【特集No.600】「女将さんのこころ その三」発刊 おもてなしは“双方向”で温もり
2022年1月14日(金) 配信
旅行新聞新社は2021年12月1日に書籍「おもてなしの原点 女将さんのこころ その三」を発刊した。「その一」「その二」から6年。コロナ禍で困難な経営環境にありながら、さまざまな創意工夫によって乗り越えてきた55人の旅館女将の人生が盛り込まれている。著者の瀬戸川礼子氏にインタビューし、SNS時代の旅館女将は「等身大」で、素のままの自分を発信していくことの大切さなどを語っていただいた。
【増田 剛】
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――「女将さんのこころ その三」の発刊に向けて準備を始めたころ、新型コロナウイルス感染症が拡大しました。
書籍化に際し、再度取材を行いましたが、今回のコロナによって旅館の状況は変わりました。
コロナへの対応については、55人の女将さん全員に聞いています。現在進行形として高い関心を持たれるテーマですし、「このコロナをどのように捉え、対応をしたのか」は、現役の方はもちろん後継者の方々にとっても、物事の捉え方や危機管理の面から参考になるだろうと考えました。
取材するなかで「これは後世に記録として残すべきだ」と、私自身、使命感のようなものを強く感じました。
――2011年に発生した東日本大震災後の対応も、貴重な資料となっています。再取材するなかで、感じた印象は。
「普段は忙し過ぎてゆっくりと考える時間はなかったけれど、自分と向き合って考える時間が増えた」という声が多かったのが印象的でした。
「これまで毎日お越しになられるお客様との対応を考えることで精一杯でしたが、1週間、1カ月、1年先の経営のことを考えるようになりました」という女将さんも少なくなかったです。
「旅館がなくても人は生きていける。それでも『旅館は必要なのだ』と感じました」と語る女将さんもいて、コロナ禍では旅館業の存在意義や存在価値について深く考える機会が増えたと思います。大変な時期を辛さだけに終わらせず、糧にされている。皆さん感謝の心を忘れず、考え方をより深く、明確にされていて感銘を受けました。
小さなお子さんのいらっしゃる女将さんは、「毎日家族で食事ができる状況は、うれしくも不思議な感覚です」と話されていました。
当然、経営的に厳しい環境ですが、前向きに捉える女将さんが多かったことに、たくましさを感じました。
――本紙連載「女将のこえ」の取材は21年間、それ以前からも旅館女将の取材を続けてこられた瀬戸川さんから見て、旅館女将の役割や考え方なども時代とともに変化がありますか。
今回登場いただいた55人の女将さんの中には、代表取締役社長が11人います。また、肩書は女将でも実質経営者の方を含むと、社長は3割を超えています。
女将さんの取材を始めた当時は、「経営に関しては社長に任せています。自分はおもてなし専門です」と話される女将さんが多かったですが、近年は、コンセプトを明確化したり、数字を分析して投資計画を練ったり、女将という役割が以前に比べて、「より経営者に近くなっている」ことを強く感じます。現場の声も生かされています。
――女将が変わると、宿も変わります。
定休日をたくさん設ける旅館が、いい意味で驚くほど増えました。
365日、無休で旅館を開けている姿勢は尊敬に値しますが、一方で、働く社員も宿泊客と同じように大切にして、持続可能な経営に重点を置いている宿が増えていることが特徴的です。
――宿泊業には慢性的な人手不足の問題もあります。
顧客満足は社員満足を上回りません。社員満足が60なら、顧客満足は高くても55です。長期的に見れば、それは明らかです。甘やかせるという意味ではなく、張り合いを持ってもらうという意味で、「働く人の満足が最も大切」なのです。
社員にも休日に旅行をしてもらい、「旅先の旅館でこんなことをしてくれてうれしい」といった、さまざまな経験のなかで「お客様の気持ちになる」ことは、とても大事なことだと思います。……
【全文は、本紙1858号または1月22日(土)以降日経テレコン21でお読みいただけます。】