食を堅守 ― 今より豊かな観光立国の姿に
賞味期限切れの肉を供給していた中国の食肉加工工場の映像は衝撃的だった。流通されていたハンバーガーショップやコンビニエンスストアはあまりに身近な存在であり、今後拡大される食品流通のグローバル化を考えると、食の危険性が高まっていることを感じる。
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約1カ月間におよぶサッカーワールドカップブラジル大会が終わった。日本は残念ながらグループリーグで敗退したが、世界の強豪国と言われる国同士が対決する試合は激しく、見応えがあった。サッカーの醍醐味の一つに相手の守備陣を切り崩す華麗な組織的なパスワークや、天才と呼ばれる選手の誰にも真似できない神業的な個人技による得点シーンがあるだろう。そして上位に勝ち上がる国には、“ワールドクラス”と評されるフォワードが存在する。
今回のワールドカップでも幾つかの華麗で、神業のようなゴールに目を奪われた。しかし、それよりも深く、胸が揺さぶられたのは、ディフェンダーやゴールキーパーたちの献身的な守備であった。守備陣だけではない。攻撃的な役割が大きいフォワードやミッドフィルダーたちの身を張った守る姿勢が良かった。今大会の日本の守備は強固だったとは言えない。オールスター戦や、チャリティーマッチなら「ノーガードの打ち合い」は面白い。しかし、勝敗が最優先のW杯では堅守でなければ勝ち上がることはほぼ不可能だ。つまり、堅守が前提にあり、そのうえで堅守を破る華麗なパスワークや、神業的な個人技が必要なのだが、日本にはW杯で戦うための最低条件である「堅守」が備わっていなかった。
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かつて日本の自治体は産業の誘致に熱心だった。しかし、産業の誘致もリスクが大きい。工場ができても、より人件費などのコストが安い中国や東南アジアに移転したり、国際競争で敗北すれば、工場の規模縮小や閉鎖なども行われる。その後、多くの自治体の首長は観光による地域振興の大切さに気づき、今では観光客誘致に熱心ではない自治体を探す方が難しい。
バブル期には、巨額の予算を投入して観光客誘致を看板に「トンデモナイ」ものを作り、財政が破綻してしまう自治体も見られたが、今は大規模なテーマパークなどを作る予算の余裕もなく、むしろ地元で採れる果物や野菜、米などの農産物や魚介類などのブランド化に取り組み、観光客誘致につなげようと努力している。地に根差したこの動きを歓迎したい。
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TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉の成り行きによっては、今後食のグローバル化が一気に加速するだろう。今以上に日常的にスーパーや外食チェーン、食卓に、目の届かない海外からの加工品などが並ぶ。日本国内の食料自給率はカロリーベースで40%弱という状況がどのように変化していくのか。
産業の輸出に関しては、日本は“ワールドクラス”であるが、食料自給という「守備」は堅く守られているだろうか。産業の輸出と合わせて、日本の食を守る農業、漁業、水質資源を「堅守」することも必要だと思う。文化高きフランスも農業国である。ワインも美味しい。日本の多くの知事や市町村長がもっと、「農業立県」「農業立市」と胸を張ってアピールするようになってほしい。そのときには、日本も今より豊かな観光立国の姿に近づいているのではないか。
(編集長・増田 剛)