「観光革命」地球規模の構造的変化(242) 暮らしと命の輝く国
2021年12月23日(木) 配信
「1年の計は元旦にあり」と言われるが、もう少し長い「近未来の計」を考えることも重要である。実は高齢化率(65歳以上の比率)で見ると、日本は既に「ダントツの世界一」だ。1990年の高齢化率は12・1%だったが、2021年は29・1%、40年には35・3%と推計されている。21年の第2位はイタリアで23・6%、続いてポルトガル23・1%、フィンランド23・0%の順だ。
一方で生産年齢(15~64歳)人口は1995年をピークに減少し続けており、2015年に7728万人で、40年には約6000万人と推計されている。要するに高齢者は今後も増え続けるが、生産年齢人口は減り続けるために安倍政権の下では「人生100年時代」が強調され、高齢者も働けるかぎり働き続けることが奨励された。現に04年以降、高齢の就業者が17年連続で増え続けており、20年には過去最多の906万人になっている。
日本は「世界一の長寿国」ではあるが、長生きすることによって本当に高齢者が幸せに暮らせているかというと必ずしもそうではない。コロナ禍のなかで高齢者と密接に関わるエッセンシャルワーカーに対する国民の意識が高まった。エッセンシャルワーカーとは人間の生命や暮らしを守るのに欠かせない「必要不可欠の仕事を担う人々」を意味している。
具体的には医療・介護・保育従事者、生活必需品を扱う店員、物流を担う人々、公共交通機関の従事者、生活廃棄物を回収するゴミ収集員など。コロナ禍を通して、いかに為政者が「観光立国」と叫んでも、市井に生きる人々は先ず自分たちの日々の暮らしや命に直結する諸課題の解決が最優先と感じている。
小泉政権・安倍政権・菅政権が推進してきたグローバル化と観光国富論に立脚する「観光の量的拡大」を意図したインバウンド観光立国政策はもはや現実的ではない。ポストコロナの日本では「観光の質的向上」を意図したバランスのとれた観光立国政策への転換が必要になる。各地域の民産官学の協働によって地域資源の持続可能な活用をはかり、地域主導による自律的観光の推進が不可欠だ。
今後の日本は厳しい少子高齢化を視野に入れて、ポストコロナに相応しい「暮らしと命の輝く国づくり、地域づくり、人そだて」を目指すべきであろう。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。