむ遊歩と読書三昧。国立ホスピタルはまさに高級リゾートホテルで、美人看護師に大切に介抱され望んだ以上の充実した時間を享受した。
そこでの先端医療システムはホスピタリティに満ち、辛い病院生活とは無縁の愉楽ライフの発想転換で、自然に幾つもの構想が浮かんできた。その中の一つが「人生ありがとうアワード」だった。
この構想の最大のポイントは、日本国民一人ひとりが人生の中で頑張って生きてきたことに対するアワード(ご褒美)がなんと政府から頂ける、というもの。コロナ禍、観光業界はGo Toトラベル制度が施行され、苦しむ中小のホテル・旅館や土産屋などが随分助かった。しかし問題も生まれた。制度終了後の価格破壊や、業界全体の本質的なイノベーションを阻害するなどということだ。このアワードはGo Toに対して、何割補助ではなく、生涯に一度か複数回(予算枠による)自分で行きたい目的地の旅行企画を立て、その費用を10~30万円まで、期間は1~3週間まで全面政府負担で実行できるアワード(お祝い)である。
当然旅の企画内容が大切になるが、その相談は観光庁や自治体、旅行会社などが行い、関係機関で了解されたものにご褒美が提供される。若者たちへの10万円給付金の実施が進められているが、アワードでの旅行費用は貯蓄に回されることなく、給付された金額すべてが消費され地域の観光業界だけでなく飲食や交通、教育、地場産業関連会社に波及する経済効果は大となろう。世界で初の政府による国民皆旅行アワード事業制度は、真の観光立国の確立だけでなしに、経済や地域社会の動態化を生み出し、期待される新資本主義の柱となるだろう。
コラムニスト紹介
エッセイスト 望月 照彦 氏
若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。